第40話 裏引き
「これからよろしくお願いします」
ペコリを頭を下げると水色のサラサラした美しい髪が揺れる。
最強魔法使い才能『賢者』の持ち主であり、“ホーリーソード”のヒロインの一人であるエヴァだ。
他にもアマンダ含めて魔法使いが21人。
「よくぞ来てくれた。今後いろいろ話すことにはなると思うが、今はまず全員が魔法使いとしての才を鍛えることに集中してもらいたい。まず、こちらの建物が君達がこれから働く場所である“魔法研究所”だ。内部の詳しくはこちらのアレンが後ほど説明してくれる」
エヴァ達の目が丸くなった。
それもそうで、新しく建てた“魔法研究所”は、魔法使いらしさを全面的に表現した造りになっており、大きなメイン棟と、他に七つの小棟が囲うような造りで、それぞれの棟は全部繋がっている。棟は螺旋をイメージしてるから少しねじれた感じの造りだ。
我ながら良いイメージな気がする。さらにドゥルグがいい感じで建ててくれた。
「君達の給料だが、毎月定期給料を支払う上に、働く時間は他の職同様に一日8時間だ。ただ魔法使いの仕事は突発的なものもあるので、それも加味して他の職の定時ではなく、可変式を採用する。8時間以上働いた分は残業もしくは別日の仕事時間を軽減させるつもりだ。その詳細は事前に契約書に書かれている通りだ」
誰も不満はなさそうな顔だな。
「条件面に関しては納得したみたいだから話を続ける。まだ二十人弱しかいないが、今後人数が増えるかもしれないことを鑑みて、魔法使い部隊の上列を決めたいと思う。もちろん責任が増える分、給料も上乗せするが、仕事時間が少し増えてしまうかもしれない。そこもできるだけ改善するようにしていく。では名前を改め“魔導兵団”とし、団長を――――エヴァとする」
「ふえ!? わ、私!?」
「これは才能の強さも加味してのことだ。やがて全員が育った暁に才能が低い者が上に立つことで起きる不満を極力減らしたい。だが強制するつもりはない」
少し考え込んだエヴァは、覚悟を決めたように大きく頷いた。
「やります!」
「ありがとう。では今後ともよろしく頼む。エヴァ団長」
「だ、団長……は、はいっ! やれることは何でも頑張ります!」
「アマンダ。君には彼女をサポートしてもらいたい。副団長をお願いできないか?」
「わかりました」
「ありがとう。必要なものがあればシェイル商会を通して何でも注文してくれ。アレン。内部の説明は任せる。その後は、彼女達の住まいや都アデリアの案内を頼む」
「かしこまりました」
みんなアレンに付いていく。
魔法研究所に入ろうとしたエヴァが、こちらをちらっと見た。
「?」
「あのっ! セシル様っ!」
「どうした! エヴァ団長!」
「私、頑張りますからね!」
「ああ! 頼むぞ!」
ニコッと笑ったエヴァが中に入っていく。
ふとアレンとエヴァが並んで俺を見た。
……ん? あれ? ……おかしいな。どっかで見たことがあるような……? あれ……?
◆
「セシル様。お待たせしました」
「もう見つけ出してくれたのか」
ヒスリルが六人の男女を連れて屋敷にやってきた。
アレンが魔導兵団を案内している間、俺はアリスと紅茶タイムを楽しんでいたのに。
「さっそくご紹介させていただきます」
それからヒスリルは薬師3名、錬金術師3名を紹介してくれた。
「あ、あの……一つよろしいでしょうか?」
薬師の小柄の中年女性が小さく手を上げた。
確か薬師の中でも経験豊富な人のはずだ。
そもそも薬師は魔法使いや錬金術師のように特別な才能が必要なわけじゃない。どちらかといえば、知識量と経験によって薬師は成り立つ。薬草の種類や効能を覚える知識が必要なんだ。
「どうした」
「う、疑うわけではありませんが……本当にこのような好待遇でよろしいのですか?」
「契約書を全部読んでいるのだろう? 貴族は契約を最も名誉あるものとして考えている。契約違反は最も嫌うのだ。それが如何に安い契約だとしてもだ」
「そ、そうでしたか! う、疑うようなことを言って申し訳ございませんでした!」
「いや、困惑する気持ちも理解できる。これからお前達にはそれを踏まえた上で働いてもらいたい。とくに――――薬師諸君。お前達は非常に重要な役割がある」
ここれからが本題でもあるからな。
「まず三名のうち二名は都アデリアで薬師養成学校で薬師を育ててくれ。もう一人はシェイル商会と一緒に全土を回って薬師に興味がある者を発掘してもらいたい。誰がどっちに残るかは任せるが、どの仕事も大事な仕事だ。それと契約通り、全員終身雇用にするつもりなので仕事がなくなる心配はしなくていい。契約書に明記はしていないが、給料アップもしていこうと考えている」
「が、頑張らせていただきます!」
「よろしく頼む。セバス。アレンには悪いが戻り次第で彼女達にも都の案内を」
「かしこまりました」
セバスが六人を連れて外に出た。
「仕事が速いじゃないか。ヒスリル」
「これで我が商会の売上はより上がることですから」
「ふっ。そういうことにしておくよ」
「ふふっ。セシル様。一つお耳に入れたいことが」
「何だ?」
「ドルゲマイン州以外でのセシル様の評価ですが、すこぶる悪いようです」
「ん? あ~王女殿下か?」
「ええ」
「それはいい。問題は陛下だ。何か王都からの動きはあるか?」
「それが……驚く程に動きはありません。一番の理由と思われるのが……同時期にアルゲマイン辺境伯が娘をドルゲマイン家に婚約させたと公言しております」
「辺境伯が……?」
「社交界では婚約の件は沈黙を貫いていたようですが、今回の一件で遂に」
そもそも最初から言わなかった理由はなんだ……? あの女狐がわざわざ…………あ! まさか!
「やられた」
「セシル様?」
「これ全部ミリア様の作戦だ。王女殿下がうちに来たのも陛下を焦らせたからだ。その直後に公言することで……ドルゲマイン家の逃げ場を失くした。つまり……!」
ちょうどタイミングよく、セバスがやってきた。
「セシル様。お手紙が届いております」
「ミリア様から……?」
「その通りでございます」
くそがああああああ! やってくれたな!
急いで手紙を開いてみる。
そこに書かれていたのは――――全て予想通りのものだった。
「はあ……」
「セシル様?」
「ヒスリル。すまない。お前達に大きな一仕事頼まなければならなくなった」
「どのような……?」
俺はまた大きな溜息を吐いた。
「――――アルゲマイン州の都ファリスの、水道橋の工事の計画をしてくれ」




