表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エリミネアー世界の敵を排除するー  作者: AtoRei
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/34

第16話



「やっぱり、人間って気持ち悪いの。だから、壊したくなるの」


 ぶぅん、と羽音と共に【翅持ち】の姿が消える。


 しかし、今度は見失わなかった。殺意が一直線にハーレインに向かう。


「――っ!」


 リュシアが踏み込む。考えるより先だった。届くはずがないと分かっていても、身体が動いた。白い影と銀の閃きが交差する。甲高い音が死の大聖堂に響いた。リュシアのレイピアが骨針を弾く。腕が痺れる。


 重い。


 吐息がかかる距離で、縦に裂けた瞳が覗き込んでくる。


「庇うの?」


 リュシアは答えない。答える余裕などない。二本のレイピアで白い指を押し返す。腕が軋み、骨が悲鳴を上げる。それでも退けない。


「あなた、そういうところ。本当に壊し甲斐があるの」


 その瞬間、横からユスティナの大剣が薙ぎ払う。【翅持ち】が後方へ飛ぶ。その着地点へアンテラが滑り込んでいた。


「しつけぇんだよ!」


 双短剣が喉元を裂く。黒い体液が弧を描いて飛び散る。だが【翅持ち】は笑っていた。無邪気な子供のように。


「……いいわ」


 すぐに傷が塞がる。


「あなたたち、本当に綺麗」


 その声と同時に、森の外――【死灰雪原(しかいせつげん)】の方角から、鐘のような爆音が響いた。一度、二度、三度と、骨に響く音。


 ユスティナの表情が変わった。


「……オーロラフォード」


 ハーレインが静かに呟く。その声には珍しく感情があった。


「警鐘です」


 アンテラの顔から笑みが消える。


 三度。それが意味するものを、全員が知っていた。防衛線突破。上位種の侵入。


 【翅持ち】は裂けた口で笑った。


「残念。時間切れなの」


 ユスティナの声が低く落ちる。


「……貴様は、囮か」


「失礼なの。私はちゃんと、あなたたちを殺しに来たの」


 翅が震える。千切れた膜がすでに半分以上戻っていた。


「でも、あちらにはもう別の子たちがいるの」


 ハーレインの瞳が淡く紫がかる。未来を見ている時の目だ。


「……さらに二体。【角持ち】と、【骸】ですか」


 【翅持ち】は嬉しそうに頷いた。


「ええ。鹿の王様みたいなのと、喰うことをやめた空っぽの子」


 リュシアの指が柄を強く握る。


 こんなものがあと二体。

 しかも街の中に。

 人が、まだそこにいるのに。


 ユスティナは一瞬で判断した。迷いはなかった。


「ここで、こいつを撃破する」


 誰も異論はない。ここで足を止めれば、北が落ちる。


 「ハーレイン、道を読め」

 「アンテラ、右を開けろ」


そしてーー。


「リュシア」


 銀の瞳がまっすぐこちらを見る。冷たいのに、不思議と温度があった。


「お前は、前だけ見ろ」


 たったそれだけ。けれど、胸の奥の迷いが静かに沈んでいく。リュシアは頷いた。


「……はい」


 初めて、本当に自分の足で立てた気がした。


 【翅持ち】が笑う。


「私を倒せると思うの」


 また上位種の姿が消える。


 だがその軌道に、アンテラが飛び込んでいた。


「思ってねえよ!」


 双短剣が交差する。激しい火花と共に、耳を裂く衝突音が響く。


 アンテラの口元が獰猛に歪んだ。


「でもな――お前の動きを止めるくらいはできる!」


 その言葉が終わるより早く、地を蹴る。【翅持ち】の白い指が肩を裂くが、構わない。アンテラはそのまま双短剣を交差させ、透明な膜の根元を狙う。


「虫ならよ――羽を潰せば、落ちるだろ!」


 ぶち、という嫌な音。膜翅が根元から裂け、黒い体液が飛び散る。【翅持ち】の身体が大きく軌道を崩した。


「っ――!!」


 声にならない悲鳴。


 その瞬間、ハーレインの目が細くなる。


「左上、二歩先。半拍、後です」


 ユスティナはもう動いている。重い鎧とは思えない踏み込み。大剣が低く構えられる。


 リュシアも走った。


 【翅持ち】の視線がこちらを向く。縦に裂けた瞳に歓喜が宿る。


「来るのね。やっぱり、あなた」


 声を最後まで聞かず、リュシアはレイピアを抜き放つ。


「――《閃撃(せんげき)》!」


 銀閃が【翅持ち】の白い胸郭の奥へ深く。脈打つ核を刃先が捉える。


 【翅持ち】の口から初めて本当の悲鳴が漏れた。


 頭上から影が落ちる。


 ユスティナ。


 大剣を両手で振りかぶっていた。その姿は処刑人のようだった。


「痛みは、生きている証だ」


 振り下ろされる大剣。


 世界が一瞬黒くなった。大剣が核ごと【翅持ち】を叩き潰す。骨が砕け、翅が裂け、菌糸の床が陥没した。


 黒い体液と血が雨のように降り注ぐ。


 地面には大きく抉れたクレーター。その中心に、もう形を保っていない肉塊が沈んでいた。


 核は完全に砕けていた。


 最後の呼吸のような震えだけが、裂けた口元をわずかに動かした。


「……ああ」


 ひどく穏やかな声だった。まるで長い夢から覚めたように。


「こうして、壊れるのは……少しだけ……美しいの」


 白い胞子が雪のように降り、翅の欠片がその中に混じって舞う。


 そのまま、【翅持ち】は完全に動かなくなった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ