第23話 パーティの後の大敗北?
翌日。
「おはよう。小さき英雄ちゃん」
「おはようございます。夫人」
「あら、私のことは、ミリアと呼んでいいわよ」
「はい。ミリア様」
こ、こえぇえええええ! 辺境伯夫人になっただけのことはあるというか、凄まじい圧を感じる。
「昨日の賊は吐いたのかしら?」
「ブルス子爵の命令で仕方なくと嘘を言っております」
「ふふっ。そうね」
嘘という言葉が嘘である。
彼女達に命令したのはブルス子爵なのは間違いない事実だろう。だがそれを鵜吞みににできるはずもないので、こうして表では嘘だと判断しております~的なことを言わないといけない。本音と建前ってやつだ。
「彼女達はどう処分するつもりかしら?」
「全て辺境伯夫人に判断をお願いしたく」
「いいのかしら? ちゃんと本音で言っていいわよ。じゃないと~後悔しちゃうかも~?」
だ~か~ら~! それがまじで怖いっての!
はあ……仕方ないか。
「で、では失礼して……」
跪いていたのを辞めて立ち上がって、じっと彼女を見つめる。
「ごほん――――すごく嫌ですけど、昨晩の空気を換えてくださったお礼がしたいので、ぜひ彼女達の処分は辺境伯夫人にお渡したいと考えています」
「あはは~! 貴方って本当に面白いわね。昨日ここに来て本当に良かったわ。ではお言葉に甘えて彼女達は私がもらい受けるわ。これで昨晩の貸し借りはなしね」
「助かります」
彼女達を問い詰めれば、間違いなく貴族の家二つが消えることになる。
それはある意味国家反逆罪として王に献上して褒美を受け取ることができる。しかも功績として結構デカい。
でもここはアルゲマイン辺境伯の力が届く範囲。つまり……辺境伯の顔に泥を塗ることに繋がるのだ。
おそらく辺境伯によって彼女達の家は取り潰しになるだろうが、国家反逆罪なんてならないはずだし、無難な理由が付けられるだろう。そうなれば、辺境伯の面子は保たれるってことだ。
「それにしても、すごい手際の良さだったわね」
「これも優秀な部下がいるからです」
「セバスだったわね?」
「ええ」
「確かに優秀な部下だけれど……それをまとめているのが貴方だからこそね」
「買い被りです」
「ふふっ。そういうことにしておくわ。噂では“レベル0”で女神から見捨てられた哀れな愚息だなんて言われていたのだけれど、驚く程に違ったわね」
「あ、あはは……」
そんな言われ方してたのかよ……そりゃ……セシルちゃん(10歳)もめちゃくちゃグレるわけだ。
「水の精霊ウンディーネは使役している風には見えなかったわね?」
「はい。使役しているわけじゃありません。対価を支払い彼女には水を恵んでもらっております」
「精霊と対等な取引を……?」
「偶然にも取引ができる相手でしたので」
「ふふっ。本当に何から何まで……規格外ですごい子ね。貴方。うちの子にならない?」
「へ!?」
「あら? 嫌かしら?」
「そ、それは……も、申し訳ありません。僕はお母様の息子でいたいので……」
「そう。じゃあ――――うちのソフィの旦那になりなさい」
「ひぇ!?」
「お母様!?」
じっと俺達のやり取りを聞いていたアルゲマイン令嬢も驚く。
「うちのソフィはまだ婚約者がいなくてね。貴方も婚約者はいないでしょう?」
「い、いないんですけど……」
「じゃあ決定ね。あ。でもうちのソフィにふさわしい人になってもらうのが大前提だからね。せめて……ドルゲマイン州を王国でも上位の州にしてもらわないといけないわね。一番上でもいいわよ?」
こ、この女……。
まずいな。このままだと俺がアルゲマイン辺境伯の家臣にされかねないし、そうなると王家とは距離を置くことになる。
別に王家とどうこうは俺にとってはどうでもいいけど、父は辺境伯よりも王家を大事にしたい人だ。その意志から遠ざかるのはあまりよくない。
とはいえ、一介の子爵令息分際で現辺境伯第一夫人に対して何か言えるかというと……無理なんだよな。
もしこれを全て受け入れてしまうと、彼女の傀儡にされかねない。
仕方ないな。あの作戦でいこう。
「ミリア様。とても嬉しい提案ではありますが……残念なことに、今のドルゲマイン州は非常に過酷な場所でございます。ようやく都アデリアは住みやすい場所になりつつありますが、それでもまだ治安の不安さや州全体の治安もあまりいいとは言えません。それを安定させるには数年……いや、数十年かかるとかもしれません。僕は父と母が平和に生きれる州を作るのが目標。その間に誰かと婚姻を結んだり、彼女との時間を優先することはできません」
一度息を吸い込んで言葉を整える。
「仮にソフィア様と婚約をしても、彼女と一緒に過ごす時間はほぼございません。それでは……せっかくのソフィア様の幸せな時間が無駄になってしまいます。僕なんかではなくもっとふさわ――――」
「つまり、時間があれば幸せにはできるけど、今は割ける時間がほぼないから難しいってことよね?」
「え、えっと――――そ、そうですね」
それを聞いたミリア様は――――ニコッと笑みを浮かべた。
あっ……これ……俺が何を言い出すか読んでいたな。
終わったかも……しれん……。
そしてミリア様の口からとんでもない言葉が飛び出た。
「では、うちのソフィを今日からここに預けるわ。当然、ソフィの生活費とかメイドとかはうちで送らせてもらうので心配しなくても大丈夫。時間が作れるときにソフィと会ってくれればいいわ。まあ、これだけ近くにいて時間がないから会えませんでしたとは……言わないよね?」
そ、それは……言えないけど……さ……いくら貴族とはいえ、こんな急に決めちゃっていいのか……? だって昨日初めて出会ったばかりで俺達まだ10歳とかだぞ!?
助け船を求めて見つめた肝心のアルゲマイン令嬢だが――――何だか少し嬉しそうに顔を赤らめていた。
一体何がどうなっているんだ……。




