第32話 禍根④
う、うおぉおおおおお~! 初めて見つけたぞ~! 野生の魔法使い候補!
「名は?」
「ア、アマンダと……申します……」
二十代前半くらいの女性で、正直パッとしないタイプではあるが、まさか道を歩いていたらパタリと出会って、ソフィアから魔力が見えると合図があったのだ。
「僕の名はセシル・ドルゲマインだ。領主代理で行政を担当している」
「!?」
名前を聞いただけで――――顔が真っ青になる。
なんか……うちのドルゲマイン家って、ずいぶん民から怖がられているんだな。
そりゃそうか。今の都アデリアは多少よくなったけど、今でも怖がる人は多いと聞くし、都アデリアから遠いこの地ではより強くなるのは理解できる。
「一つ頼みがある」
「な、何でございましょうか……」
「お前に――――魔法使いの才能があることは知っている」
「!?」
彼女は――――大きく体を震わせた。
「そこで提案なのだが」
「か、かしこまりました」
……あれ? まだ何も提案してないんだけど?
そっとソフィアが耳打ちしてきた。
「セシル様? 魔法使いは王国内では特殊な立場です。非常に重要な才能なので、必ず才能があると報告する義務があり、貴族に仕える義務があります。彼女はそれをしていません。王国法では、彼女自身ではなく、彼女の家全員が禁固刑を受けてしまいます」
つまり……何でも言うこと聞くから家族のことだけは手を出さないで欲しい。というわけだな。王国法……やべぇなほんと。でも貴族主義の社会でそれは当たり前のことかもしれないな。魔法使いってめちゃくちゃ良い人材だから。
「こほん。お前の罪状を問い詰めるつもりはないし、魔法使いを強制するつもりもない」
「!?」
彼女は驚いた表情で顔を上げた。
「王国法上ではお前は必ず魔法使いになってもらわなければならない。が、それもあくまでお前を見つけた俺が認めればの話だ。お前についてどうこうするつもりはない」
「で、では……どうして私に……?」
「あ~それがな。魔法使いって貴重なのは誰よりもお前が知っていると思う。そこでドルゲマイン家抱えの魔法使い部隊を作ろうとしていて、そこにスカウトしたいんだ。でも強制するつもりはない」
「……か、家族はどうなりますか?」
「ん? 家族? どうもしない。一緒に引っ越してくれてもいいし、離れて住んでもいいし、一応待遇は後悔しないくらい用意するつもりだ。まだ具体的には言えないが」
「…………」
その時、ソフィアが彼女に近付いた。
「私はソフィア・オル・アルゲマイン。アルゲマイン辺境伯の娘です」
「!?」
「セシル様とは……その……婚約者になります。まだセシル様を知って日は浅いですが……セシル様は大変素晴らしい方です。皆さんが思っているような劣悪な待遇はございません。むしろ……魔法使いとして活躍できる場所を用意してくださると思います。今の都アデリアは、セシル様のおかげで水の都と呼んでも過言ではない程に美しい街になりました。それを支えたのもセシル様を支持した多くの民達なんです」
う、うわあああああ! め、目の前でそんな褒められると……めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!? いやいや、素晴らしいとかそういうのないから! 俺はただ銀貨を増やしたいだけだから! 死亡フラグ撲滅! 才能もレベルもないから銀貨で撲滅したいだけだからあああ!
「ゆっくり考えてみてください。それと……もし断ったとしてもセシル様は何もしません。私は保証します」
「ソフィア様……」
ニコッと笑ったソフィアは彼女の腕を優しく撫でてあげた。
去っていくアマンダを見送ると、ちょうどアレンが帰ってきた。
「セシル様。彼の自宅ですが、どうやら一人暮らしのようです。ただ、聞き込みによれば、娘がいるようでして」
「ん? 娘? 彼って結婚してたのか」
「いえ。結婚していたとか子供を生んだという記録はございません」
「まあ、婚姻はなくても娘がいてもおかしくない年齢だしな。それで、娘は?」
「それが所在が不明でございます」
「ん? 所在が不明……? 娘なのに?」
テイルが悪者で女の子を監禁している……なんてことはないと思う。
ここでの彼とは今日初めて出会ってるけど、ゲームでの彼はわりかし正義に熱い男だったのを覚えているし、魔法使い部隊を結成する際にも彼の熱い思いがあって結成できてたから。
まあ……ゲームだからあまり詳しく聞いてはいなかったけど。
「セシル様。どうやらテイルが動いたようです」
「ふえ!? 離れているのにわかるのか?」
「はい」
ア、アレンって……実はセバス並にすげぇ執事だったのか……!? まあ、それは一旦いいとして。
「案内しろ」
「はっ」
それから俺達はとある場所に向かった。
静かな住宅区に着いた頃には、すっかり日も落ちて、暗くなり始めた頃だった。
「パパ!」
「エヴァ!」
抱き合う二人は、どう見ても家族そのものだ。
ソフィアがそっと俺の腕を三回叩いて合図を送る。
でもその必要はない。
だって――――彼女が魔法使いなのは知っているから。
「まさかこんなところで会うとはな。テイル」
「……セシル様こそ、このような場所に何かご用でしょうか」
「ああ。実は――――ドルゲマイン家の魔法使い部隊を結成したいと思っていて、魔法使いを探していたんだ。そこで、彼女をスカウトに来たんだ」
「っ……そこまで……知っていたのですね……」
いや、まさか彼女がここにいるとは思わなかった。というか、この街にいたらいいな~くらいに思っていた。
だって彼女は、ゲームで主人公の仲間になるキャラであり――――ヒロインの一人だから。




