第2話「荷馬車」—狡猾化する【エリミネア】—
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【死灰雪原】は、東地区ロシクの外縁に広がる荒野だ。
東へ抜ければ港町ミューロンウッド、さらに北上すればハーバリス。真北にはボレア。その西の地形は緩やかに隆起し、やがて世界の中心——《機関》の本拠地、ロナファリオンへと続いていく。
風は季節で姿を変える。
死の胞子は積もり、風に晒され、地形はゆっくりと書き換えられていく。
足跡は残らない。
ただ、浅い沈み込みの痕だけが、まもなく風に消される。
通常の【エリミネア】は単純な生き物だ。
胸部の「核」を中心に再生を繰り返し、崩壊し続ける肉体の損耗を捕食で埋める。
痛みは行動を強化する。
近くにある“生”へ、獲物を狩り、貪る衝動へと変換される。
成体は捕食を重ねるほどに身体を保つ時間が長くなり、狡猾さも増していく。
だが結局は同じだ。
近くにいるものを喰らう。
矛盾を抱えた本能のままに。
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じゃらり、と乾いた鉄の音が鳴った。
同時に、地鳴りのような低い振動が灰の大地を這ってくる。
リュシアは足を止めた。
視線が音の発生源を捉える。
灰の向こうで、渦が巻き上がっていた。
三体。
大柄な成体たちが、鎖で繋がれている。
首から肩へ深く食い込んだ鉄の枷。
皮膚は裂け、そこから再生した肉が鎖を巻き込むように盛り上がり、同化していた。
歩くたびに擦れ、剥がれ、また塞がる。
その後ろに粗末な荷台が見えた。
車輪が灰を掻き上げ、低く軋む。
載せられているのはいくつもの樽。
密閉されているはずなのに、継ぎ目から結晶化した塩が白くにじみ出ている。
三体の歩みは揃わない。
強烈な飢餓が、餌を求めて腕を伸ばさせる。
視線は激しく跳ね、時折、鎖の許す限界まで身体を引き絞って前へ出ようとする。
しかし一定の距離で“矯正”される。
そのたび、喉の奥から獣じみた唸りが漏れた。
さらに後ろ——御者台に巨漢の【エリミネア】がいた。
乳が重く垂れ、腹がだらしなく揺れる。
頭にはヘラジカを彷彿とさせる二本の大きな角が生えていた。
そいつが、三体の手綱を引いていた。
鎖が張り、三体が止まる。
一体が唸り、限界まで前へ出ようとする。
鎖が激しく鳴り、皮膚が裂ける。
肉が盛り上がって傷を塞ぐ。
巨漢の【エリミネア】は振り向きもせず、荷台に手を掛けた。
樽の蓋を外す。
湿った音。
中を覗き込み、しばらく動かない。
やがて指を突っ込み、何かを掴み出す。
赤く滲んだ塩にまみれたそれを、そのまま自分の口へ運んだ。
「でへへ……しょっぱくて飽きる味だなぁ」
言葉は、はっきりとしていた。
巨漢はもう一片を三体の前に投げた。
皮を剥がれた人間の腕だった。
三体は同時に飛びつき、競うように引きちぎり、骨ごとバリバリと咀嚼する。耳障りな音が響き、すぐに静かになった。
「……まだだ。あとで」
巨漢は指先の塩を舐め、肉塊のもう一つを掴むと、残りを樽に戻して蓋を雑に被せた。
そして顔を上げた。
灰が間を埋め、血の匂いはまだ届かない。
「……食糧、見つけた」
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