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エリミネアー世界の敵を排除するー  作者: AtoRei
第2章

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第9話「姉妹」―生きる目的―



ユスティナが去った後も、塔の上には風だけが吹き続けていた。

リュシアは動けなかった。

星は冷たく燦然と輝いているのに、その下の世界は確かに終わりに近づいていた。


「生きる……」


口にした言葉が、喉の奥に重く残る。

復讐よりも軽く、任務よりも曖昧で、死よりもずっと厳しい響きだった。


「……分からない」


正直な吐露だった。


リュシアはずっと、たった二つの目的のためだけに剣を振ってきた。


家族を喰った【胎児喰い】を殺すこと。

そして――

消えた妹、リィナを見つけること。


それ以外の生き方など、知らない。

憎しみの先に何があるのかも、取り戻したその先で、どう生きればいいのかも。


考えたことがなかった。


それでも、あの銀髪の戦士は言った。

死ぬな、と。


ふと、背後で軽い足音がした。

気配は獣のように鋭い。


「へえ、まだいたのか」


振り返ると、アンテラが壁にもたれていた。

星明かりに金髪が煌めき、眼光が宿る。


「……何」

「別に。眠れねえだけさ」


アンテラは肩をすくめた。


「明日から北だろ。上位種だろ。No.10が死んだんだろ。普通なら酒でも飲みてえところだが、ここの連中は真面目すぎてつまんねえ」


「……任務前に酒は駄目」


「わーってるよ。言ってみただけ」


アンテラは煩わしそうに耳を掻きながら、リュシアの隣まで歩み寄ってきた。

二人は並んで夜空を見上げた。


しばらく、沈黙が続く。


「ユスティナに絞られたか」


リュシアは答えなかった。

アンテラはその沈黙を肯定と受け取り、にやりと笑う。


「あの人、言い方キツいからな。正論で殴ってくる。【エリミネア】の幼体よりタチが悪い」


リュシアの視線がわずかに動いた。

アンテラは夜空を見上げたまま、静かに続ける。


「でも聞いとけ。あの人がわざわざ呼び出すのは珍しい。期待されてんだよ、お前」


「違う」


即座に否定した。

アンテラが横目でこちらを見る。


「違うのか?」

「……足手まといだと言われた」

「そりゃ違いねぇ」


淡々と言われ、リュシアの眉がぴくりと動く。

アンテラは小さく笑った。


「怒んなよ。今は、って話だ。少なくとも上位種相手ならな」


風が吹いた。アンテラの声から、軽さが少しだけ剝がれ落ちる。


「上位種は成体なんかとは訳が違う。あいつらはただ喰いに来るんじゃない。選別してるのさ」


「……選別?」


「そうだ。獲物としてか、餌としてか、あるいは——自分に足りない何かとしてか」


リュシアは、先日倒した荷馬車の【エリミネア】の言葉を思い出した。


名前が欲しかった。

何かとして見られたかった。


胸の奥が、かすかに軋む。

アンテラは続ける。


「だから嫌なんだよ。あいつら、たまに人間みたいな目をする。殺しにくい」


「……それでも、排除するだけ」


「だな」


アンテラは笑ったが、その目は笑っていなかった。


「……私には妹がいる」


突然の告白に、リュシアの視線が動く。


「ベラトリス、ナンバーは38だ。真面目で融通が利かなくて、出来もしねぇのに、すぐ人を庇う」


アンテラは双短剣の柄を軽く叩いた。金属音が夜に乾いて響く。


「今回、あいつは東に残る。ミューロンウッド方面の警戒だってよ」


「……」


「だから北はさっさと片づける。上位種だろうが何だろうが、殺せば終わりだ」


笑っている。

けれどその笑みの底に、焦燥が透けていた。


リュシアは目を伏せた。


同じだ、と思った瞬間、胸が疼いた。


同じ目に遭って欲しくなかった。


「……死なない方がいい」


アンテラがきょとんとした目を瞬かせる。


「お前がそれ言うのかよ」

「……言われたから」

「ユスティナに?」


リュシアは小さく頷いた。

アンテラは声を殺して笑う。


「あたしの心配してくれてんのか? いいじゃねぇか、生意気で」


そして、軽く、けれど確かに言った。


「じゃあお前も死ぬなよ、リュシア」


その名を呼ばれた瞬間、リュシアの胸に小さな波が立った。


「……寝ないの?」


アンテラは肩越しに笑った。


「寝るさ。とっとと任務を片して、妹のとこ帰んなきゃいけねえからな」


金髪の戦士は回廊の闇へ消えていった。

残されたリュシアは、もう一度空を見上げた。


リィナ。

ベラトリス。


二つの名前が、リュシアの胸の奥で静かに重なり合う。


風が吹いた。


リュシアは今度こそ、足音を確かめながら塔を降りた。



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