第26話 住宅計画過程
ソフィアが来てから少し変わったことがある。
何より変わったのは――――。
「マーヤ様。もう完成したみたいです!」
「すごいわね! これがセシルちゃんが考えた建物なの?」
「あ、あはは……お母様が気に入ってくださったのなら嬉しいです」
ドゥルグにお願いしていたアパートの試作の感想を聞く日となったのだ。
試作は全部で五棟。
それぞれに住んでいた民達が俺の前でそれぞれの列となって跪いている。
一番手前に代表の人がいる。
「本日はお会いできて大変光栄でございます。セシル様」
代表の一人が声を出すと、みんなもより深く頭を下げた。
「みんな。今日は住んだ感想を聞かせてもらいたい。出来る限り率直に、良かったところや良くなかったところ、もうちょっとこうして欲しいところを全員言ってもらいたい」
「「「「「「「かしこまりました!」」」」」」」
みんな言いたくてうずうずしているのか目を輝かせている。
「マーヤ様。セシル様って本当にすごいですわね!」
「そうね。いつの間にかこんなに平民から慕われているし、こんな建物も簡単に作っちゃうのね」
「どうやら良かった建物は都にたくさん立てて、多くの住民に住んでもらうみたいですよ~」
後ろから母とソフィアの声が聞こえてくるが、ひとまず聞こえないふりをしながら住民達の声を聞く。
「まずA棟から。こちらは、僕の設計図を限りなく忠実に再現してもらったやつだな。では感想を聞かせてくれ」
「はっ! 僭越ながら滞在したときに感じたことを言わせていただきます。まず、最初は部屋の間取りに慣れずに少し落ち着きませんでした。ですが数日もすると間取りにもなれて、むしろこれだけ移動が楽な間取りは珍しいなと思いながら、段々便利だなという風に思うようになりました」
ふむふむ。参考にしたのは、いわゆるアパートのテンプレートでもある2LDKの間取りだ。
「しかも何より凄いのが……部屋の中に個人トイレが完備されていて、匂いも全くしない! あのシャワーというのも凄いです! 水浴びも簡単にできるなんてびっくりです!」
「うんうん。いい感想ありがとう。何か気になることはなかった?」
すると少し顔が暗くなる。
「実は…………隣の音が聞こえるのが気になりました」
「音?」
「はい。隣人の生活の音が壁を超えて聞こえてきます。事前に全員の意見をまとめましたが、五つの棟全部から出た意見に出ております」
「ん? 宿屋では音はどうしているんだ?」
セバスが近付いてきた。
「宿屋の建築には、防音結界魔法が施されております。ですが我が州にはそれが施せる魔法使いがおりません」
「えっ!? 建築にも魔法が使われているの?」
「はい。一般建築にはあまり使われませんが、貴族用屋敷や宿屋の建築にはよく使用されております。魔法使いにとっても良い収入になるので、わりと人気な商売でもあります」
ほぉ……そういう商売があるんだな。
「じゃあ、他の州から連れてくるしかないのか?」
「それは難しいかと。例えばその州所属の魔法使いを借りる手がありますが、数倍の手数料が必要でしょう」
「……お金で解決できるなら簡単だ。だがうちに貸してくれる家はあるか?」
「難しいと思いますが、アルゲマイン州なら」
「……あまりソフィア様のところに迷惑をかけるわけにはいかないしな。いっそのそこ……見つけてしまおうか。そもそも魔法使いの部隊も欲しかったし。セバス。防音結界魔法を使えそうな人材を見つけたい」
「そう簡単にはいかないかもしれません」
「珍しいのか?」
「珍しさもありますが、見つけるのが難しいというのが正しいです」
「え? 何故? 魔法使いはより稼げるんじゃないの?」
「はい。本来なら稼げます。ですが……ドルゲマイン州ではあまり良い噂が流れておりませんので。きっと難しいでしょう」
ああああああ! 父のせいかあああああああ!
そりゃ、才能があっても待遇が悪く……使い倒されるだけの人生が待っているなら、誰も手を上げるはずもない。むしろ……バレないようにするはずだ。
見つけるためにどうすればいいか……アルゲマイン家に頼むか……ちょっと悩むことにしよう。
「わかった。ではまた気になることを聞かせてくれ」
それから一人一人から良かったこと、気になったことを聞きまとめた。
おおむね、アパートは大好評というとこだ。
音が気になるとか、部屋が少し狭いと感じる人もいたり、隣と近すぎと感じる人もいた。大体女性だったけど。
男女の感覚の違いもある。ってことはいくつかアパートを建ててみんなが自由に選べる形にした方がいいかもしれない。
あとは良い悪いではないが、全員が口にしたのは――――家賃の心配だった。




