第33話 禍根⑤
エヴァ。
彼女の才能は『賢者』。
主人公の仲間であり、最後のヒロイン候補である。
水色のロングウェーブの髪が印象的で整った顔と優しい性格から、ものすごく人気があるが、残念なことに一番選ばれないヒロインである。
だって魅力的なヒロインが何人も用意されているのに、最後に仲間になるヒロインだからね。すでに恋人にしたいヒロインがいる場合がほとんどだ。
そんな彼女が仲間になるのは、主人公がアデリアを解放してから、テイルを通じて魔法使い部隊を作った時に出会うとこから始まる。
最初はレベルも低くてお荷物キャラではあるが、才能『賢者』は育てば育つ程に強力な戦力になり、ゲームでも屈指の戦闘キャラに育つ。
と、彼女がこの街にいればいいなとか思ってたけど、本当にいるとは思わなかった。だって、ゲームで彼女と主人公が出会うのは今から四年後とかだから。
「セシル様。娘に魔法使いの才能はございません」
これにも驚いた。
エヴァを攻略したことがなかったから知らなかったけど……彼女って、テイルの娘だったんだな。養女だろうけど。
テイルの目には、何か憎悪のような、悲しみのような二つの感情が込められているようだ。
「そうか。アマンダという女性に思い当たりは?」
「……街にアマンダという名の女性はたくさんいますから」
アマンダに魔法使いの才能があることはテイルも知っているはずだ。それがなければ急に焦ってここに来たりはしないと思う。
「では少し聞いてもらいたい。僕はこれから州の発展のために魔法使い部隊を作りたいと考えている。労働環境や報酬はきっちり支払うつもりだ。だが何より――――彼らに労働を強制するつもりはない。とはいえ全く働かなくてもいいわかではないからいろいろ頼むことにはなるだろう。けれど、それがやがて州の発展に大きな効果をもたらすのは間違いない。もし知り合いに魔法使いの才能がある人がいるなら、ぜひ紹介してもらいたい」
「…………」
「夜遅くに失礼した」
それから言葉を交わすことなく、俺達はその場を後にした。
最後まで――――テイルの目に宿る怒りが気になった。
◆
セシルが去った後、テイルは急いで娘と隠れ家の中へと入った。
ここは養女のエヴァの才能がバレないように、誰にも知らせていない場所で住まわせている。
「エヴァ! 大丈夫か!」
「パパ……私は大丈夫だよ?」
「そうか……よかった。何か変なことはされていないか?」
「ううん。何もされてないよ」
娘の言葉に深い安堵のため息を吐いた。
「パパ……大丈夫?」
「ああ。俺は大丈夫だ。それより――――」
「ねぇ……パパ。あの人って……領主代理のセシル様よね?」
「エヴァ。君は気にしなくていいんだ」
「でも……」
「いいか? エヴァ。ドルゲマイン家を信じてはいけない。あの家は貴族の中でもとくに傲慢で残虐非道な貴族だ。もし目を付けられたら……二度と自由な暮らしはできなくなる。場合によっては……生きることすら自分で選べなくなるんだ」
「でもっ! シェイル商会のおじさんが言ってた! セシル様は大変素晴らしい方で……あの人も私の力を知っていたみたいだけど、何も言ってこなかったし……」
「違う。貴族は自分の保身のためにそう言わせているだけだ。彼がエヴァの才能に気付くはずがない。そもそも魔法使いは見つける手段がない。目の前で魔法を使っているところを見ればまだしもな。だから当てずっぽうで来ただけだ。エヴァが気にすることはない」
父の言葉にエヴァは何も言えず、ただ肩を落とした。
自分の目に映った少年とすぐ傍に立つ少女の姿が脳裏を浮かぶ。
(本当にパパが言った通りの悪逆非道な貴族なら……あんなに幸せそうに笑えるのだろうか……? パパは……私のせいでもう笑わなくなって……)
「それより何か美味しいものでも作ろう。少し待っていてくれ」
父の――――作り笑顔を知っているエヴァだからこそ、自分もまた作り笑顔で「うん」と答えるエヴァであった。
◆
「セシル様? あのままでよろしかったのですか?」
宿屋の部屋に着いてすぐにソフィアが不思議そうな顔で聞いてきた。
きっと、エヴァのことだろう。
彼女の才能は『賢者』。魔法使いの中では断トツに最強の才能だ。
魔力が見えるソフィアなら彼女の才能を見抜いたはずだし、何が何でも説得するべきだと思っているに違いない。
俺は一度ソフィアに笑顔を見せた。
「アレン。調べて欲しいことがある。テイルがどうして――――我がドルゲマイン家を嫌っているのか。その理由を調べてきてくれ」
「かしこまりました」
アレンが出掛けて、俺とソフィアの間には長い沈黙が続いた。
この街には間違いなく魔法使いの才能が複数人いる。アマンダやエヴァだけじゃなくてだ。
何故この街に集まっているのか……それはテイルの仕業だと考えて間違いないだろう。彼に魔力を見抜く目があるとは思えない。しかし、あれだけ優秀で味方が多い人物なら噂を拾うことは簡単だ。きっと魔法使い達を説得してこの街で匿っているのだろうな。
そう考えると、ゲームで彼を通して魔法使い部隊を結成できたのも納得がいくというものだ。
ゲームでは……どうやって彼を説得していたっけ……あまり覚えていないや。ただのNPCでしかなく、何か難しいクエストがあったわけでもなく、ただ出会ってすぐに魔法使い部隊を結成させてくれていた。
でも現状は真逆。
ゲームと今の俺の違う点は――――おそらくドルゲマイン家だろうな。
「ただいま戻りました」
「どうだった?」
「どうやらテイル様は……ドルゲマイン家に恨みがあるようです」
「やはりか。どういう恨みだ?」
「そこまではわかりませんでした。セバス様ならもしかしたら……」
「……ここにいないセバスを頼れるはずはない」
「それが……こちらをどうぞ」
アレンは懐から手紙を一枚出した。
「手紙?」
「はい。もしアデルン街で困ったことがあったら、この手紙をセシル様にお渡しするように言われておりました」
受け取った手紙を読む。
そこには、まるで事前にわかっていたかのように、テイルについていろいろ書かれていた。
「あはは、セバスは本当に優秀な執事だな」
「はい。セバス様は世界一すごい執事です!」
「アレンもいい執事になってきたよ。そういえば、執事の仕事が嫌になったりはしてないか?」
「まさか! 僕はセシル様から受けたご恩……だけでなく、セシル様の背中を守りたいと決めました。セシル様がやろうとしていることがやがて僕のような民や孤児に大きな力になります。そんなお方に仕えることは執事でなくても大変光栄なことです」
そう言いながら跪くアレン。
こんなところで躓いている場合ではない。
過去の――――大きな禍根をここで断ち切るんだ。




