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1-18 未熟者の魔女見習いですが、亡くなった師匠が懸賞で特級使い魔を当ててました!

楓ヶ森の老魔女ナラマが世を去って、一人残された弟子のアリン。

修行の完成には程遠く、魔法使いの道をいったん諦めての、不本意な遠回りを余儀なくされかけた彼女だったが、遺品の整理中にやってきた都の冒険者・ペイルが予想もしない展望をもたらした。


 ナラマが生前に応募していた、魔法用品店ヘイローズ(後光堂)の懸賞キャンペーン。その抽選が見事に当たり、権利は優先的に相続者である従姪のアリンに帰するというのだ。賞品は特級の使い魔で、任意に選べるという。

 高ランクの使い魔には、主人に高度な魔法の知識を与え助言する能力があるのだった。アリンはペイルに護衛を頼み、喜び勇んで都へと旅発つ。


 都についた二人が遭遇したのは、ヘイローズの地階を破壊して現れた、恐るべき三体の魔物たちだった。彼らは互いに盟約を結んでおり、三者ともに同じ主に仕えたいというのだが、チケットで指定された使い魔は一体のみのはずで……?

 遺品の整理が、今日も終わらない。

 

 古ぼけた小屋の床にしゃがみ込んで、見習い魔女のアリンはため息をついた。大叔母にあたる師匠、“楓ヶ森の魔女”ナラマを看取って三日になる。

 足元に積まれた古い書物の表紙を指でなぞると、乾いた埃の上に太い一本線が残った――奇しくも休止と妨げ(イサ)のルーンだと気づく。

 

「なるほどね」


 無意識に成立していた占いに、奇妙な納得感があった。 

 修行に入るのがやや遅かったアリンの魔法は、ひいき目に見てもまだ半人前だ。修めきれていない秘儀や学識、手先の技術は枚挙にいとまがない。今のままでは、師匠の後を継いで身を立てていくには明らかに不足なのだった。

 

 かといって、誰かについて学び続けるというのも難しい相談だった。当世の魔法使いといえば都の学院で学ぶのが普通だが、あいにくとナラマの伝えた術は学院で学べるものとはまるきり毛色が違っている。

 

 ――ごめんねぇ。あたしがもう少し長く、生きていられたら……

 

 身罷る直前、ナラマはベッドの上でひどく無念そうにそうこぼしたものだった。

 

 このままではいずれ八方ふさがり。箪笥の底からさっき見つけた古財布よりも、何かもう少しマシなものが遺品の中に見つからない限りは、小屋に鍵をかけ身一つで都に出て行って、薬種屋の下働きの口でも探すことになりそうだ――鬱々とそんなことを思いながら、次の棚に手を伸ばした時だった。

 

 ドアの上に吊るしたベルがカランカランと鳴り響いた。次いでノックの音が。

 

「はぁい?」


 上体をドアへ向け、半ば裏返った声で何とか応じる。


 ――ナラマ・スタンフェルドさんのお宅はこちらですか? お届けものです。

 

「お届けもの、ですって……?」


 何だろう――外から聞こえたのはどうも若い男の声のようだ。アリンはためらいながら掛け金へ手を伸ばした。

 

 開けたドアの向こうには、旅装に身を包んだ青年が立っていた。小洒落た装飾の施された革の胴着と、耳から上を覆う形の簡素な鉄兜を着けている。

 

「ええと、どちら様で……」


「あ、俺はペイル・ドナヒューって言います。都のギルドで配送依頼を受けた『運び屋』でして。貴方がスタンフェルドさん?」


「あ、いえ。師匠は――ナラマ・スタンフェルドは私の大叔母です。三日前に亡くなりました」

 

「え、そりゃ……お悔やみ申し上げます」


「いえ、どうも」


「ふむ。じゃあつまり、貴方が相続人ってことで? 合ってますかね?」


「……えっと、師匠に他に身よりはなかったみたいですし、多分」


「よっしゃあ、何とか依頼達成だ……あー、えっと」


「アリンです。アリン・ミッケルベルン」


「ありがと。ミッケルベルンさん、こちらをどうぞ。都で一番大きな総合魔法用品店『ヘイローズ(後光堂)』さんのギフト券です」


 そういうと、ペイルは分厚く膨らんだ封筒をアリンに手渡した。


「……ギフト券?」


 アリンは封筒を目の高さにかざすと三回瞬きして眉をしかめた。はて、いくらなんでもこれは大げさというか――

 

「券にしては、分厚すぎない?」


「ああ、そりゃたぶん梱包材のせいですよ。なんだかおっそろしく高価な券らしくて、ヘイローズとしては皺一つ折り目一つ付けさせたくないそうです。店の沽券にかかわるとかで」


「……あ!」


 思いだした。

 

 急病で倒れて起きられなくなる少し前。ナラマが一人で都まで箒を飛ばし、占い水晶球(オーブ)の換えを都合しに行ったことがあったのだ。その時になにやら店頭で一枚渡された応募用紙に、ダメもとで記入してきたという事だった――たぶんその話だ。

 

(『魔女用大鍋の新品が四等にあった』って言ってたから、そっちが狙いだったんだろうけど……)


 ヘイローズの懸賞キャンペーン。ナラマは一体何を当てたのだろう?

 慎重に封筒を開けて取り出した券はピンクゴールドの箔押しが施された手の込んだもので、確かに紙片だけで結構な値打ちがありそうだ。券面にはこうあった――

 

====================


 特級使い魔(ファミリア)引換券

 

 ヘイローズ本店にてこの券と交換に、ご希望の最高ランク使い魔を一体進呈いたします。

 冒険の旅のボディガードに。長い探求生活の伴侶に。生涯の友、そして未熟な後進の為の教師としても。

 お客様に最適の使い魔を、納得いくまでお選びください!

 

 ※引き換えは本年狩猟月の朔日まで

 

====================



「うっそでしょ……!」


 アリンは激しい動悸とともに顔が熱くなって、呼吸が乱れるのを抑えようもなかった。

 

「かは……ぜひっ。待って、ちょっと待って。いくら何でも都合よすぎて……信じられない」


 過呼吸になりかけながらもう一度券面に目を走らせる。どうやら本物だし書いてあることは真っすぐそのまま、ねじくれた解釈を差し挟む余地もない。


 世に『使い魔』と呼ばれる魔法使いの眷属は、契約の際に人語を操る能力と、高度な知性を付与される。

 そして中でも特に格の高いものには、魔術師や錬金術師に対して秘された異界、高次世界の知識を手ほどきし、助言を与えることが可能なものさえあるという――

 

 で、あれば。

 

「私、魔法使いとしてやっていけるかも……師匠、あなたはやっぱり最強ですよ……!」


 思えばあれこれと粗忽なヘマも多いわりに、ナラマは妙に運がいいというか、それを当て込んだように楽観的な性質ではあった。どうやらその運に、自分も助けられることになりそうだ――占いは外れ!

 

「……あー、何かよくわからないけど、おめでとうございます? あとすみません、こっちの伝票にサインを……はい、確かに」

 

「どうもお世話になりました! 狩猟月の朔日か……あと十日しかないけど、行かなくちゃ」


 そこまで考えたところで、アリンの思考は不意に石につまづいたように立ちすくんだ。

 都まで、どうやって行けばいいのだろう。森からろくに出たこともない、無防備な世間知らずの魔女見習いが、空も飛べずにてくてくと街道を?

 

「あの、なんか喜んだりうつむいたり忙しそうですけど、俺はもう帰っていいですかね?」


 何度かこちらを振り返りながら街道の方へと歩き出しかけたペイルを、アリンは袖を掴んで引き留めた。

 

「待って! 都まで、私も送ってください。雇いますから!」


 高価なチケットの配達を任されて、一人でここまでやってきた以上、このペイルという男は信用に足る腕利きのはず――とっさにそこまで判断して、アリンはこの瀬戸際を踏み切っていた。

 


 * * *



「すみません、何から何までお世話になっちゃって」


「いいってことですよ。帰りは稼ぎ無しで移動だけ、ってことも多いんで」


 ペイルは前方に顔を向けたまま、鞍の後ろに座ったアリンに応えた。


 あれから四日の旅程を経ている。路銀にはナラマの古財布に入っていた銀貨をあてた。大金というほどではなかったが、とりあえずペイルに護衛を頼み、宿場で馬を借りるくらいの額はあったのだ。

 

 眼の前には今、都の大通りが見えている。財布は通行税にとどめを刺されたが、小屋から持ち出した薬草や水薬をこの街で売れば、帰りの路銀には足りるだろう。それに、アリンは馬代わりに乗り回せる使い魔を選ぶつもりだった。


「見えてきましたよ。あのでっかいのがヘイローズです」


「あれが? お城じゃなくて?」


 ペイルが指さした先、バラ色の外壁を持つ豪壮な三階建てにアリンが目を凝らしたその時だった。

 どん、という地響きと共に足元が大きく浮き上がり、雑踏の中に悲鳴と怒号がまき散らされた。土煙に混ざって細かな砂礫が飛んできて、幾粒かが頬を掠める。

 

「何なの!?」


「危ない!」


 揺れで落馬するところを、辛うじてペイルが庇ってくれた。もつれ合うように馬を降りて、姿勢を低く身構える。

 漂う土煙ではっきりとは見えないが、どうも前方に何か大きな生き物がいる様子。あたりに響く都人の悲鳴で、正体にはすぐ見当がついた。

 

 ――大変だぁー! 地階の使い魔売り場から、魔物が……!!

  

 ――逃げろ! 最高ランクのやつだ、未契約でも大魔法を操るぞ!!

 

「最高ランクの魔物って、もしかして……」


「アリンさん、危険なんで俺の後ろから出ないで!」


 確認しようと身を乗り出しかけたアリンを、ペイルが慌てて引きもどす。

 

 脱走した使い魔は複数いるらしかった。

 一体は巨大な猫のような、しなやかな身のこなしを見せる四足獣。ゆっくりと首を振りながら、そいつがあくび混じりの声を上げた。

   

 ――今更だがな。こんな無茶をするよりも、当選者とやらが来るまで待った方がよかったのではないか……?

 

 もう一体は、シンバルを三十枚並べたような騒音と共に尾羽を打ち振るう、極彩色の怪鳥。

 

  ――そうですねぇ。人間の一生に仕えたところで、私たちから見ればほんの瞬きの間にすぎません。

  

 声も姿も美しいが、なぜかひどく邪悪な気配がする。

 

 そして、いま一体は――

 

 ――ふざけるな! 人間どもめ、使い魔として契約するのは百歩譲って許してやらんでもない、我が種族の伝統を紐解けば珍しいことでもないからな。だが、この俺様が()()()()()()の賞品とはどういうことだ!!

 

 頭部に長大な角を戴き、軍服めいた黒いコートに短いケープをはためかせた、異形の少年が瓦礫の上に降り立って、そう叫んだ。


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