第4話「願い」—名も無き失敗作—
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「……《閃撃》」
左の巨腕ごと角を吹き飛ばし、胸部に一撃を叩き込む。
しかし手応えが軽い。
厚い脂肪が核を護っている。
「でへへ……いいな、それ!お前みたいな奴、羨ましくて仕方ねぇんだ」
巨漢が笑いながら右腕で角を振り回す。
リュシアは身体を回転させて受け流し、二本のレイピアを交差させて右腕を骨ごと断ち切った。
腕が地面に落ちる。
しかし荷馬車の【エリミネア】は笑顔のままだった。
「俺にもくれよ、いいだろぉ!?」
再生した左腕で再び角を構える。
同じ構え。
同じ距離。
同じ威圧感。
リュシアは再び踏み込む。
同じ技。
同じ軌道。
同じタイミング。
――だが、
ほんの僅かに“浅い”。
「……《閃撃》」
巨漢は角で受け、腕ごと吹き飛ばされた。
そのまま胸部の核を狙うが、また分厚い脂肪に阻まれる。
「威力が落ちてるぞぉ!そんな肩じゃ、おデには届かねぇ!」
その瞬間、リュシアの視線が上がった。
レイピアを投擲。
一直線に荷馬車の【エリミネア】の頭部へ。
反応が遅れた。
頭部に深々と刺さる。
「ぐ……!?」
頭部への再生が始まると同時に、胸部の再生速度が落ちた。
リュシアはその一瞬を見逃さない。
「……これで終わり……《閃撃》」
刹那、銀光が夜を裂いた。
再生が追いつかない胸部に、容赦ない一撃が深々と突き刺さる。
厚い脂肪層をねじ伏せ、
肋骨を砕き、
核の鼓動を確実に貫いた。
荷馬車の【エリミネア】の行動が停止する。
「お前……リュシア、だったっけ?」
掠れた、獣のような声が漏れた。
頭部はすでにその半分が再生していた。
「お前みてぇに……“何か”として、見られる気分はどうだ?」
喉の奥で、粘ついた笑い声が泡立った。
血と唾液が混じり、裂けた唇の端から滴り落ちる。
「……こんな身体で……おデ達は、何のために産まれたんだ?」
裂けた口元が、引き攣るように歪む。
視線だけが、リュシアを捉えたまま、決して離れない。
そこには、ただの殺意ではない。
不完全な存在として、自分達を産み落とした存在に対する憎悪と、この世界に繁栄してきた“生”への羨望が渦巻いていた。
「おデ達は、ずっと……お前らを見てきた。完璧な形、明確な『個』……」
巨体の膝が、ガクンと折れた。
「……おデも、名前……欲しかったなぁ」
最後の言葉は、ほとんど吐息だった。
ゆっくりと、巨体が傾ぐ。
灰と血と肉片を巻き上げながら、地面に崩れ落ちる。
重低音が響き、戦場に一瞬の静寂が訪れた。
リュシアは血まみれのレイピアを軽く振り、刃に付着した血液を払い落とした。
表情に変化はない。
「……ここでも、なかった」
その言葉は、灰に沈んで消えた。
この程度では――
あの日の光景を、塗り潰せない。
柔らかい掌の感触。
引き裂かれる音。
「……まだ、足りてない」
すぐに手を上げる。《伝言》の魔法陣が淡く展開する。
「任務完了。成体四体、うち一体は狡猾化した個体……すべて討伐済み」
応答は即座に来た。
「――確認。次の任務だ。北地域で上位種が確認された。急ぎ、東の拠点に集合せよ」
魔法陣が消える。
リュシアは背後の死骸を一瞥もせず、歩幅を大きくした。
「……どこにいる」
誰にも届かない独り言。
灰を切り裂くように、リュシアは東の拠点へ駆け出した。
焦燥が、風よりも速く彼女を突き動かしていた。
肩の傷はすでに塞がっていた。
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