第12話 爆増したはずの税収はとどまるこどを知らない
異世界に転生して四か月が経過した。
と言っても、異世界は意外にも時間が過ぎるのが早い。
前世では会社に行って、帰ってきてはコンビニに寄って弁当を買い、寝るまでゲーム。その繰り返しで時間が過ぎる感じが全くなった。
異世界は、いろんな出来事がおきたり、電気がないから夜は結構暗いのもあってすぐ眠りたくなる。
まあ、十歳児という体のせいもあるかもだけど。あと歩く時間がかなり長いから疲労感も中々だ。
なんせ……俺はレベル0だからな。
さて、俺が行政を握ってから三度目の税収の日となった。
「セバス」
「はっ」
「一つ聞いていいかな」
「どうぞ」
「……それ全部お金じゃないよね?」
「全部お金です」
「……まじかよ」
セバスが見た事もない量の貨幣を乗せた台座を引いてやってきたのだ。
しかも銅貨とかなくて、大銀貨がほとんどで、手前には金貨も結構な枚数が見える。
「これ……全部税収?」
「はい。シェイル商会の過去最大利益、フルール鍛冶屋とドゥルグ大工屋も過去最大利益を上げております。さらに三社が盛り上がったおかげで、酒場などの利益も上昇したとのことです」
なるほど……税率85%だから、みんなが汗水たらして稼いだ利益がほぼうちに入ってきたわけか。
……税率を下げるのは簡単だ。たった一言で済むから。でもそれで解決できるのか……? いや、それが全ての解決になるとは限らない。大事なのは……今目の前の大量の貨幣をどう使うかだと思う。
それに税金取られ過ぎて~などの嘆願書が届いたわけでもない。
ならば、ありがたく使わせてもらおう。
「これ全部いくらあるの?」
「大銀貨12000枚、金貨50枚でございます」
「……へ?」
「金貨換算ですと、全部で170枚になります」
「…………ふう。これは夢かな?」
「いえ。現実です。ドルゲマイン州始まって最高税額となります。今までの一年分が一月に入ったことになります」
「……そっか」
税は全て領主に入る。そして、全ての貴族は毎年一定額を国に納めるだけでいい。税収が少ない貴族は納める額も少ないが、領地がある貴族はそこそこ納める額が大きい。だが、これだけ税収が増えれば支払うのも簡単になるな。
さて……日本円換算で……170億円の税がある。しかも来月もおそらく同額くらいか……これ以上になる可能性だってあるんだよな。
ふう……落ち着け。ここからが大事だ。ここから俺の死亡フラグをへし折れるくらい領地を発展させて、父と母も敬われる貴族にするんだ。
よし。先月考えていた作戦を実行できそうだ。
「セバス。シェイル商会、フルール鍛冶屋、ドゥルグ鍛冶屋、兵士団の代表を全員呼んでくれ」
「かしこまりました。本日の夜に来るよう手配いたします」
「頼んだ」
深々と頭を下げたセバスが出ていく。
……こんな大量のお金を残して俺一人にしないでほしいのだが!? 安全だとわかっていても何かソワソワしちゃうぞ!?
ゲーム時代はこういうお金は全てインベントリーに入れてたから、盗まれたり無くなったりすることはなかった。でも異世界にはインベントリーは存在しない。
代わりに、魔道具というモノが存在し、前世でいう機械や道具に魔法が混ざった感じのモノとなっている。
その中に『アイテムボックス』があるので、これを使って目の前のお金を全て入れる。
ふう……これでお金が盗まれることはもうない。『アイテムボックス』は一度主設定さえしてしまえば、主以外の人は使えない仕組みだからな。
「アリス! 紅茶!」
待ってましたと言わんばかりに、アリスが紅茶セットの台車を引いてやってきた。
手早く紅茶を淹れてくれる。
アリスもすっかり慣れたもんだな。
緊張した心に紅茶を流し込めば、少しは落ち着くかもしれない。
「セシル様……?」
「どうした? アリス」
「その……お手が……すごく震えておられて……紅茶がこぼれそうです」
「お、お、おう」
気のせいじゃなかったああああ! 大金を手に入れすぎて、心が落ち着かねぇんだあああああ!
くっ! このままじゃ飲めないっ!
「え、えっと……セシル様。失礼します」
近付いてきたアリスは、俺から紅茶を受け取ると、ゆっくり口元に運んできてくれた。
まるで自分の意志で飲んでいるかのような、完璧な角度で口の中に紅茶が広がっていく。
ん! やっぱ異世界の紅茶は最高だ!
「ありがとう。おかげで少し落ち着いた」
「い、いえっ!」
それにしても……アリスっていろいろできるんだな。何というか、真似るのがすごい上手いというか、人の行動とか見極めるのが早い上に完璧というか。
そういや、近隣の貴族に対するお茶会だけど、その日取りも決まり、来月の中旬に決まった。
もっと早くてもよかったけど、父と母がその日を選んだので文句は言わない。
母は毎日楽しそうにお茶会で出す料理を練習していて、俺も父も母の美味しい料理が毎日楽しみである。
これだけ多額の税金があるなら、母のための高額食材を用意してもいいかもな。でもそんなことよりも美味しい食材を用意してあげたいね。
その日の夜。
仕事の速いうちの執事のおかげで、みんなが集まってくれた。
もちろんみんなに振る舞う料理は母の手料理。
「どれも……食べたことがない程に美味しいですね」
「気に入ってくれたならよかった」
兵士団長を唸らせたのなら母も満足してくれると思う。
他の面々も非常によかったみたいだ。
「さて、ここから本題に入りたいと思う。これからとある事業を起こしたい。それにはここにいる全員の協力が必要だ。一人欠けたら成功はないと思う。セバス」
「はっ」
俺の合図でセバスは全員に紙を渡した。
「これは……!?」
「この事業が成功すれば、ここにいる全員がより商売をしやすくなるはずだし、今後にも繋がるはずだ。ぜひとも、みんなの力を貸してもらいたい」
全員がそれぞれ目を合わせる。
突然こんな大事業を突き付けられると混乱すると思うが、ここに集められた時点で何かあるとは思ってきたはずだ。
「今すぐ答えを出してほしいわけじゃないが、今月のみなの納税のおかげで資金も潤沢になった。一日でも早く始めたい。悪いか期間も設けさせてもらう。返事は明日の夜まで。よろしく頼む」
みんな困惑しているが、決して悪いものではない。
きっと大丈夫だろう。
兵士団長が手を上げた。
「どうぞ」
「この事業に我ら兵士団はあまり関係ないように思えますが……?」
「いや、兵士団にこそ協力が必要だ。二枚目に詳しく書いてある。それに、アデリア自警団も形になりつつあるが、こういう大掛かりな事業で指揮を執るにはまだ早い。そこを兵士団長にお願いしたいのだ」
「……かしこまりました。明日までに返答させていただきます」
「ああ」
突然の夕食だったけど、俺は非常に満足のいく食事会を送った。




