第30話 禍根②
ハウラン村を出発する際、村長始め村民達は頭を地面にこすりつける勢いで土下座をして俺達を見送ってくれた。
そこまでする必要はないと思うけど、彼らからすれば生殺与奪の権利を持つ貴族に感謝を伝える一番良い方法だと思う。
シェイル商会と村の取引は順当に進み、村は今後も発展していくだろう。
だが、我がドルゲマイン家が彼らにやった事実は消えない。
俺は……そういうものがあるとは思わなかった。きっと、セバスは知っていたのだろうな。だから……セバスは敢えて屋敷に残ったのかもしれない。
ここにもしセバスがいたなら、俺はすぐにセバスに助けを求めていたかもしれないから。
少し空気が重くなった俺達の旅だが――――待ち受けていたのは、まだまだ重苦しいものだった。
二日後に到着したのは、ビルソン町である。
とても賑わっていて、多くの町民達が住んでいる町は、東西南北に商路があるから賑わっているという。
「セシル様。こちらはビルソン町支店の支店長をやっている者です」
「お、お会いでき、大変光栄でございます!」
あ……この人も相当俺のことを恐れているんだな。
「支店長。何か町で気になることはないか?」
「き、気になることでございますか!? い、いえ……とくには……」
「そうか。この町は去年の流行り病で死人はどのくらい出たんだ?」
「流行り病でございますか……? 確か……数人程度と記憶しております」
なるほど。ということは、流行り病自体は薬で簡単に治せて、備蓄があったビルソン町にとっては大した痛手ではなかったと。
なら……隣の村を助けてやればいいのに……って思うなら聞けばいいか。
「去年、ハウラン村から援助の申し出はなかったか?」
「そ、それは……」
「できれば正確に言ってほしい。もし少しでも事実と断る嘘があれば――――」
「ひいぃぃ! ご、ございました! 薬を買う金を貸してもらいたいと……」
「どうして貸さなかったんだ? 仲が悪そうには見えなかったのだが?」
「それは……町同士の貸し借りは必ず領主様を通さなければならず……それに対して高額の手数料がかかってしまいます……」
「でも報告しなければバレなかったんじゃないのか?」
「とんでもございません! そ、そのようなことは絶対にしません!」
「本当のことは?」
支店長の顔が少し青ざめる。
「……すぐにバレてしまうんです」
「正直に言ってくれてありがとう。代わりにここ最近の裏金の件は見て見ぬふりをしてあげるよ」
「ひいぃ……あ、ありがとうございます……」
まあ、裏金の件なんて知らないんだけどね。ハッタリだ。
でもシェイル商会にもこういう人っているんだな。全員がヒスリルみたいな誠実な人ばかりではないのか。
そもそもヒスリルって……誠実なのか? こういう商会を切り盛りすれば、時にはルールを超えることだってあるだろうし、アイツなら何か上手くやりそうだもんな。
さて、すぐにバレてしまう理由は……まあ、聞かなくても……うちの優秀すぎる執事の情報網だろうな。
町同士の貸し借りに手数料をかけるのも薬同様に民を間引くためか。
ならばここの手数料は税ではないんだし、格安にしてしまおう。
「じゃあ、俺は今日一日町を好き勝手に散策するから、支店長はいらない接待などせずにいつもと変わらない商売をしてくれ」
「か、かしこまりました」
アレンと一緒にシェイル商会の支店を出て、待っていたソフィアとアリスとみんなで町を歩く。
ここ半年で生活水準がかなり上がったって報告があったけど、町は非常に明るい雰囲気だ。
ハウラン村とは違って、俺がドルゲマイン家の者だと知る者はほとんどいなくて、跪いてきたり土下座してきたりする人はいない。ただ、服が貴族服だからかなり距離を取っているし、近付いてはこない。
「賑やかで平和な町ですね」
「はい。最近は都アデリアまで出稼ぎに来てる人もいるとか」
「ふふっ。これも全部セシル様のおかげですね」
「僕はただ銀貨を増やしたいだけですから。それはそうと――――いましたか?」
「いえ。もしいたらすぐにわかるので、その時は――――」
「よろしくお願いします」
魔法使いって才能はそう簡単に見つかるものではないんだな。
レベル0だからレベルも才能もなしだけど、意外と才能ある者ってそう多くはないのだろうか。ゲームだと右見ても左見ても才能ある奴ばっかだったのにな。
しばらく町を歩いていると、町ハズレに小さな店を見つけた。
「ん? あの店、気になります。行ってみましょう」
みんなを連れて店に入った。
年季が入ったこぢんまりとした店は、入って早々に不思議な香りがする。薬草とは少し違う何かだ。
「いらっしゃい――――これはこれは……貴族様ですかい?」
中には女老人が一人が穏やかな表情を俺達を迎え入れてくれた。
「ああ。町に立ち寄って散策をしていたときに気になって入ってみた」
「珍しいですね。こんな小さな店に貴族様に売れるような品はないと思うのですが」
「ここは何を売っているんだ?」
「そうですね……惚れ薬とか精力剤とかですね」
このお婆さん……俺をからかっているのか?
ソフィアが顔を真っ赤に染めた。うん。可愛い。
「結構人気みたいだな」
「そりゃもう……男女共に求められておりますから」
「貴族からの依頼はないのか?」
「私みたいな下級錬金術師の品なぞ、お求めになるはずもなく」
やはり……ここは錬金術師の店だったか。
通常の商品ではなく、錬金術で作り出された品を買う。
薬はおそらく……特権みたいなものがあって自由には作れないはず。もしかしたら流行り病でこの町が大きな被害がでなかったのも、この婆さんのおかげかもしれないが、その証拠はないな。別に問いただしたいとも思ってないし。
「惚れ薬って本当に効き目があるのか?」
「もちろんでございます。ただ魔法耐性が高い人は効きにくいので、より強力な物じゃないと効きません」
「逆に、防ぐにはどうすればいいんだ?」
「防ぐ……?」
「ほら、黙って僕に惚れ薬を飲ませようとした場合、どう対策すればいい?」
「ほっほっほっ。坊ちゃまは面白いことを考えますね。それでしたら……“状態異常耐性”に強いアクセサリーを見に付けるとよろしいかと」
「それはここで作れるか?」
「いえ。私はあくまで下級錬金術師。作れるのは下級錬金薬系統でございます。アクセサリーに魔法を付与するのは魔法使いの仕事でございます」
魔法使いか……てか魔法使いって万能すぎないか?
だからか、魔法使いって一度登録すると貴族お抱えになることが多いのはそういう理由なのか。
引き抜きはもはや絶縁を意味するとかセバスが言ってたしな。
「いろいろ教えてくれてありがとう。お礼に何か買いたいが僕に必要そうなものはあるか?」
「ふむ……でしたら、こちらはいかがでしょう?」
婆さんは澄んだ水色の液体が入った小瓶を取り出した。
「これは?」
「ドルゲマイン子爵様の許可を得ている回復ポーションでございます。値段は少し高いのですが――――」
「あるだけくれ」
「一つ銀貨一枚になりますがよろしいのですか?」
「構わない。百本くらいある?」
「まさか。そんなに作れる品ではありません。店には五本ございます」
「じゃあ、全部買おう」
アレンに合図を送ってすぐに全部買わせた。
「その回復ポーションって作るのに許可がいるんだっけ?」
「さようでございます」
「なら――――今後は許可なく作って構わない。僕、セシル・ドルゲマイン領主代理が許可しよう」
「ドルゲマイン……!? こ、これは――――」
「構わない。むしろ、いろいろ知れてよかった。今後もビルソン町や近隣住民のために尽力してくれると嬉しい。もし資金が必要な場合は、シェイル商会に何でも言ってくれ」
彼女は深々と頭を下げた。
頭を下げたいのはむしろこっちだが、面子があるからな。
婆ちゃん。多くの民を支えてくれてありがとう。




