第11話 自警交渉作戦
数日後。
俺はセバスと一緒に兵士団にやってきた。
「わ~い! 今日はサクっと通してもらえた~嬉しい~」
「セシル坊ちゃま。顔が笑っていませんよ」
俺は自分の頬っぺたを押し込んで笑ってみせた。
「こえへぇもひゃめ~?」
「…………それで、多忙なお方がこんな場所に何の用でしょう」
「団長って全然笑わないよね」
「それで笑う方が少ないでしょう」
ちぇっ! 可愛いセシルちゃん(10歳)が効かないとはな。
「それで、俺に感謝でも言わせるために来たんですか?」
「いや、いらないよ。そもそもそういう約束だったし。今日は商売の話できた」
「商売……? ここは兵士団ですよ?」
「兵士団長にしかお願いできないものだから。これから――――自警団を作りたい。装備は鍛冶屋が軌道に乗ったら十分に行き渡らせられると思うけど、問題は戦う術がないってこと。なので兵士団の訓練に参加と彼らの手ほどきをお願いしたい」
「…………」
「ちゃんと兵士団に追加でうちからボーナス支給するし、兵士達にとっても素人を育てることは自分達の成長を知る良いきっかけになると思うんだ」
「…………」
兵士団長はじっと動かずに俺を見つめる。
ん……足りなかったか? だからといって給料は王国が支払ってるからそれを上げるのは俺の一存ではできないし、兵士団長にだけ裏金を渡すのも堅物のこの人は嫌うだろうし、俺もあまりやりたくない手段だ。
せっかくならクリーンな政治を目指したいからな。税率85%は一旦置いておいて。
「こほん。兵士団長? もっと欲しい条件があるなら言ってほしい。できる限り受け入れたい」
「……セシル様。一つ聞いてもよろしいですか?」
「うん?」
「仮に自警団を育てたとして、セシル様は自警団に何をさせるつもりですか?」
「やらせたいことはたくさんあるよ。まずは各街の警備でしょう? 兵士団がいるけど、魔獣の遠征に出た際には戦力が下がるし、兵士団はあくまで民の防波堤にしかならないでしょう? 自警団がいれば、街で起きたいざこざも解決できるし、彼らが育てばドルゲマイン州の兵士団に入りたい人も出て戦力アップにも繋がりそうだし」
「……ですが、彼らを維持するには莫大なお金が必要です」
「いいんじゃない? 税収いっぱい余ってるから。まあ、やりたいことはたくさんあるから今後いろいろやりたいけど、今はとにかく戦える人を増やしたい」
「…………」
兵士団長はまたじっと考え込んだ。
ただ時間だけが空しく過ぎるけど、兵士団長の考えがまとまるなら安いものだ。
そして、重い空気から兵士団長が口を開いた。
「わかりました。ですが、こちらも条件があります。自警団の人数を全てこちらで指定させてください」
「むしろ助かるよ。兵士団で面倒見れる人数を把握し、追加するときも教えてくれるとこっちもやりやすいから。セバス。あれを団長に渡して」
「かしこまりました」
事前に作っておいた“自警団の契約書”を彼に渡した。
「それは自警団に入る者に交わしてもらう契約書だよ。選抜も含めて兵士団にお願いするよ。やる気ありそうだなとか、その契約書に気持ちよくサインしそうな人の選抜を頼むよ」
「……これを全部セシル様が考えられたんですか?」
「そうだけど、足りなそうなものあるなら言ってくれれば、追加は検討するよ?」
「……いえ。全くありません。むしろ……俺でさえこんなことは考えたこともない内容です。俺が知っている普通の自警団とは少し違うようですが、面白そうですね。ではこちらにかかる金額等はその都度請求させていただきます」
「うん! よろしくね!」
俺が一番やりたいのは、この自警団設立である。
ゲームでも自警団は非常に使い勝手がいい。
この世界にはいろんな職業があるけど、わりとなんでも卒なくこなせる集団が自警団だ。例えば、魔獣を討伐や隣国との戦いで活躍するのは兵士団だが、彼らは王国兵だ。命令して素材を集めさせることはできない。となると素材が欲しい場合は冒険者を頼らないといけないんだけど、この有様のドルゲマイン州に冒険者ギルドなんてない。
ゲームでも冒険者ギルドを設置できるのはわりと進化したあとだ。
なので今すぐ素材を手っ取り早く手に入れたいなら、やっぱり自警団だ。しかもどんどん強くなるし、州内のごたごたをすぐに片付けるし、治安の安定にめちゃくちゃ力を発揮してくれる。
なので! 今は自警団最優先だ!
これが終わったら……今月はちょっと厳しいけど、来月はあれをやりたい。
◆
セシル・ドルゲマインが兵士団の兵舎を後にする。
窓から彼の後ろ姿を見守る兵士団長は、彼らが去ったあと、手に持っていた紙に目を移した。
「これを……十歳の子供が考えた……? しかもあのセシルが…………」
そこにはいくつもの項目が書かれており、民の命を助けることを最優先とする。などの文言がずらりと並んでいた。
王国には何人もの貴族がいて、大抵の貴族の在り方を知っている兵士団長は深い溜息を吐いた。
「平民上がりの法務官僚ですら……平民感覚があってもここまで平民に寄り添った条件を作れるのか……? しかも以前は傍若無人な性格をしていたが……噂では高熱を出してから人が変わったようだと言ったのは……やはり本当のことのようだな。ゲスリン傭兵団の時はてっきりセバスの仕業だと思ったのだが……あれも全てセシルという少年が起こしたことに間違いない」
兵士団長はそっと紙をテーブルに置き、窓の外に広がる――――荒んだ街並みを眺めた。
州都アデリアは上流社会とそうでない境界線が存在し、その前後であまりにも光景が違う。
兵士団長はその実情を知っているからこそ、より平民に寄り添った考え方を持っていた。
「もしセシルが……いや、セシル様が本当に平民よりの行政を行ってくださるなら……」
兵士団長は拳を握りしめた。




