第24話 水路計画完了
ぬわあああああああ!
去っていくミリア様が小さく「まだまだ貴族としての駆け引きは下手ね。もっと励んでいい夫になるように」と言い残したのが、今でも耳に残っている。
べ、別に負けじゃねぇし! たまたま女狐みたいなやばい人に見つかって、ちょっとだけ弄ばれただけで、飽きられたらすぐに捨てられるだけだし!
って……世の中、それを負けだというのではないか?
ぬわあああああああ!
「セ、セシル様?」
ほういわっ~!?
目の前のアルゲマイン令嬢が不思議なものを見るかのような視線を俺を見つめていた。
「は、母が突然の申し出をしてしまって迷惑をおかけします……」
…………。
…………。
落ち着こう。
たった10歳で婚約者だとか言われて、昨日初めて出会った男の家に住まわせてもらうことになった彼女が一番被害者じゃないか。
そもそもこれを……チャンスと捉えることもできる。
シェイル商会はドルゲマイン州全土を司ってはいるが、他の州との交流はあまりない。
となれば、アルゲマイン家と小さな繋がりがあることで、アルゲマイン州との取引の材料に使えるはずだ。
そうなれば、税収ももっと上がるかもしれない。それでより完璧に死亡フラグをへし折ることができるかもしれないから。
「迷惑だなんて、とんでもありません。恥ずかしい話……僕はあまり恋愛だとか考えたことがなくて、どうすれば銀貨を増やせるかな~くらいしか考えてなかったんですよね」
「銀貨……ですか?」
「ええ」
「どうして銀貨を増やしたいのですか?」
「銀貨が増えればそれだけ民に仕事が与えられます。それで潤った民からまた銀貨が納められ、もっと銀貨が増えるんですよね」
「そう……なんですか? 私にはあまり想像できないことです」
「もし興味があれば現場を見てみますか?」
「本当ですか!? はい! ぜひお願いしたいです!」
ガバッ! と立ち上がった彼女が珍しく興奮気味に俺に言い寄った。
え……? 令嬢ってこう……穏やかなイメージがあるというか、こういうお金とか労働とかそういうのに全く興味ないと思ったんだが……。
後ろからセバスがやってきた。
「セシル様」
「セバス。どうした」
「水道橋の最後の現場が本日終わります。ドゥルグ殿からぜひセシル様にお立合いして頂きたいと、予定を組んでおります」
「わかった。アルゲマイン令嬢もご一緒されますか?」
と聞くと、何故か怒ったように頬っぺたを膨らませてちょっと泣きそうな目で俺を見つめる。
「アルゲマイン令嬢……?」
なんかもっと泣きそう。
な、なんだ……?
そっとセバスが耳打ちしてくれた。
「セシル様。正式ではないにしろ、婚約者となる相手は名前で呼ぶのは習わしでございます。苗字のままですと、貴方を認めないという意思表示でございます」
「うおい!? そ、そんな仕来りあったな! わ、忘れてた! アルゲ――――じゃなかくて、ソ、ソフィア様、大変失礼しました」
「むぅ……セシル様に悪気がないのは……すごくわかってます……」
う、うわぁ……めちゃ泣きそうにしてる……。
「か、代わりに何かやって欲しいことがありましたら何でも言ってください!」
「何でも……?」
「ええ。何でも。必ずや聞き届けてみせますから」
ようやく――――アルゲマイン令嬢……いや、ソフィアが笑顔になった。
「はい! それならぜひ聞いて欲しいことがあります! でもまずは水道橋を目の前で見てみたいです!」
「セシル様。準備はすでに整っております」
「よくやった。ではソフィア様。こちらにどうぞ」
俺達は紅茶タイムを終えて、最後の水道橋の現場へと向かった。
◆
「わあ~! おっきぃ~!」
水道橋を目の前に、手を広げて驚くソフィア。
俺と同じ10歳らしいんだけど……なんかちょっと幼い感じがするのは気のせいか?
「セシル様。最後の仕上げのようです」
数十メートルに及び高さの水道橋。
最後の石が嵌められ、ドゥルグが木製ハンマーでトントンと叩く。
ドゥルグの体から淡い緑色の光が出るのは、大工系統のスキルだ。
周囲の人々が割れんばかりの拍手を送る。
俺も真似て拍手をするとソフィアも真似て「わあ~!」と声を上げながら拍手をする。
ドゥルグが降りてきて、大声を上げた。
「本日を以って、都アデリアの水道橋が完成した! セシル様が最も期待してくださった大事業を完成させてとても嬉しいと思う! 今日まで現場で働いてくれた者、支えてくれた者、みんなに感謝申し上げる!」
「「「「「「「わあああ~!」」」」」」」
「これからもセシル様のために力を合わせていこう! 今日は完成日を祝って――――祭りだ~!」
「「「「「「「うおおおお!」」」」」」
すぐに酒が入ったジョッキが配られる。
俺達には同じジョッキにたくさんのオランジュ果実水が入ったものを渡された。
「セシル様。ひと言、話されますか?」
「いや、今日の主役はドゥルグだ。僕は見守るだけにしたい。実際水道橋を作ったのはドゥルグだしな」
「かしこまりました」
セバスがドゥルグに何か伝えに向かった。
「あっ! セシル様がいるよ!」
「本当だ~!」
俺を見つけた子供達がわーっと集まってきた。
「セシル様~! おめでとうございます!」
「水道橋かっこいい!」
「オランジュ水おいしい! セシル様!」
「あはは、みんな嬉しそうで何よりだ。みんなも作業を手伝ってくれてありがとうな」
「「「えへへ~」」」
この子達は、ザボイルに与えたボーナスで開いた慈善事業で集められた孤児達だ。
当然のように工事の手伝いをしてくれている。
もちろんメイン作業とかではなく、飲み水を運んであげたり、タオルを交換して洗濯したり、見た目的には働いている感じというよりは、半分遊びつつ半分手伝っている感じだったから、彼らの努力も見守ることにしていた。
俺としては子供は元気いっぱい遊んでいるだけでいいと思うんだけど、異世界では働かないと食べられないが常識だからな。
「こらっ~! セシル様の邪魔をするな~!」
「「「怖いアンナだ~!」」」
年長の少女に怒られて逃げる子供達。
年長の少女はペコリと頭を下げて、子供達を追いかけた。
「ふふふっ」
「ソフィア様?」
「セシル様ってすごく慕われているのですね!」
「そうかな……? 僕はただ銀貨を出しているだけですので」
「あら。もしかして……銀貨を集めたいのは……」
「いえ。彼らが育ったらきっと大きな利益を出してくれますから。これも銀貨の投資です」
「ふふっ。そうですね!」
終始ニヤニヤするソフィアは、大貴族の娘とは裏腹に、たくさんの平民達に声をかけていろいろ話し始めた。
なんか……俺が知っている貴族象だから随分と違うんだが、本当に……辺境伯令嬢なのか……?




