第46話 水精霊契約計画
翌日。
今日来たのは――――都ファリスの近くにある森である。
深い森ではないけど、魔獣が蔓延っているくらいには森らしい森だ。
ソフィア、エヴァ、アレンに加えて、護衛のミハイルの五人で歩く。
大勢で動くと相手を刺激してしまうかもしれないからだ。
ズザッと草むしりを掻き分ける音が響いて、狼魔獣が飛び出てきた。
エヴァとソフィアが俺を守るように両脇に立ち、ミハイルが飛び出てきた魔獣を一瞬で一刀両断する。
お、おぉ……剣士の本職はすげぇな。
少し怖い思いはしつつも、俺達は森の一番奥へとやってきた。
そこには泉が広がっており、森の上から差し込んだ日差しに照らされて美しく輝いていた。
泉の中央に、ぶくぶくと水玉が集まり始め――――それは現れた。
「あらら~こんなところにお客様なの~?」
ボン! キュッ! ボン!
全身が水色の美しくナイスバディの女性が泉の上に立つ。
どこからどう見ても俺が知っている正真正銘のウンディーネである。
「ウンディーネ様ですよね?」
「そうだよ~うふふ。可愛い男の子が私に何の用かしら?」
「もしよかったら僕に協力してもらえませんか? こちらは、ウンディーネ様がきっと気に入る――――デザートです!」
「……?」
「……?」
「デザート? それがどうしたの?」
「あ……れ? デザート欲しかったりしませんか?」
「全然~?」
う、うそぉおおおおお! うちのウンディーネ様はデザートで釣れたじゃん! どうしてだよ!
「そんなことより、何か私に頼み事があって来たのかしら?」
「そ、そうですね。あっちに大きな街があると思うんですが、地下水を送ってもらいたくて」
「地下水か~。あの街の全土に送れってことよね?」
「はい。そうです」
「ん~」
悩んだウンディーネの口から飛び出たのは、衝撃的な言葉だった。
「無理だわ」
「えっ!? ど、どうしてですか? 何か欲しいものがあるんですか?」
「あ~誤解ないように言っておくと、あんなに広い街の全土に水を送るなんて、ウンディーネの力くらいでは絶対に無理よ。契約とかそういうのじゃなくて物理的に無理なのよ」
「えっ? 物理的に無理……? でもうちの街のウンディーネ様は街全土に送ってますよ?」
「ん~?」
ウンディーネは何かを考え込んだ。
「もしかして、そのウンディーネって、こう……人族でいう、子供みたいなウンディーネ?」
「ですです」
「あ~なるほどね! それはできるわね。だって――――彼女ってウンディーネの中のトップ。君達で言うなら、精霊王だからね」
「ええええ!?」
せ、精霊王!? あの小さなウンディーネが!?
「あら、知らなかったの? 私達精霊は歳を取らないからね。生まれたときからすでに成体なのよね~。でもその中で稀に進化する存在が生まれるの。そういう存在は、人族で言う成体から幼体になってしまうのよね。力がぎゅっと凝縮するとか何とか。あまり詳しくないから説明できないけどね」
「そう……か。困りましたね」
まさか俺が思っていた通りのウンディーネが普通のウンディーネで、うちに力を貸してくれるウンディーネがその上位の存在だったとは思いもしなかった。
もしかして……俺が知らない“ホーリーソード”のクエストがあったのか? 精霊王というクエストなんて見たことも聞いたこともない。
悩んでいても仕方がないが……どうしたものか。うちのウンディーネにお願いするか?
「あ、あの! ウンディーネ様!」
一緒に聞いていたソフィアが手を上げた。
「どうしたの~?」
「あの街の全土に送るのは無理ってことでしたが、仮に真ん中の一か所にだけ送るのは可能ですか?」
一か所にだけ……?
「それなら余裕でできるわ」
「セシル様!」
「よく思い付きましたね! これならエヴァの力と合わせると……解決できそう。さて、ウンディーネ様。その力を貸してくれるのに、何か欲しいものがありますか? 何かできることがあるなら協力します」
「欲しいものね~人族でいう交渉っていうやつね?」
「はい」
「ん~! なら! 契約をしてほしい!」
「契約……? いいんですか?」
「もちろんよ! 契約者は――――そっちの男の子!」
そう言いながらウンディーネが指差したのは――――俺の隣に立つ、アレンだった。
「えっ!? アレンと?」
「うふふ。君。アレンっていうのね~」
アレンも少し驚いたように俺を見つめる。
「アレン。どうだ? 彼女との契約は」
「それがセシル様のためになるのなら、僕は何だってやります」
「もちろんすごく助かるよ」
「でしたら喜んで契約を交わします。ウンディーネ様。よろしくお願いします」
「うふふ~じゃあここに」
泉に不思議な光の道が出来て、その上をアレンが歩いて進む。
水の上を超絶イケメンが歩く様は、見ているだけで胸が高鳴る。
「私はウンディーネ。これから貴方に力を貸すわ」
「ありがとうございます。僕からすることはありますか?」
「何もないわ。貴方との繋がりがあるだけで私達には大きな意味があるもの。これからよろしくね~」
「はい。よろしくお願いします」
そっとアレンを抱きしめたウンディーネの体から黄金色の輝きが放たれる。
「これで契約は成立。地下水をあの街にいつでも送るわ」
どうしてウンディーネがアレンと契約を結んだのかはわからないが……これで全ての役が揃った。
あとは、最後の戦いに向かう。




