第6話「未熟な継承」―兄の剣―
咀嚼する音が続く。
「生まれなければ――」
わずかに、口元が歪む。
「俺たちみたいに、ならずに済む」
嚥下する。
満足したように、細く息を吐く。
エレナの身体が崩れる。
まだ生きている。
目が動く。
口がわずかに開く。
しかし――
何も残っていない。
それでも、手はあるはずだったものを掴もうとしていた。
◆
夜の空気が肺を焼く。
それでも立ち止まれない。
だが――
「……来る」
カイルはリィナの手を引き、少女の背を押す。
「走れ!!」
二人の少女の姿が小さくなる。
嫌な予感は的中した。
振り返るとそこに、いた。
怪物が立っている。
口元から首元にかけて、赤黒く濡れていた。
滴る。
まだ温かいものが。
「……」
言葉が出ない。
分かってしまった。
(もう……)
「……っ」
カイルが一歩踏み出し、剣を構えた。
震えている。
だが、踏み込む。
(剣は振り出しで決まる)
父の声が蘇った。
呼吸を落とす。
肩の力を抜く。
腰を沈める。
そして――
「――閃突ッ!!」
未熟。
速さも、重さも足りない。
しかし。
勇気ある一歩は、怪物の身体を穿つ。
風穴が開く。
血が飛び散った。
しかし――
埋まる。
瞬時に。
届かない。
「……はは」
笑いが漏れる。
わかっている。
自分じゃ勝てないことくらい。
それでも。
「……来いよ」




