第3話「羨望」—醜き者の願い—
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風を切り裂く音が、かすかに聞こえた。
「でへへっ……疾いな」
言葉と同時に、荷馬車の【エリミネア】は手にしていた塩漬けの肉塊を放り投げた。
肉塊がリュシアの動線上に落ちる。
三体の成体が同時に反応した。
鎖が鳴り、
肉が裂け、
抑え込まれていた飢餓が爆発する。
しかしリュシアは減速しない。
伸ばした腕を引き、遠心力で回避する。
成体の顎をかすめ、右側の成体の脇をすり抜け、荷馬車のすぐ横まで一気に詰める。
レイピアが一直線に突き出される——その直前で、止まった。
目の前に、異様に巨大な掌が現れた。
リュシアの身体の三分の一を覆うほどの分厚い掌に、レイピアが食い込む。
「でへへ……捕まえたぞぅ」
巨漢がにたりと笑った。
掌が閉じる寸前、リュシアは掌を蹴り上げて後退した。
距離を取る。
掌の中央が裂け、肉が盛り上がって瞬時に再生する。
荷馬車の【エリミネア】が地上にのたのたと降りてくる。
「……お前のせいで、痛ぇじゃねぇかよぉ!!」
巨漢が右腕を振り回す。
すり抜けていた右側の成体の頭部に、巨大な拳が正面から叩きつけられた。
肉片と骨片が灰と共に飛び散り、すぐに再生を始める。
成体の両腕はだらりと垂れていた。
——活動が停止している。
巨漢はすぐにリュシアへ視線を戻した。
「でへへ、すっきりした。……ところでよ、お前、『戦士』だろ?」
声音が変わる。
だらけた調子の奥に、はっきりとした興味が混じる。
「強さに応じてNo.が付けられてると聞いたが……お前、何番だ?」
リュシアは短く答えた。
「No.42 ——リュシア」
その返答に、巨躯の口元が大きく裂けた。
「……思ったより低いな。ふん、いいねぇ」
巨躯はだらしのない腹を掻きながら、羨望の眼差しをリュシアに向けた。
「人間ってのは、いいよなぁ……」
喉の奥で笑い声が転がる。
「おデも……欲しい」
「……なんの話?」
リュシアの声は冷たい。
会話の意思はない。
足がわずかに沈み、次の瞬間には踏み出していた。
最初に飛びかかってきた成体の懐へ滑り込み、レイピアで核を突く。
続いて襲いかかってくる成体の背後へ回り込み、逆手に構えたレイピアで、二体目を沈めた。
そのわずかな隙を、荷馬車の【エリミネア】は見逃さなかった。
「でへへ、いい動きだ!でもよ——」
巨躯は自分の巨大な角を引きちぎり、投げつけた。
角は頭部の再生が終わった成体を真っ二つに両断し、そのままリュシアの肩口を深く抉る。
血が噴き出した。
それでもリュシアの足は止まらない。灰を蹴る音すら残さず、巨漢の懐へ飛び込む。
「……《閃撃》」
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