第28話 旅路はキラキラ
ソフィアと都アデリアを一緒にたくさん歩き回ったが、どうやら魔力を持った人は見つからなかった。
ということで――――せっかくだから俺達はドルゲマイン州を回ることにした。
「ヒスリル。よろしく頼む」
「お任せくださいませ。それはそうと、セシル様に一つお願いがございます」
「ん? お願い?」
「はい。せっかくいろんな町を回っていただくとのことですから、ぜひとも我が商会の支店長達にも会っていただきたく」
「そりゃ、シェイル商会の商団に同席するのだからな。店長にも会うことになるだろうし?」
ヒスリルはニコッと笑顔になった。
「その答えが聞けただけで嬉しいです」
…………その笑顔がこえぇんだよぉおおおおおお! 絶対何か企んでるだろう!
ま、まあ……セバスが一緒にいるなら何とかなるっしょ。
今のシェイル商会の商団にはシェイル護衛団と数人の兵士が同行する。
ちょうど父と母も見送りに来てくれた。
だがその時、違和感があった。
「あれ? セバス? どうしてお父様の隣にいるんだ……?」
「セシル様。私は都に残ります」
「……へ? セバスが……一緒じゃない……?」
「セシル様がいない間の都アデリアの指揮を執る者が必要です。僭越ながら、私が指揮を執らせていただきます」
ひょええええええええ!
ヒスリルのわけわからん狙いがあるのに、セバスがいなかったらどう対策すりゃいいんだよおぉおおおおお!?
「代わりに、執事見習いのアレンが同行しますから」
「アレン……?」
隣のアレンはさわやかイケメンスマイルを浮かべている。
はあ……不安んだぁ……。
「セシル様。誠心誠意、お仕えさせていただきます」
「う、うん。た、頼んだ」
「えへへ~」
うわあっ! 眩しいっ! イケメンスマイルが輝かしい!
不安だが仕方がない。確かに俺が離れているときに何か起きたらめんどくさいことになりかねない。セバスが残ってくれるなら一番安心できる。
「セバス。頼んだ」
「はい。お任せくださいませ」
「お父様。お母様。行ってまいります」
「うむ」
「セシルちゃん。気を付けて行ってらっしゃい」
挨拶も終わったので俺はソフィアとアレンとアリスの四人で馬車に乗り込んだ。
大陸随一の美少女ソフィア、それに引けを取らないアリス、イケメン度が限界突破したアレンが同じ空間にいる。
気のせいじゃなければ馬車内はキラキラと輝いている。
セシルちゃん(10歳)もきっと可愛いイケメン男児だと思うんだけど……この三人の前だと、ただの悪役キャラのレベル0でしかないんだよな……。
そんな俺達は――――その先に何か待っているかもわからず、ただのんびりと時間を過ごした。
◆
「なんか馬車の旅って初めてなんだけど、思ったより乗り心地いいな」
というかもっと揺れるもんだと思ったけど、全然揺れないんだな。
「揺れ防止結界魔法が施されているんです」
「馬車にまで? 意外と魔法っていろんなところに使われているんですね。てっきり、魔獣を倒すためにしか使われないんだと思いました」
「セシル様は不思議なところに驚かれるんですね? 他の貴族の子息は幼い頃から乗っていたと思うんですが……」
「あ。それは……」
ぬわあああああ! 思い出したくもない! 過去のことである。
自分ではないけど、今の俺の中にはセシルちゃん(10歳)の記憶が断片的にある。そこにあるのは――――馬車に乗るもんかと暴れるセシルちゃん(4歳)の図である。
父と母に溺愛されていることもあり、セシルちゃんが嫌なら乗らなくていいとなり、セシルちゃんは一切のお茶会に参加しなかった。
……立地はそこそこいいものの、州の整備がほとんど届かなかったこともあり、うちでお茶会もなかったから、実は今回のお茶会がセシルちゃんにとってはお茶会デビューだったりした。俺も前世でお茶会なんてしたことなかったからデビューだな。
「あはは……昔は馬車に乗るのが怖かったんです」
「そうだったんですね。ふふっ。実は私も最初はすごく怖くてお母様から離れられませんでしたよ~」
う、うおぉおおおおお、ソフィアまじ天使! 俺に恥をかかせ過ぎないようにちゃんとフォローするところ、本当にできた娘だ。
……あの腹黒母の娘とは思えないよな。
走っていた馬車が停まった。
「セシル様。どうやらここで野宿をするようです」
やっぱり一日で到着できずに野宿になるんだな。
すでに商団の面々が慣れた手つきでテントを建てたりしているし、焚火を起こして料理を始める人もいる。
「アリス? 何をしようとしているんだ?」
「はい? セシル様とソフィア様のお食事を作りますよ?」
「ん? もしかして、あれは平民の食事だから?」
アリスは少し困惑しながら「はい」と小さく頷いた。
「ソフィア様」
「はい」
「もしよかったらみんなと一緒に食事しませんか?」
「いいんですか!?」
やっぱり興味あったみたいだな。
というか、そもそも俺自身は特別扱いはあまりされたくないというか、令息だから当たり前なんだけど、せっかくならみんなと仲良くなりたいものだ。
「ザボイル~! 僕達も同じ食事にして~」
「セシル様? よろしいのですか?」
「うん。ソフィア様もね」
「セシル様がそう仰るなら」
そして俺は少し落ち込んでるアリスの頭をポンと撫でてあげた。
「アリス。ありがとうな。でもせっかくならみんなと食事がしたい。僕達はあまりにも彼らの生活を知らないからな。こういう商団の移動での食事の質や雰囲気を知っておきたいんだ」
「は、はい……ふえぇ……」
「ん? どうしたんだ?」
「ふえぇ……」
……? アリスが「ふえぇ……」と鳴く人形みたいになった。
隣では何故だかソフィアが頬っぺたをぷくっと膨らませて俺を見ていた。
向こうからザボイルがこちらに手を振りながら声を上げる。
「セシル様~! 食事が整いました~!」
「今いく~!」
俺達は焚火の近くに向かった。
席もすでに用意されていて、商団の面々や護衛団の面々もわりと近くにいる。
彼らは不思議そうな目で俺達を見ていた。
作ってくれたご飯はプレートに簡素なパンと生野菜がいくつ置かれている。お椀に温かなクリームシチューが入っていて、それにつけて食べるのが文化らしい。
フォークやナイフもないし、そのままパンをちぎってシチューにつけて食べる。
ん~こういう食べ方したの久しぶりだけど、外ってこともあって美味いな。
とはいえ、やはり一般人の料理というか、味は少し濃いめで誰が食べても美味しいくらいの範囲だ。母や料理長が作る美味しさの限界を超えた感じはない。
「セ、セシル様」
「ん? どうしました? ソフィア様」
「えっと……これはどうやって食べればいいのですか?」
あ、ソフィアもまた筋金入りの貴族だったな。
「これはパンをちぎって、スープにちょっとつけて食べるんです」
目を丸くしながら言われた通り食べるソフィア。
こういう平民的な所作も何だか可愛らしさがあるな。
「ん! 美味しい!」
「こういう旅路だからパンや野菜をつけて食べるためにも少し濃いめに作ってるみたいですね」
「はい。生活の知恵が感じられます」
「たまにはこういう食事も悪くないですね」
ソフィアは何だか嬉しそうに笑顔で頷いた。




