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エリミネアー世界の敵を排除するー  作者: AtoRei
第2章

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第12話「侵腐の聖堂」 ―歓迎―



 森の奥へ進むほど、光は死んでいった。


 頭上を覆う菌糸の天蓋は、とうに灰色の空を呑み込み、肉色の胞子嚢が腐った果実のように重く垂れ下がっている。白い胞子が雪のように静かに降り、肩や髪に積もっては、じわりと湿った冷たさを残した。


 足元では白濁した菌糸が血管のように地面を這い、踏むたびにぬちり、ぐちりと音を立てる。

 まるで巨大な生き物の腹の中を歩いているようだった。


 空気は重く、湿った胞子の匂いと古い血の臭いが肺の奥まで沈み込む。呼吸をするたび、身体の内側まで侵されている気がした。


「なんだ?……静かすぎるだろ」


 アンテラが短剣を握り直す。珍しく、声にいつもの軽率さがなかった。

 先ほどまで群れをなして襲ってきた幼体たちは、いつの間にか姿を消していた。あれほど飢えた獣のように殺到していた異形が、今は一体もいない。それが、何より不気味だった。


リュシアは無意識に呼吸を浅くした。


いる。何かが。


幼体でも、成体でもない。


もっと深く、もっと古い“意思”のようなものが、森の奥で静かに息を潜めていた。


「止まるな」


前を行くユスティナの声が、低く響いた。振り返りもせず、ただそれだけを言う。


「足を止めれば、呑まれる」


森は、躊躇うものから静かに喰らう。


誰も、返事をしなかった。


この森では、声を出すこと自体が場違いに思えた。

四人はさらに奥へ進む。


やがて視界が開けた。


そこは森の中に穿たれた巨大な空洞だった。


菌糸の柱が幾重にも絡み合い、天へと伸びている。大聖堂の列柱のように並ぶそれは、神を祀るためではなく、何か巨大な臓器を支えるために存在しているように見えた。


天井からは薄い膜のような菌糸が垂れ、淡い燐光を帯びて揺れている。白濁した壁面には、かつて生き物だったものの骨が無数に埋め込まれていた。

静謐で、ひどく美しかった。


――美しい。


そう思った自分に、吐き気がした。


ここは墓場だ。巨大で、“生”を喰らい続ける、生きた墓。


その時、ハーレインの足がわずかに止まった。ほんのわずか。

普通なら見逃す程度のほんの少しの違和感。


だが、ユスティナだけがそれに気がついた。


「どうした、ハーレイン」


短い問い。


ハーレインは答えず、ただ前を見ていた。眼鏡の奥の瞳が、わずかに紫立っていた。

その表情を見て、ユスティナの喉がわずかに鳴った。


嫌な色だった。


未来を見る時の瞳だ。


「……来ます」


ようやく彼は言った。


「何がだ」


ハーレインはわずかに笑う。その笑みは、まるで死刑宣告のように穏やかだった。


「歓迎です」



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