第39話 悪役貴族
「お待たせしました」
「私を待たせるなんてどういうことよ!」
はあ……知らんがな……突然来たお前が一番悪いだろう。
と、口にはできないよな。
「大変申し訳ございません。一つお聞きしたいのですが、王女殿下は手紙の中身のことはご存知で?」
彼女は俺をキッと睨んだ。
「当然でしょう。父上から貴方と婚約するように言われているの。はあ……こんな田舎の貴族と婚約なんて信じられないけど……でも貴方のところはそれなりに収入があるみたいね。今日中に婚約の話をまとめてちょうだい。そして、王都に私が過ごす別宅を用意してちょうだい」
こ、こいつ……!
「ということは、王女殿下は都アデリアではなく、王都で過ごされると?」
「当然でしょう! こんな田舎に住むなんてありえないわ! 幸いにも王都で私が暮らせるくらいの収入はあるみたいだし、問題ないでしょう!」
「……いえ、大ありです」
「……なんですって?」
「まず第一に今の収入のほぼ全ては投資先が決まっております。王都に別宅を持ち、王女殿下への仕送りなどできません」
「それって私との婚約に不服を申し立てるということかしら? 田舎貴族の分際で?」
やはり、王女も筋金入りの貴族思考だな。
ならば、こちらも――――貴族思考を振りかざしてみるとするか。
「王女殿下もすでにご存知と思いますが、僕はすでにアルゲマイン辺境伯令嬢と婚約しております。もし王女殿下との婚約が決まった場合、誰かはアルゲマイン辺境伯に謝罪に向かわなければなりません」
「それと私は関係ないわ。貴方が勝手にしなさいよ」
「なりません。王女殿下がもし僕と婚約を結び、今後婚姻となるなら――――王女殿下もまたドルゲマイン家の一員となりましょう。詫びに向かうのに当事者である僕と王女殿下がいないなんて話になりません」
「なんですって!? 私に頭を下げろと言うの!?」
「頭を下げるくらいで済むとは思いません。それに……僕は何とかなるとして、王女殿下はよろしいのですか?」
「な、何がよ!」
「相手は――――あのミリア様でございますよ?」
その瞬間、彼女の顔が青くなる。
いくら王女とはいえ、令嬢界隈の中心の一人である辺境伯夫人と敵対することになる。それはいわば、社交場での敵が一気に増えることになる。
「そ、それをあんたが何とかしろって言うのよ! その婚約に私は――――」
「関係大ありです。ミリア様からすれば、略奪婚と思われても不思議ではないでしょう。もし僕と王女殿下が詫びに向かったとしても、その事実は消えない。今後、社交界での立ち位置は今までとはいきません。それにドルゲマイン家は残念なことに多くの社交界から排除されております。もし王女殿下が我が家に嫁ぐと仰るなら、王都での生活なんてありえません」
彼女の目に小さな涙が浮かぶ。
見た感じセシルちゃん(10歳)とそう変わらない年齢だ。こういう権力争いを何よりも怖がっているはず。
「で、でも……父上が……貴方と婚約するように……」
「そこで一つ僕から提案です」
「提案……?」
「今ならまだお互いに自分の立場を傷つけずに済みます。そのためにも――――王女殿下には、王都に戻り、僕のあらゆる悪い噂を流してください」
「貴方の……悪い噂?」
「はい。辺境伯令嬢のソフィアは毎日婚約者である僕から酷い暴力を振るわれていると。それにあらゆる悪徳なことに手を染めており、裏では女や子供を手にかけるような酷い男だと。そして、やってきた王女殿下には、お茶一つ出さなかったと」
「そ、それで……私はまた王都に戻れる……?」
「ええ。王女殿下が思う最悪の男として噂を広めてください。そうすれば殿下だって可愛い王女殿下を嫁がせたりしないでしょう。そこで大事なのは、この場で僕から体を求められたとして逃げることです。いいですね?」
「へ?」
「では失礼します――――」
俺がぐっと近付くと、彼女は「い、嫌あああ!」と俺の左頬をビンタしてその場から飛び出た。
…………。
…………。
……女性の胸をこう……鷲掴みしたのは人生初めてだけど……ちょっと罪悪感が酷いな。
だがこれで終わってはいけない。
「ルシナぁああああ! もっと! もっと揉ませろ!」
心にもない言葉を叫びながら彼女を追いかけると、一緒に来た男が凄まじい剣幕で俺の前に立った。
「セシル・ドルゲマイン。何という狼藉か!」
「彼女は俺様の婚約者になりたいのだろ……? なら最初に体の相性を確認しなければな!」
「何という……このことは陛下に報告させてもらう! ドルゲマイン家は必ず後悔することになるだろ!」
男は王女を連れて急いでその場を去った。
ふう……セシルちゃん(10歳)の本来の姿を少しだけ引き出してみたけど、中々……10歳とは思えないくらいクソみたいな性格をしているな。どう育てばこんなひねくれたクソガキに育つんだ……?
こほん。父と母の悪口はここまでにするか。
王女を乗せた馬車が走り去るのと同時に、父と母が真っ青な顔でやってきた。
「セ、セシル! 何をしたのだ!」
「お父様に言われた通り、あの女を自分の女にしようとしたのですが、あの女が僕を拒みました」
「な、なんだと!?」
「アルゲマイン令嬢との婚約より先に事実関係を持つべきと思ったのですが……あの女はそういう教育は受けていないようです」
父は驚いた目で俺を見つめた。
「お父様。次はもう少し従順な王女を迎えられるように――――」
「セシルッ! しばらく謹慎するようにっ!」
「…………」
俺は何も言わず、自分の部屋に戻った。
奇しくも、この出来事が王国全土にセシル・ドルゲマインを“クズ”として知れ渡らせたのは――――ゲーム史実通りであった。
◆
「じー」
「ソ、ソフィア様……あれはただの演技でして……」
「セシル様も男の子なんですね」
「だ、だから誤解で……」
俺が王女の胸を揉んだのが何故かソフィアにバレてしまった。
どことなくソフィアの後ろに辺境伯夫人の姿が見える……。やはりその母にその娘だ。
「……セシル様」
「は、はい……」
「……触りたいですか?」
顔を真っ赤に染めたソフィアに、思わず彼女のまだ発達中の胸に視線が行ってしまった。
ゴクリ――――って! 俺は10歳くらいの少女の胸とかそういうの興味ないんだっつうの!
「演技とはいえ! 婚約者以外の女性の体に触れてしまって! 申し訳ございませんでしたっ!」
かっこ悪いけど、ソフィアに土下座をする。
「……約束……ですからね? でも、もし……セシル様が……その……触りたいとか……ございましたら……ちゃんと言ってくださいね?」
い、言ったら……一体、言ったらどうなるっていうんだ? いや、落ち着け、落ち着け、自分の本当の年齢よりもずっと幼い少女だぞ。変なことは考えるな。日本なら犯罪だぞ!
でももしいつか、お互いに大人になって、婚姻関係になることがあるなら、その時は――――
いつもレベル0の無能悪役貴族を読んでくださりありがとうございます!
表記はしておりませんが、ここで1章完になります。
明日から2章が始まる感じでまた温かい目で見守ってくださると嬉しいです!
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2章からの都アデリアやドルゲマイン州のはちゃめちゃな発展をお楽しみに!
あ、一応記載しておきますが、当作品はたぶんハーレムになるんだと思います。(作者はとくに気にして作ってるわけではありませんが、念のため記載しておきます)




