第37話 部下への示し
アデルン街から都アデリアまで戻るの十日近く掛かった。
いくつかの町や村を経由しながら、のんびりとした旅になった。
その間、来る時よりもずっとにこやかなソフィアに、思わずこっちまで笑みがこぼれた。
それにしても――――やったぜぇえええええ~!
まさかエヴァが魔法使い部隊に参加してくれるとは思わずびっくりしたけど、これで最強魔法使い才能『賢者』が仲間入りした。その上、アマンダに提示した条件を彼女は快く受けてくれて、テイルとアマンダの紹介で多くの魔法使いの才能を持った人々をスカウトした。
なんとエヴァとアマンダ以外に才能持ちが二十人もいるとはびっくりしたが、全員が快く受けてくれた。
これもすぐに契約書をその場で書いて結んだのがよかったのかもな。
彼らが都アデリアに来るのは来月。
今来てくれてもいいけど、彼らが過ごす場所とか職場の準備がいっさいできてないから、俺が先に都アデリアに着いて馬車をすぐ手配することにしている。
まあ、アデルン街での残り一か月を楽しんでくれればなと思う。
休暇は出すつもりだけど、すぐには出せないと思うから。
こうして俺は初めての馬車旅を最高の結果で終えた。
「セバス」
「はっ」
「お前の働きのおかげで全てが上手くいった」
「いえ、それも全てセシル様がいてこそのことです」
「だとしてもお前の活躍には何か答えなければ、多くの部下達に示しが付かない。僕から何か与えてもいいが、お前が欲しいモノがあるならそれを優先したい。何かあるか? 無茶ブリでも構わないから何でも言ってくれ」
ほんの少しの間、俺とセバスの間に沈黙が続いた。
執事って、主人に尽くす美徳があるからな。それに揺れているんだろうけど、俺の意志を汲むのが一番だから、きっと彼なら受けてくれるはずだ。
「でしたら、とある一団の商売許可を出して頂きたい」
「とある一団? どういう一団だ?」
「それは――――奴隷商人です」
「ん? 奴隷商人?」
実は王国では奴隷法が存在し、罪を犯した者は奴隷堕ちになるケースがある。もちろん納税が遅れた者や借金を返せなかった者も大勢いる。
ただ奴隷法には大きなデメリットがあり、奴隷商がその町で商売するだけで領主は王国に多額の税金を納めなければならない。
何故なら奴隷商売はかなり大きな商売になるため、王都の大きな産業の一つになっている。その権利を買い取るんだから結構高く付くのだ。
「構わないが、誰でもいいわけではないよな。誰か誘致したい奴隷商人でもいるのか?」
セバスの目がほんの一瞬だけ光った気がした。
「はい。ございます」
「なら奴隷商人を誘致するとしよう。王国への商売許可はお父様を通して行う。少し時間がかかると思うが奴隷商人の方はセバスが進めてくれ」
「ありがとうございます。すぐに手配させていただきます」
理由を聞いたら……たぶん教えてくれると思う。でも、それは少し違う気がした。彼が活躍し、その褒美として彼が最も望んだことを叶える。そこに理由なんて必要ない。
「それとは別件でお前にはボーナスを支給する。くれぐれも遠慮なんかするなよ。お前の後ろには新しい執事達やアレンもいる。彼らの背中になってくれ」
「……かしこまりました。ありがとうございます」
「こちらこそいつも働いてくれて感謝するよ」
「……セシル様。変わられましたね」
意外だ。セバスがこういうことを言うなんてな。
「セバスから見てそうならそうかもな。嫌か?」
「いえ」
「ならいいじゃないか。さ~て! ドゥルグのところに相談に行こうかな!」
「すでに準備が整っております」
「相変わらずはえぇって……」
「恐縮でございます」
うちの優秀過ぎる執事は、実は未来予知能力があるのかもしれないな。
それからドゥルグのところに向かい、魔法使い部隊がのびのびと研究ができる――――通称“魔法研究所”の設立を最優先に頼んできた。
ちょっと悪ふざけで最新型っぽい形をいろいろ提案したので出来上がるのが楽しみだ。
あとは馬車を複数台手配し、シェイル商会とシェイル護衛団にも魔法使いの護衛を依頼。さらに魔法使いの待遇について父と母にいろいろ説明した。
最初こそあまり納得がいかなさそうにしていた父だが、こればかりは何がなんでも貫き通した。
だって……テイルがドルゲマイン家を嫌っている理由がそこにあったから。
◆
「ヒスリル。謀ったな」
「ほっほっほっ。何の事でしょうか~」
「とぼけるな。各支店長に会って欲しいって……事件を解決させられたんだぞ」
ヒスリルには隠す気もないみたいでニヤニヤしている。
「私ではとてもじゃありませんが、解決できませんでしたから。代わりと言えば何ですが、今後とも我らシェイル商会は、精一杯働き、納税させていただきます」
「それだけじゃ足りない。俺の頼みを聞いてくれ」
「何なりと」
「経験豊富な薬師と錬金術師を誘致したい。できれば三人ずつは欲しい」
「薬師はともかく、錬金術師もでございますか?」
「できればポーションを作れる錬金術師が欲しい。他にも魔法使い部隊をこれから作るから、協力して良い商品を作ってもらいたいんだ」
ヒスリルの目が大きく見開く。
「魔法使い部隊と仰ると、結構な人数が必要だと思いますが……」
「すでに二十名程確保している」
「素晴らしい。さすがはセシル様でございます。私に薬師と錬金術師の手配を命令されるということは……」
「当然じゃないか。ヒスリル。俺とお前の関係だ。頼めるな?」
ヒスリルがニヤリと笑う。
「これはそろそろ隣州とも取引が必要になってきますね」
「シェイル商会と公的同盟を組んだ商会には、関税を格安にしよう」
「何から何までありがとうございます。ではすぐに手配させていただきます」
「頼んだ」
シェイル商会に頼むのは、今までの関係があるからでもあるが、彼らに頼むってことは、人だけでなく薬師が使う薬草類の仕入れ、錬金術師の材料の仕入れも全部任せると同意である。
これでシェイル商会も儲かるし、うちの州には薬が行き渡り多くの人々の病気やケガは治せるし、ポーションが増えれば何か起きたときの対策にもなる。
今回の旅はとても有意義なものになったな。




