第2話 作戦開始
「お父様。お母様。おはようございます」
「おお~セシルよ。おはよう」
「セシルちゃん~今日も可愛いわよ~」
贅沢の象徴――――太った極みの二人は、俺の両親である。
「この前購入した最高峰のピュリシャ紅茶はどうだったかしら?」
「はい。とても美味しかったです。ありがとうございます。お母様」
「うふふ。うちのセシルちゃんには美味しいモノをたくさん食べてもらって、貴族らしくなってもらわないとね~。ですよね? 貴方」
「うむ。その通りだ」
もう……ダメ人間まっしぐらというか……でも権力ある人ってこういう考え方になるのかもな。いろんな歴史書を読んでもそういう考えの権力者が多かったしな。
その時だった。
執事が一人入ってきた。
「旦那様。デリオン商会から、商会長がいらっしゃいました」
「うむ。通せ。セシルも会っておくといい」
「かしこまりました。お父様」
執事が深々と頭を下げると、少しして、これまた太ったふてぶてしい態度の男性が一人やってきた。
その顔は――――貪欲な、ザ・豚! と言っても過言ではない。
「お久しぶりでございます。ドルゲマイン子爵様」
「おお。ドンテキよ。よく来てくれた」
「ははっ」
何だか笑みも芝居かかってるというか、表向きは子爵家である両親には良い顔してるけど、内側では全然そう思ってなさそうな顔だ。
そういや……ドンテキって“ホーリーソード”内にいたっけ? デリオン商会自体はあったけど……あれの商会長って……ドンテキじゃなかったと記憶しているんだが……。
「今日はどんな物を持ってきてくれたのかしら~」
「本日はこちらの素晴らしい――――巨大グリーンエメラルドのネックレスでございます」
「あら! 綺麗ね! セシルちゃん~どう?」
どう? と聞かれても……宝石にはあまり興味はないのだが……俺にはこれが本物なのか偽物なのか見極められない。
「綺麗だと思います」
「うんうん。これ買いたいわ~」
「こちら大特価でたったの金貨5枚になります」
「貴方~」
「うむ。セバス」
執事がどこからともなく金貨を持ってきて支払う。
金貨5枚って……とんでもない額のはず。
もしゲームのままなら……大銅貨3枚もあれば宿屋に泊まれるのを考慮すると、どんぶり勘定だが、金貨5枚はざっと5億円に匹敵するはず。
それをポンポン買えるくらいうちの財力は凄まじい。が、その源泉は民からの税だ。
こういう買い物が増えれば増えるほど、財政は悪化し、民が疲弊していく。取れる税も段々減っていくのは容易に想像できる。
…………まずはこれを何とかしなければ。
それから俺は執事のセバスに付きっきりで、屋敷の食材の買取などの詳細を覗いた。
当たり前だが――――両親と俺の食費はとんでもない額だった。
◆
翌日。
昨晩いろいろ考えた作戦をさっそく実施する。
「お父様」
「セシルか。どうしたんだ?」
相変わらず父は何か行政を取り仕切るわけでもなく、ただボーっと時間を過ごしている。
ただよくよく見ると……父も母も貴族としての責務はかなり果たそうとしている。例えば俺がちゃんと“美味しいモノ”をその舌で判別できるようになるとかね。
それもあって父は、実は大量の本を読んでいるし、知識もかなりのものだ。
「実は……再来年の学園について不安がございます」
「不安……だと!? どういうところが不安なんだ。すぐに教師を――――」
「いえ。お父様。僕が心配なのは……僕自身が為政者としてちゃんと民を導けるのか。貴族の中でも最高の税率を叩きだせるのかが不安なんです」
「う、うむ? 変なところが心配なんだな?」
「変なところではありません! たくさんの税収で美味しいモノを食べられるかもしれません。ですが、もし今後……すごく高い宝石などが手に入るタイミングがあった際に、買えるお金が足りないなんてありえるかもしれません。そうなるとお母様が悲しむと思うんです!」
「そ、それはそうだな」
「ですので、お父様――――」
俺はぐっと拳を握り、父に提案をぶつけた。
「――――僕が学園に入るまでの間、領地内の行政の全てを試させてください!」
父が驚いたように目をぱちぱちさせる。
「必ずや最高税率を叩きだし、お父様やお母様が自慢できる息子として、学園に行きます!」
「う、う~ん……しかしだな……」
「お父様……」
「うっ!? な、泣くことはないのだ。セシルよ」
「僕は……お父様とお母様の……不出来な息子なのですね……」
「そんなことはない! わ、わかった! 学園に入るまで、全てをセシルに任せる! これでいいな?」
「はいっ! お父様! 大好きです!」
「う、うむ! わしもセシルは自慢の息子だと思っているからな!」
ふふっ……父よ。ちょろいな。
こうして俺の――――才能もレベルもない異世界での転生生活が幕を開けた。
何もないけれど、前世の知識を活かして、死亡フラグを全てへし折って……もう二度と理不尽な死は絶対に迎えない!
絶対に生き残ってやる!




