第29話 禍根①
旅を始めて二日目の夕方頃に初めての町にたどり着いた。
道中何度か魔獣に襲われたけど、兵士と護衛団が協力して華麗に倒していた。
「小さな村ですね」
ソフィアが言った通り、こぢんまりとしている印象の村は、全体を囲んでいる柵はあるものの、大きい魔獣に襲われたらひとたまりもなさそう。
中に入ると、何だか嬉しそうな顔で村人達が出迎えてくれる。
きっとシェイル商会が今まで築き上げた関係性なんだろうな。
不思議と子供達が多くて明るい村の印象だ。
しかし、俺達が馬車を降りた瞬間、全ての空気が変わる。
明るくワクワクしていた住民達の表情が一変し、何か――――絶望へと変わった。
彼らは俺の前に急いで跪いた。
「そ、村長をやっております……よくぞ、ハウラン村にお越しくださいました」
「僕はセシル・ドルゲマインという。領主代理としてドルゲマイン州の行政を担当している」
「ぞ、存じております! セシル様にお越し頂けるとは、我々一同――――」
「あ~そういうのはいい。それよりみんな跪かなくていいから、いつも通り普通にしてくれ」
村長始め、みんな少し驚いてはいるが、貴族の命令は絶対なのもあって、いつものようになった。とはいえ、盛り上がりは絶望的に下がっている。
――――そんな中、アレンが少し離れた建物の陰に視線を向けた。
そこには、一人の少年が鋭い視線を俺を睨みつけていた。
それに気づいた村長が真っ青な顔で少年に向かって走っていく。
「セシル様。どうなさいますか?」
「少年を連れてきて」
「かしこまりました」
アレンが村長に何かを伝えると、少年と一緒にやってきた。
当然、村全体の空気は絶望的に暗くなったし、村長の顔はもうはや真っ青から真っ白になってる。
これが……血の気が引いた人の顔なんだな。
「ベ、ベア! すぐにセシル様に謝罪しなさい!」
「っ……」
二人とも俺の前で土下座している。
ベアと呼ばれた少年の地面にポタポタと、涙が落ちてくる。
「ベアとやら。僕に何か言いたいことがあるんじゃないか?」
「っ!」
少年はものすごい形相で顔を上げ俺を睨みつけた。
「ベアッ! や、やめてくれ! 頼む!」
間違いなく何か事情がありそうだな。
「村長は静かにしていてくれ。少年。言いたいことをそのまま言って構わないぞ」
「っ……お、お前のせいで……お前達貴族のせいでお父さんもお母さんもっ!」
そういや、村に子供は多いが、両親と見られる大人はいない……?
最初は子たくさんの村かなと思ったけど、少年の言葉を聞いてみると、少し違和感があるようにも見える。
「両親がどうした。ちゃんと言ってみろ」
「お、お父さんもお母さんも……お金がなくて薬を買えなかったんだ! 僕の分だけしか買えなくて……」
少年の前から大粒の涙がこぼれる。
「村長。どういうことだ?」
「そ、それが……一年前の流行り病で全員分の薬が買えず……一家に一つずつしか分けられませんでした。ベアくんの家は……ベアくんだけが薬で生き残り、両親は……亡くなりました」
セシルの記憶を辿る。
一年前――――流行り病というのは、セシルが命を落とした酷い風邪にかかる少し前の事だ。
どこかの村で流行り病があったとメイド達が言っているのを聞いたのを覚えている。
当時は俺じゃなくセシルだったから気にも留めず……何なら鼻で笑ってたのを覚えている。それは、父と母も一緒だ。
「村に備蓄はなかったのか?」
「それが……」
「なんだ。ちゃんと言ってくれないとわからないぞ」
「は、はいっ! 我々が作れる量の作物は納税をしたら一年ギリギリ食べられる量だけでして……当時は全く備蓄がありませんでした……」
「シェイル商会に相談はしなかったのか?」
「しました……ですが……薬は領主様の許可なく自由に売買できないため……我々が買える量は限られておりました……」
「ん……? 買える量が決まっている? アレン。どういうことかわかるか?」
「はい。セバス様から聞いております。州の薬は一度全て行政の物になります。価格が下がらないように調整をしているそうです」
薬の価格が下がらないように……? 何故……? まさか!
俺はすぐにソフィアの手を引いて馬車の中に戻った。
「ソフィア様。一つ聞きたいことがございます」
「は、はい……」
「知っている範囲で構いません。もしや……薬の値段を調整している貴族に、薬を利用して……民の反乱を抑制している家がいますか?」
「そ、それは……」
ソフィアは何度か言いにくそうにしながらも、最後には小さく頷いた。
ああ……そういうことか。うちも……民が力を付けすぎないように薬の値段を調整して……民を間引いていたのかっ……!
「答えにくいことを答えてくださってありがとうございます」
「いえっ……セシル様がどうされたいのか……私はそれを見届けたかったですから」
俺達は馬車をもう一度降りた。
当然のようにみんな跪いている。
「村長並びベアとやら。今回の無礼は全て不問とする。それと――――薬のことを教えてくれて感謝する。ベアとやら。お前の両親を生き返らせることはできない。お前の悲しみを癒すこともできない。だから――――お前のその怒りを俺が買おう」
「買う……?」
「お前は命を顧みず、自分の信念を貫き通す力がある。まだ少し先にはなるが、薬学を学ばせる薬師養成学校を作る。お前にはそこに入ってもらう。そこで自分の信念を貫き通してもらいたい。これからお前と同じ思いをする子供達が生まれないように尽力してくれ」
「僕は……」
「それとも怖気づいたか?」
「だ、誰が怖気づくか! お父さんもお母さんも……僕のために……」
「ならばお前は生き延びて生き延びて、後世に名を残せ。多くの人を救え。それがお前の両親が残した意志のはずだ」
「……やってやる……絶対にやってやる! お前ら貴族よりもずっとずっとすごい人になって、たくさんの人を救う!」
「ああ。お前の――――反逆。楽しみにしているぞ」
それから俺はすぐにシェイル商団のリーダーを呼んで村での取引内容などを詳しく教えてもらった。
俺が行政を担当するまで、重い税のせいでほとんど取引できなかった村だが、今はだいぶ状況がよくなっているという。
屋敷に戻ったら……薬師養成学校設立を最優先にしなければならないな。




