第6話「No.4」—届かない背中—
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ユスティナが司令書を広げた。
誰も指示を出していないのに、残った者たちの立ち位置が自然と整う。
「No.22、アンテラ」
「おう」
短い返事。
短く刈り上げた金髪の女性が、軽い足取りで一歩前に出る。
腰に二振りの短剣を下げ、動きに無駄がない。
口元には薄い笑みが浮かんでいるが、瞳の奥には獰猛な光が宿っていた。
「どんな奴が相手でも、ヤられる前に殺る。それだけだ」
軽い口調。
しかしその声には、血の匂いが濃く混じっていた。
《機関》の理念を体現するような、容赦のない戦い方をする女だと噂されるアンテラ。
一瞬だけ視線を他の戦士たちに這わせ、獲物を値踏みするような笑みを深める。
「血の気が多いのは結構だが、今回の任務……軽率な行動は慎むように」
アンテラは肩をすくめる。
「へいへい、善処するぜ」
まるで反省の色がない。
それでも、それ以上は言われない。
ユスティナは最初から期待していないのだろう。
アンテラは口元の笑みを消さないまま、後ろへ下がった。
「次、No.18——ハーレイン」
「はい」
静かで穏やかな声。
音もなく、長身の男がすでに一歩前に出ていた。
手にしたバルディッシュは彼の身長ほどもあり、銀縁の眼鏡の奥で眠たげな瞳が細められる。
「今回も頼りにしている」
「さて……」
ハーレインは柔らかく微笑んだ。
「——なんのことでしょう?」
上品で、まるで茶会での会話のように軽やかだった。だが、その視線は一瞬だけ、ユスティナの背に落ちた。
まるで、そこにまだ存在しない傷を見ているように。
ユスティナは何も言わない。
それ以上の言葉は不要と判断したように、視線だけを次へ移した。
「No.42」
リュシアは一歩前に出た。
「……リュシア」
視線はユスティナから一ミリも外さない。
唇がわずかに動いた。
「……私は——」
一歩、踏み出しかける。
その瞬間。
「下がれ」
即座に、感情の欠片もない声で切り捨てられた。
迷いも、揺らぎも、一切ない。
リュシアの中で、何かが止まる。
呼吸が、半拍遅れた。
声が届く距離にいる。
手を伸ばせば届くはずの位置。
それなのに、完全に、遠い。
視界の中にいるのに、世界の外側にいるような距離。
ユスティナは最後まで、一度も彼女を振り返らなかった。
その背は、最初からそこに“誰もいなかった”かのように、ただ任務の先だけを向いていた。
リュシアは何も言わず、静かに元の位置へ戻った。
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