第1話 悪役貴族転生
「あはは! レベル0ってなんだよ。テキトーな設定だな~」
そう笑ったのを今でも覚えている。
だって、ゲームって基本的にみんなレベルってあるじゃん? でも、俺が笑ったそのゲームでは、主人公に最初にやられる悪役はレベルが0という設定だった。
それが非常に印象に残ってはいるが、彼が登場したのはたった一瞬。
ストーリーが進むにつれて“バカな奴”として何度か名前が出てくるたびに、「あ~あのレベル0のキャラね」と思い出していた。
後から設定を考えた製作者が「何か面白そうだから」とレベル0にした理由を明かした。
面白そうだからレベル0にされたキャラからしたらたまったもんじゃないだろうけど、俺はそれを見てほんの一瞬だけど笑えたのでどうでもいいと思う。
――――そう。見ている側だったらそれでよかった。
「レベル0ってそうテキトーに決めるんじゃねぇよおおおお! 本人がどんだけ辛いかわからんのかああああ!」
俺は心の底から叫んだ。
当然周りには誰もいない。
はあ……。
俺は鈴木実――――だった者だ。
だった者って言うとちょっと変だけど、いわゆる前世では日本人だった。
今は姿を変えて、十歳の金髪が爽やかな……たぶんイケメンになっている。西洋風顔だがまだ十歳の子供なのでちょっと可愛い。
自分を可愛い……なんて話す趣味はなかったのだが、今の俺にとってこの体はまるで夢の世界で生きているみたいに感じている。
長期連休で一気にクリアするために何日も寝ずにやりこんだゲーム“ホーリーソード”。自由さが売りでいくつものエンディングがあり、やり込み要素も多いが、主軸はあくまで美少女ゲーム。いろいろ楽しいことも多かったんだが……やり込んだ末に熱を出してしまって、救急車を呼んだのだが来てくれなくて、気付いたら……まさかゲームの中に転生するとは思いもしなかった。
しかも……。
「よりにもよってレベル0の死亡フラグバリバリ立ってる悪役貴族かよぉおおおおおお~!」
くそぉぉぉぉ! 声までちょっと可愛いな!
その時、扉をトントンとノックする音が響く。
「こほん。入れ」
おそるおそる入ってくるのは、今の俺と同じくらいの年齢でメイド服の少女だ。
異世界……というかこの世界は間違いなく“ホーリーソード”の世界の中であり、日本と違って、人権レベルが結構低いというか……権力者がより権力を持って君臨している。
きっと昔の日本とか西洋ってこんな感じだろうなって感じ。
「セ、セシル様。紅茶をお持ちしました……」
俺の顔色を窺いながらテーブルの上に紅茶とお菓子を並べる。
はあ……この生活もすでに三日目。慣れたかと聞かれるとまだ微妙だが、貴族の嗜みらしい。
うちの両親……というか、この体のセシルの両親は、ここら辺一帯を治めている子爵領主であり、貴族の中でも結構権力を持っている方だという。
それもあって、毎日美味しいご飯や紅茶タイムがあるのだ。
幸いにも体に入る前の、セシルの記憶もちゃんとあって、貴族としての礼儀作法はそれなりに自然とできる。
紅茶は結構いい葉のようでコクも香りもとてもいい。前世でこんなに紅茶が美味しいと感じたことはなかった。
お菓子も高級砂糖をふんだんに使ってるだけあって、めちゃくちゃ美味しい……が、こっちはさすがに前世のお菓子の方が美味しいと思う。
「アリス」
「は、はひ! お、お口に合いませんでしたか!?」
彼女がこんなに怯えるのには理由がある。
それは――――今までのセシルのバカが、ほんっっっっとにどうしようもないやつで、両親からの教育のせいでもあるんだけど、下々をもう……こき使うというか、貴族主義というか、ちょっと気に食わないだけで殴る蹴るは当然として、普段から罵倒したりと癇癪を起す少年だった。
そりゃ……怖いのは当然である。頭の中で見えただけでも俺もちょっときつい程だ。
「――――紅茶美味しかったぞ」
「……ひぇ?」
おいアリス~変顔になってるぞ~。変な声も漏れたぞ~。
俺はそっと立ち上がり、テラスに出た。
アリスは相変わらず石化している。
テラスから見える景色は――――一言で言えば、素晴らしい絶景。
雄大な自然が広がっていて、山とか森とかが見えて、広大な草原は荒んだ心が癒える。そこから少し視線を下に向けると、街が広がっている。
当然屋敷付近は一等地でもあるのでそこそこ綺麗な家が並んでいるが……その外……いや、むしろ大半はすでにボロボロだし、歩いている人達もどこかぼろい服を着ていたり、遠くからも元気がなさそうに見える。
前世では旅の動画でこういう光景を見たことがある。
――――スラム。
その言葉がピッタリだ。
ゲームでもセシルが最初の踏み台となった後、主人公である勇者がこの地を解放して、解放の地“アデリア”となるのは知っている。そこから主人公の拠点としていろいろ発展していくのだが……。
今のアデリアは非常に住みにくい街なのは言うまでもない。
この理由も全部……重税のせいだ。それだけじゃない。裏金……的な問題もある。
それらを何とかしなければ……だって……俺がセシルである以上、このままでは――――死亡フラグが待ち受けているのだからな。




