第16話 自演行為?その裏側で
暗い夜が訪れた州都アデリア。
世界中の都市は、上層が約1割、中層が約7割、スラムと呼ばれる下層が2割の人口比率が多い。そんな中、珍しく上層2割、下層8割という世界でも珍しい割合の人口比率の都市こそが都アデリアである。
夜ともなると上層が住まう上流社会は明かりが灯されるが、下層は一切の明かりはない。
しかし、ここ最近大きく風向きが変わってきた。
至る所で明かりが灯され、笑い声も多く聞こえてくるようになった。
その中でもとくに夜頻繁に盛り上がる場所こそが――――酒場である。
とある酒場には大勢の屈強な戦士達が集まり、ジョッキを片手に楽しそうに酒を飲んでいた。
「わはははっ! それにしてもザボイルさんのあの一撃は本当に凄かったな!」
「両手剣使いの中でも1,2を争うくらい強いんじゃないかな!」
「ザボイルさんなら兵士団に入れば、団長までなれるんじゃね?」
などと男達は都アデリアの新しい英雄ザボイルを称え続けていた。
そんな彼らに溜息を吐く本人は、酒場のひっそりした場所で、兵士団長と酒を交わしていた。
「随分と人気があるじゃないか。ザボイル」
「あいつらとは長い付き合いですからね。兵士団長になるとかどうこうは聞いてないことにしてくださいよ? カイルさん」
「酒の席だ。気にするわけがない」
「助かります」
「それはそうと、英雄になった感想はどうだ?」
「英雄? ふっ。冗談もそこまでにしてください。カイルさんだって知ってるんでしょう? 全部――――セシル様の意志であることくらい」
その言葉に、ニヤリと笑みを浮かべた兵士団長カイルは酒をぐびっと飲んだ。
「ザボイル。正直に意見を聞かせてほしい。お前から見てセシル様はどうだ」
それを聞いたザボイルもまた酒をぐびっと飲んで、ニヤリと笑った。
「…………一言でいうなら、神」
「神……?」
「ソレイユ神はソレイユ教を信じる者に聖なる力をより与えると言われています。セシル様は……俺達からすれば、まさにソレイユ神のような存在です。彼が現れてから俺達の生活……いや、それだけじゃない。生きている意味を、想像もできない程の心からワクワクを思いださせてくださった。あんな素晴らしいお方がこんな近くにいるとは思いもしませんでした」
「……お前ともあろう者が酔狂する程ってことだな」
「酔狂ですか……いえ。そんな言葉すら生ぬるい。俺は……あの方に全てを賭けると誓いました。崇拝と言ってくれたら嬉しいです」
「くくくっ。その気になれば、王国でも随一の剣士になれたやつが、崇拝とは面白い」
「そういうカイルさんはどうです? あの貴族嫌いが、どうしてセシル様に力を貸すんですか?」
カイルは大きな溜息を吐いた。
「自分でもびっくりだ。最初は……あのセバス殿がついに立ち上がったとばかり思ってたが、どうやらセシル様が全てやっているみたいだな」
「セバスさんってあの執事ですね? 一体何者ですか? 今回のビッグホーンボアも……彼から指示を受けたんですが、おそらく森の外に出る頃にはすでにボロボロ状態でした。彼一人でほぼ倒せるほどの実力があることですよね……?」
「ふっ。そうだろうな。セバス殿は……執事にさえならなければ、大陸最強の騎士になったかもしれない男だからな」
「そ、そこまで!?」
「ああ。だがどうやら何らかの事情で執事になると決めたらしく、ドルゲマイン家の執事になった。彼の性格を考えれば、執事のまま死んでいくだろう。ずっともったいないと思っていた。それが……ここに来てセシル様の懐刀になった。これは……運命と言っても過言ではないのかもしれない」
「なるほど……セシル様の理想を叶えているのは、セバスさんがいるからでもあるんですね」
「セバス殿が認めた程のお方ということだ。ザボイル。お前も崇拝するということは、やはり本物ということだな」
「当然です。セシル様は……今まで見たどんな貴族よりも美しく気高い。たった数か月でこれだけ民に笑顔を作れたんです。聞いたことも見た事もない。まさに理想郷」
「だが必ず彼の進撃を阻む者が現れるだろう」
「ええ。ですから俺は全力で自警団を強くし、力を以ってセシル様をお守りします」
「ならばそろそろ自警団の運営も全部お前に譲るとしよう」
「俺としてはそのままカイルさんに指揮を執ってもらいたいんですが」
「いや、いつか枷になってしまいかねない。早いうちにお前が仕切った方がセシル様のためになるだろう。今の都アデリアは……あまりにも進むペースが速すぎる。このままではいずれ治安が悪化に、悪党で溢れかえる街になりかねない。俺には俺なりにこの街や州……ひいてはセシル様の背中を押せるように準備しておきたい」
「わかりました。何か俺にできることがあればいつでも言ってください」
「ああ」
二人の密談は賑やかな酒場で密かに交わされた。




