第22話 波乱のパーティ!後編
「ああっ!」
少し離れたところから、貴族夫人の一人がその場で倒れる。
一体何が……?
その一瞬を逃さないようにセバスが動き、アリスもすぐに駆け付けていた。
「どうなさいましたか!?」
「そ、その料理を食べたら……急に全身が熱くなって……」
料理……?
それを同じく隣にいた友人と思われる貴族夫人が声を上げた。
「毒よ! この料理には毒が入っているわ!」
毒……?
突然の騒ぎに会場が驚きに包まれた。
そのとき、セバスが小さく口笛を鳴らした。
直後、正面入口だけでなく、裏口からも黒い制服に身を包んだ自警団達が入ってきた。
「お呼びでしょうか。セシル様」
いや、俺じゃないんだけどね……。とはいえ、何となく読めてきた。
「どうやらここで毒殺を目論んだ人物がいるようだ。誰一人出入りさせるな」
「そのような輩が……かしこまりました」
するとブルス子爵が顔を真っ赤にして俺に詰めてきた。
「これはどういうことだ! 毒殺とは何事なのだ!」
「どうやらあの料理に毒を仕込んだ人物がいるようです。今から犯人を見つけ出します」
「犯人だと!? そもそも最初から仕込んだ可能性だってある! 元々こんな低俗な料理を出すこと自体がおかしいのに、毒まで入れて我々を愚弄するつもりだったのではないのか!」
「落ち着いてください」
「これが落ちついていられるか! 毒を仕込んだと見せかけて実は全ての料理に毒が入ってるかもしれないんだぞ!」
確かにそれは否めないな。
セバスがまた動いた。
今度は入口から――――何故かヒスリルが入ってきた。
「失礼します。シェイル商会の商会長をしておりますヒスリルと申します。セシル様。どうやら鑑定が必要とのことで参りました」
鑑定……? あ! なるほど! そういうことまでできるのか! よくやったセバス!
「ああ。あの料理に毒が仕込まれてるかもしれない。鑑定できるか?」
「お安いご用でございます」
ヒスリルは堂々と歩いて行き、拡大鏡を取り出し料理を覗き込んだ。
彼の体から淡い緑色の光が放たれる。
「こちらには……ハースフロッグの猛毒でございます。このままでは間違いなく毒死してしまいかねません」
「解毒薬はあるか?」
「はい。我が商会にございますが、今は手元にございません。すぐに向かわせましょう」
「セシル様。俺達に任せてください」
「ザボイル。急いでくれ」
ザボイルが部下に命令して飛び出ていくのを見送った。
だが、まだ会場は不穏な空気に包まれている。
「セシル様」
空気を切り裂くように、ヒスリルの落ち着いた声が響く。
「また何かわかったことがあるか?」
「はい。こちらの毒ですが、料理に混入されたのは――――30秒前でございます」
「30秒前……?」
隣で一緒に聞いていたブルス子爵を声を荒げた。
「嘘だ! それをどうやって証明できるんだ! たかが田舎の鑑定士分際で、いい加減なことを言うなら侮辱罪になるぞ!」
それを聞いたヒスリルは、小さく笑みを浮かべた。
お、おぉ……セバスと雰囲気が似てるだけあって、こう……ただの笑みがものすごく怖いよな。
ヒスリルは懐から何かを取り出して俺達の前に見せた。
そこには――――小さな懐中時計が握られていた。
「そ、それは!?」
「確かに私は一介の田舎商会の者でございます。ですが……それと同時に鑑定Sランクライセンスを持っております」
……え? 鑑定にライセンスなんてあるの?
「この私の鑑定に間違いはございません。ハースフロッグの猛毒が仕込まれたのは、彼女が食する30秒前でございます」
その証言と同時にセバスとザボイル、アリスが動いた。
倒れた貴族夫人の――――隣にいた友人と思われる貴族夫人の両傍に立つ。
「サラオレ男爵夫人。その懐に持っているものを見せていただけますか?」
「な、何よ! わ、私は何も隠し持ってないわ!」
…………うん。ビンゴだな。
「サラオレ男爵並び男爵夫人。失礼を承知で、もし間違いがあれば必ず責任を取りましょう。セバス。ザボイル。夫人を抑えろ。アリス。彼女の懐を探れ」
「「「はっ!」」」
「ま、待ちなさいよ! 私は貴族なのよ!」
「責任は全て僕が取ります。夫人。やましいことがなければそのまま受けてください」
確信という確信は俺自身が見つけたわけではないけれど、今まで関わったヒスリルは当然ながらセバスを最も信頼しているからな。セバスが何か気づいたのであれば、間違いないはずだ。
そして、彼女の全身をくまなく触っていたアリスが素早く懐から何かを取り出した。
「ヒスリル。その二つに鑑定を」
「はっ」
すぐに鑑定してもらう。
「こちらの空いた瓶には微かにハースフロッグの猛毒が残っております。こちらの白い液体ですが――――ハースフロッグの解毒薬でございます」
「解毒薬ならすぐに彼女に飲ませろ。セバス。彼女達に事情を聴きたい。すぐにお連れしろ。アリス。この料理は証拠品として確保しろ」
「「はっ!」」
仕事の速いうちの部下達は、俺の指示をすぐに実行してくれた。
さて……問題はこれからなんだよな。
この空気……どうしてくれる。
「皆様。突然の出来事に不安を覚えてしまう方もいらっしゃるかと思います。ですので、改め――――」
その時、一人の女性が俺の前にやってきた。
この方は……アルゲマイン令嬢の母。アルゲマイン辺境伯夫人だ。
「セシル・ドルゲマイン令息。此度の見事な対応に感服しました。本来ならこの場は私が納めるべきでしたが、私が何かする必要はありませんでしたね。よく賊を捉えてくださいました。王国の大事な血脈を守ったこと、陛下に代わり私からお礼を差し上げましょう」
「辺境伯夫人!?」
彼女は小さく笑みを浮かべて後ろを向いた。
「皆様! 素晴らしい小さき英雄に――――」
直後、割れんばかりの拍手が起きた。
何故だか父も母もものすごく感動して今にも泣きだしそうにしている。
まじかよ……この空気をどうしようかとか悩んだけど……最後の最後に辺境伯夫人が全部塗り替えるのかよ……。
これはこれで……非常にまずい状況かもしれない……。
こうして一連の出来事は嘘のように消え、会場のみんなは何事もなかったかのように美味しい食事を楽しんだ。
貴族って……ある意味こういう剛心がないとやっていけないんだなと思いながら、俺はずっと乾いた笑顔を繕った。
だって……ずっと辺境伯夫人が離してくれず、辺境伯令嬢と三人で全ての貴族に挨拶周りをさせられたからだ。




