表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エリミネアー世界の敵を排除するー  作者: AtoRei
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/34

第2話「荷馬車」—狡猾化する【エリミネア】—



死灰雪原(しかいせつげん)】は、東地区ロシクの外縁に広がる荒野だ。

東へ抜ければ港町ミューロンウッド、さらに北上すればハーバリス。真北にはボレア。その西の地形は緩やかに隆起し、やがて世界の中心——《機関》の本拠地、ロナファリオンへと続いていく。


風は季節で姿を変える。

死の胞子は積もり、風に晒され、地形はゆっくりと書き換えられていく。

足跡は残らない。

ただ、浅い沈み込みの痕だけが、まもなく風に消される。


通常の【エリミネア】は単純な生き物だ。

胸部の「核」を中心に再生を繰り返し、崩壊し続ける肉体の損耗を捕食で埋める。

痛みは行動を強化する。

近くにある“生”へ、獲物を狩り、貪る衝動へと変換される。


成体は捕食を重ねるほどに身体を保つ時間が長くなり、狡猾さも増していく。


だが結局は同じだ。

近くにいるものを喰らう。

矛盾を抱えた本能のままに。



じゃらり、と乾いた鉄の音が鳴った。

同時に、地鳴りのような低い振動が灰の大地を這ってくる。


リュシアは足を止めた。


視線が音の発生源を捉える。

灰の向こうで、渦が巻き上がっていた。


三体。

大柄な成体たちが、鎖で繋がれている。

首から肩へ深く食い込んだ鉄の枷。

皮膚は裂け、そこから再生した肉が鎖を巻き込むように盛り上がり、同化していた。

歩くたびに擦れ、剥がれ、また塞がる。


その後ろに粗末な荷台が見えた。

車輪が灰を掻き上げ、低く軋む。


載せられているのはいくつもの樽。


密閉されているはずなのに、継ぎ目から結晶化した塩が白くにじみ出ている。


三体の歩みは揃わない。

強烈な飢餓が、餌を求めて腕を伸ばさせる。

視線は激しく跳ね、時折、鎖の許す限界まで身体を引き絞って前へ出ようとする。

しかし一定の距離で“矯正”される。

そのたび、喉の奥から獣じみた唸りが漏れた。


さらに後ろ——御者台に巨漢の【エリミネア】がいた。


乳が重く垂れ、腹がだらしなく揺れる。

頭にはヘラジカを彷彿とさせる二本の大きな角が生えていた。


そいつが、三体の手綱を引いていた。


鎖が張り、三体が止まる。


一体が唸り、限界まで前へ出ようとする。

鎖が激しく鳴り、皮膚が裂ける。

肉が盛り上がって傷を塞ぐ。


巨漢の【エリミネア】は振り向きもせず、荷台に手を掛けた。


樽の蓋を外す。

湿った音。


中を覗き込み、しばらく動かない。


やがて指を突っ込み、何かを掴み出す。

赤く滲んだ塩にまみれたそれを、そのまま自分の口へ運んだ。


「でへへ……しょっぱくて飽きる味だなぁ」


言葉は、はっきりとしていた。

巨漢はもう一片を三体の前に投げた。


皮を剥がれた人間の腕だった。


三体は同時に飛びつき、競うように引きちぎり、骨ごとバリバリと咀嚼する。耳障りな音が響き、すぐに静かになった。


「……まだだ。あとで」


巨漢は指先の塩を舐め、肉塊のもう一つを掴むと、残りを樽に戻して蓋を雑に被せた。


そして顔を上げた。


灰が間を埋め、血の匂いはまだ届かない。


「……食糧、見つけた」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ