第42話 ドルゲマイン州の目標
都ファリスに行くまであと二日となった。
執務室に三人の男達がやってきた。
「お呼びでしょうか。セシル様」
「忙しい時期なのに呼んですまない。ザボイル。ドゥルグ。フルール」
明後日出発する都ファリスへの先遣隊に三人も入っているのだが、今日は重要な用事があるので呼んだ。
「いえ。先遣隊の件はすでに準備が終わっておりますので」
「今日呼んだのは他でもない。以前お願いしていた――――ドルゲマイン州全体の開発の件だ。進捗状況を聞かせてほしい」
そう。
俺が彼らにお願いしている仕事の一つに、都アデリアの開発だけでなく、ドルゲマイン州全体の開発もお願いしている。
ただこれは非常に難しいので優先度は正直低めではあるが、俺個人としては都アデリアだけでなく州全体の開発を進めたいからな。
「それが……現状では非常に難しいです。シェイル自警団の拡張に関してはすぐにでも可能です。ですが問題はドゥルグ大工屋とフルール鍛冶屋です。職人の不足は当然として……最大の理由は……素材の不足です」
「やはり素材不足か……」
都アデリアの突然の建設ラッシュ。職人の数はちょうど足りているし、都アデリアだけなら素材もシェイル商会を通して購入するのはそう難しくない。というかギリギリ成り立っている。
「ですがそれよりも大きな問題がございます。それは――――護衛の問題です。シェイル自警団を増やし町の防衛を増やすことはできても、人々の移動に掛かる護衛をこれ以上増やすとなると冒険者に護衛をお願いしなければなりません。しかし、冒険者で護衛を引き受けるのはランクの低い冒険者達だけです。いわゆる小銭稼ぎと言われ、同業者からは白目で見られることになるため、誰もやりたがらないでしょう」
「護衛問題か……」
「魔獣に盗賊。時には闇商人による襲撃。今のシェイル商会でもそういう脅威から身を守れているのは、兵士団が一緒にいるからです。ですが兵士団は護衛ではなくあくまで魔獣討伐のための移動です。シェイル商会はそれに便乗する形で動いています。それを何とかしなければ、セシル様のドルゲマイン州全土の開発は難しいと思います」
ドゥルグとフルールも同意のように大きく頷いた。
「別の何か方法を見つけないと難しいということだな?」
「申し訳ございませんが、どの通りです。それともう一つ大きな問題が」
「もう一つ? どんなことだ?」
「都アデリアが急速に発展した裏を支えたのは間違いなく――――水です。村や町では井戸水や川から汲んだ水を使います。都アデリアはどこにいても溢れる水が支えてくれます。それがないとなると工事の速度も格段に遅くなってしまいますし、セシル様が開発されたアパートは水路がとても重要ですので、その問題を何とか解決しないと……」
「そうか。わかった。いろいろ調査してくれてありがとう」
「いえ。また何かございましたら何なりと申しつけでくださいませ」
「ああ。ドゥルグとフルールもありがとう。何か気になったことがあればいつでも言ってくれ」
「「はっ」」
異世界だから何でもできるというわけではない。けれど、地球とは違って魔法がある世界。何か……きっといい突破口があるはずだ。
……ミリア様に相談してみるか。
◆
翌日。
「お父様。お母様。明日はアルゲマイン辺境伯様のところに行って参ります。その際には、婚約の正式的な書面を用意して頂こうと考えております」
父の顔が暗い。
一応まだ俺は父から謹慎を命じられている。だから屋敷の外には出ずに人を呼びよせている。
このまま父との機嫌と戻さずに向かうにはリスクが多すぎる。
今は俺のわがままで領主代理をしているから、それが解除されると何から何まで全て終わる。俺は真っすぐ、死亡フラグまっしぐらになってしまうのだ。
「お父様。一つお聞きしてもよろしいでしょうか」
「……うむ。何だ」
「お父様は……お母様とどうお会いになりましたか?」
俺の質問に父も母も一瞬ポカーンとした。
「マーヤとは……お茶会で出会った。まだ幼かった頃で俺も貴族としての責務をあまりわからなかった。お茶会の料理に飽き飽きしていてが……マーヤが俺を心配してか手作りクッキーを作ってきてな」
「あ、あの頃の貴方は……どの料理もつまらなさそうに見てましたから。でもあのクッキーはちょっと失敗したもので……」
「そうだったな。でも……あの少し失敗したクッキーが美味しくて、俺から父上にマーヤの家との婚約はできないかと申し出たのだ」
……これは見事に胃袋掴まされたんじゃねぇか!
「貴方ったら……セシルちゃんの前で……」
「こほん。お父様。お父様が陛下を大事にされていることはわかっております。ですが、僕はっ!」
「!?」
「――――ソフィア様と婚姻を結びたいんです!」
「セシルちゃん!?」
「もしソフィア様と出会う前なら僕も王女殿下を何としても好きになる努力をしたでしょう! ですが、ソフィア様を知れば知る程……僕も彼女に惹かれてしまったんです! まだ成人するまで五年もありますが、しっかり辺境伯様にこの思いを伝えて来たいと思います! お父様もお母様も見守ってください!」
「セシル……」
「お父様の期待に応えられなかった不出来な息子を……どうかお許しください」
「セシルッ。そ、そんなことはない……。マーヤがまた楽しそうに料理をする姿を見れた。それも全てセシルが努力した結果だ。王女殿下のことは残念だが……婚約だけが全てではない。今後も我らドルゲマイン家は貴族としてやるべきことをやればいいのだ」
「お父様……はいっ! 僕、陛下のことで一つ思い付いたことがあるんです!」
「思い付いたこと……?」
「今回王女殿下が来た理由はわかりませんが、予想はできます。実は今年の王国税を早めに支払いました。それが原因だと思います。ですので……来年は最速納税。再来年は――――最高額納税を目指したいと思っております!」
「最高額納税!?」
「はい!」
父は驚きのあまりにその場から立ち上がった。
これで――――少なくとも領主代理から外されることはなくなった。
問題は……ソフィアとの婚約だな。
はあ……あのミリア様を怒らせるとロクなことがないって学べたし、もうこうなったからには敢えてこっちもわがままになってやろう。一応、最愛の娘の婚約者だし、彼女が住むドルゲマイン州への協力だって問題ないはずだ。
……ただ、当のソフィアは大丈夫なのだろうか? また10歳で婚約なんて俺にはあまり実感がないが、この世界の貴族達にとっては大事なことだと思うから。
もし……ソフィアから「嫌です」と言われてしまったら……この先、どうなるのだろうか。




