第43話 先手
二度目の馬車の旅が始まった。
今回は商売ではなく先遣隊兼挨拶の旅なので、護衛が多い。しかもシェイル護衛団や自警団ではなく、正規の王国兵士団だ。
リーダーは、副団長のミハイルという若い男性で、アレン曰く、とんでもなく強いらしい。
そんな俺を乗せた馬車内は――――
右を向く。
キラキラ~。
左を向く。
キラキラ~。
前を向く。
キラキラ~。
「はあ……」
「「「「セシル様!? どこか痛いですか?」」」」
全員が一斉に俺に声をかけてくれる。
「いや、何でもない」
何でもなくねぇえええええ!
右を向くと超絶イケメン少年のアレンが輝いており、左を向くと美少女アリスが輝いており、前を向くとスーパー美少女ソフィアとエヴァがこれでもかってくらい輝いている。
つまり、馬車内はもう光に満ちている。物理的にもなんか光り輝いているし、いい匂いがする。
俺みたいなおっさんがいていい世界じゃないのは重々承知だけど……さすがに別馬車がいいとは言えなかった。一応体はセシルちゃん(10歳)だから。
それにしても……改めてみると、婚約者でもあるソフィア……めちゃくちゃ可愛いよな。
“ホーリーソード”のヒロインの一人であるエヴァと並んでも負けず劣らず可愛い。
これだけ美少女ならメインヒロインの一人でも遜色ないと思うんだけど、ソフィアはヒロインじゃなかったというか、こういうキャラがいることすら知らなかったしな。
それとちょっと気になるのはエヴァという存在だ。
こんな……こう……どちらかというと大人しいキャラだったはずなのに、今のエヴァはわりとよく笑うし、積極的に誰かと会話を楽しんでる気がする。
ここが“ホーリーソード”の世界なのは間違いないし、登場人物も、俺が最初の悪役貴族のセシル・ドルゲマインであることも……本当なんだよな。
とはいえそればかりに気を取られていると、このまま死亡フラグがすぐに首元に来る気がするからな。
ここからもどんどん銀貨を貯めて、死亡フラグに抗っていこう!
◆
ドルゲマイン州を出て、隣の州を通っていく。
景色はそう変わるものはなく、どこまでも平和そうな草原だったり、遠くに山が見えたり、時には川があったりと、事件が起きる気配はなく進んだ。
キャンピングも不自由なく、馬車内部がベッドになったり、快適な旅を送った。
やがて俺達はアルゲマイン州へと入った。
ドルゲマイン州と比べて、大地が少し痩せている気がする。
普通の平原もドルゲマイン州は土がむき出しになっている場所はそう見れないけど、アルゲマイン州はちらほら見える。
少し違う景色を通り、俺達はアルゲマイン州の町々を通っていく。
一つ気になるのは、領民達の表情。
俺が知っている“ホーリーソード”は、どの領主も帝王学に基づいて教育されており、領民達は労働力として扱われている。なのにも関わらず、ここの領民達の表情は――――とても明るい。
こう……州都アデリアの今の領民達の明るい表情に近い。
「ソフィア様。アルゲマイン州の税率ってどのくらいかわかりますか?」
「税率ですか……? ん~。お母様から聞いたのはたしか……三割だったと思います」
仮にソフィアがうろ覚えだとしても三割~五割くらいだと仮定しても、州税の中ではかなり安い方だ。それは、民にとっては“住みやすい”ことを意味する。
「民達の表情がいいですね」
「そうですね。みんな明るい気がします。でも、ドルゲマイン州の方が明るい気がします」
「いえ。まだまだです。まだ僕は為政者としてはまだ駆け出しですから、辺境伯様の行政を見習いたいなと思います」
「お、お父様を……」
「ん?」
「い、いえっ! 何でもありません!」
……? 辺境伯がどうかしたのか……?
このときのソフィアの反応は、数日後にわかることになった。
◆
「貴様がセシル・ドルゲマインかぁああああああ~!」
見るからに怒りに染まった顔で、鋭利な長剣を振り下ろす若い男性。
「「セシル様っ!」」
直後、俺を守るようにもう一本の鋭い刃の剣が、男性の剣を受け止めた。
バゴーン! と剣と剣がぶつかったとは思えない程の轟音が周囲に鳴り響く。
「貴様。誰だ」
「僕はセシル様の執事でございます――――辺境伯様」
そう。
俺に有無を言わさずに剣を振り下ろした若い男性こそが、アルゲマイン州を司る辺境伯である。
思っていたよりも若くて、二十代後半くらいで、輝く金髪はアレンと似てる美しさがある。
「お父様っ! 剣を下ろしてください!」
「ぬわっ!? ソ、ソフィ……?」
「もう……セシル様に嫌がらせをするお父様は――――大嫌いです!」
ソフィアが放った一言で、怒りに染まっていた辺境伯の顔が、面白いくらい絶望的な表情へと変わる。
動画ならきっとガーン! と効果音が入れられるくらいには。
「貴方。そこまでにしてくださいまし。当たらないのがわかっていたとはいえ、初対面で斬りつけたらダメですよ?」
後ろからとても邪悪そうな笑みでやってきたミリア様。
「久しぶりね。セシルくん。うちの旦那様がごめんね?」
「あ、あはは……いえ。諸々のことがありましたから」
「そういうことにしてくれると嬉しいわ」
ああ……久しぶりに会うが、やっぱりこの女狐辺境伯夫人は健在のようだ。
その目には『私達に逆らうとわかるよね?』という意志がひしひしと伝わってくる。
辺境伯がこんなことをすることくらい見通していたはずなのに、止めなかったのも含めて……くそぉおおおお! やられっぱなしになると思うなよ!!!!! と心の中で叫んだ。




