第1話「銀の戦士」—灰の中で踊る少女—
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【侵腐の森】から降り注ぐ死の胞子は、雪のように静かで、しかし確実に“生”を蝕む。
吸い込んだ瞬間に肺の内側で根を伸ばし、肉を裂き、骨を押し広げながら宿主を新たな“森”へと変える。
それは、白とも黒ともつかない濁った色で空間を満たし、生きるモノすべてを拒絶するように、ただ降り続けていた。
その灰色の世界の中心で、怪物の「核」をその身に宿した少女が一人、戦っていた。
まるで踊るかのように。
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刃が走ると同時に「核」が砕かれる。
遅れてぐちゃりと肉が潰れる音が灰の中に消えた。
裂けた身体から噴き上がった血飛沫が、降り続ける灰と混ざり、空中で赤黒く広がっていく。
しかしその濁流の中心にいるリュシアには、血の一滴も触れる事はない。
敵の血も、死の灰も、彼女の銀髪にさえ届かず、まるで不可視の膜に弾かれるように輪郭の寸前で滑り落ちる。
踏み込みは小さく、しかし疾い。
次の瞬間には、もうそこにいない。
振り抜かれた怪物の腕の内側へ、銀の影が滑り込む。
最短距離で「核」を突く。
一撃。
返り血は一滴も浴びない。
次の手がリュシアに伸びる。
その腕を軸に少女は優雅に宙返りし、紙一重で躱す。
着地と同時に銀の軌跡が伸び、肋骨の隙間へ刺突を沈める。
抵抗なく内部へ滑り込み、核だけを正確に穿つ。
リュシアは、崩れ落ちる個体の背を軽く蹴った。
その瞬間、横合いから別の成体の腕が伸びる。
しかしリュシアはすぐに入り身で背を向け、成体の上半身を足場にして回転した。
着地と同時に懐へ飛び込み、レイピアを胸部に刺し込み、核をぐちりと砕いた。
血飛沫が弾ける。
灰が舞う。
それでも彼女の白い肌も、銀の髪も、純潔のままだった。
銀の髪が、わずかに揺れる。
光を失った空の下で、それだけが静かに輝いていた。
夥しい数の怪物の死骸の只中で、リュシアの呼吸は乱れず、肩は微動だにしない。
ただ、指先だけがごくわずかに震えていた。
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視界が歪む。
音が遠ざかる。
掌に蘇るのは、柔らかい掌の感触と、引き裂かれた瞬間の記憶。
「……違う」
その一言で、意識を引き戻す。
迫る成体へと強引に踏み込み、噛みつかれるより先に喉元へレイピアを突き上げた。
即座に逆手に構えたもう一方のレイピアが核を貫通する。
内部で潰れる音が響き、動きが止まり、そのまま灰の中へ崩れ落ちていく。
リュシアはゆっくりと刃を引き抜き、滴る血を振り払い、立ち尽くした。
静寂が戻った。
《伝言》の魔法陣が淡く展開する。
「……任務、完了。第一、第二、第三任務、すべて完了」
間を置かずに返答が返ってきた。
「――確認。早いな。損耗は?」
「……問題ない」
答えたとき、再び視界がわずかに揺れた。
地面との距離感が一瞬だけ狂う。
「――次の任務だ。ロシク近郊【死灰雪原】にて成体複数確認。調査および討伐を行え」
命令はそれだけで、確認も待たない。
「……了解」
魔法陣が消えるより早く、リュシアはすでにその場を離れていた。
積もる胞子を踏みしめるたび、靴底に残るぬめりは血だった。それがどの任務のものなのか、考えることもなく、ただ前へ進む。
視界の端が歪み、音が遠のき、感覚がわずかにずれていく。それでも足は止まらない。
「……一体、どこに」
自然と歩幅が広がる。
降り続ける死の灰を切り裂くように、彼女は止まることなく、闇の奥へと進み続けた。
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