第7話「閃撃」 ―受け継ぐ者―
◆
五人は圧倒されていた。
勝てない――その言葉が、はっきり脳裏に浮かぶ。
ガルドが低く笑った。
「……あんまり人間様をナメんじゃねぇぞ!!」
レオンが顔を上げる。
ガルドは前を向いたまま、ウォーハンマーの柄を握り直していた。
その背中で分かる。
決めたのだ。
「レオン。あとは任せたッ……!!」
「隊長、何を――」
ガルドが振り返りざまにウォーハンマーを投擲した。
戦鎚が唸りを上げ、後方の幼体群に直撃。
血路が開く。
「今だ!! 走れ!!」
「隊長!!」
「命令だァ!!」
成体が嘲る。
「……英雄ごッこカ?」
ガルドは素手で一歩前に出た。
口元から血を垂らしながら、笑った。
「うるせぇよ、化け物。今、部下にいいところ魅せてる最中だろうがッ!!」
レオンの足が止まる。
あの日、初めて外に出た時、噛みつかれた自分を助けた背中。
笑いながら「強くなれ」と言った背中。
――期待してるぞ、レオン。
胸の奥が軋む。
置いていくのか。この人を。
でも、背を向ければ全滅する。
「ガッハッハッハッ!!喜べ、帰ったらお前が隊長だぞ!!レオン!!」
成体が、長い腕を持ち上げる。
「イイ話、ダナ」
「きっと、泣けるぜ?」
そして、ガルドは一歩を強く踏み込んだ。
◆
一騎打ちだった。
いや、戦いですらなかったのかもしれない。
ガルドの拳が成体の顔面へ叩き込まれる。
骨が砕ける音。
成体の首がねじ曲がる。
そのまま胴へ突進し、崩れた壁へ押し込む。
灰が舞い、瓦礫が崩れる。
ガルドは咆哮を上げながら何度も殴る。
拳が肉を潰す。
皮膚が裂ける。
骨が露出する。
だが成体は、崩れながらも笑っていた。
「頑張ったナ……だガ、これで終わりダ……」
長い腕が、ガルドの腹へ沈む。
ずぶり、と。
鈍い音。
「……が、っ」
ガルドの口から、血が溢れる。
それでも引かない。
成体の肩へ噛みつくように掴みつき、頭突きを叩き込む。
だが、その直後。
長い指がガルドの胸を抉った。
肋骨の隙間へ指先が潜り込む。
肉を裂く。
骨を外側へ押し広げる。
血が止めどなく溢れ出る。
ガルドの喉から、言葉にならない音が漏れた。
「すごイな……マダ、生きテる」
成体のもう一方の腕が、ガルドの下顎を掴んだ。
嫌な予感が走る。
レオンは叫んでいた。
「やめろォ!!」
成体は、愉しむように、ゆっくりと力を込めた。
顎が軋む。
頬骨が鳴る。
皮膚が裂ける。
誰も間に合わない。
そして――空気が、裂けた。
◆
何かが通った。
そうとしか認識できなかった。
目の前の灰が、二手に割れた。
成体の長い腕が宙で止まる。
細い銀閃が、走っていた。
次の瞬間――腕が、落ちた。
肘から先が、ずるりと地面へ滑り落ちる。
血が、遅れて噴き出した。
成体が後退る。
「……ア?」
灰の向こうから、ひとりの少女の姿が現れた。
銀髪だった。
灰の世界の中で、それだけが異様なほど白い。
まるでこの死んだ景色に抗うように、光をわずかに反射している。
短く切り揃えられた髪。
華奢な体躯。細い肩。
長い睫毛の下の瞳は、凍ったように静かだった。
整いすぎた顔立ちは、この死んだ景色の中で場違いなほど美しい。
冷たく、張りつめていて、触れれば切れそうな美しさだった。
そして、両手には二本のレイピアが握られていた。
レオンが、息を呑む。
――《機関》の「戦士」。
人類が【エリミネア】に対抗するため、その核を人間の体に埋め込んで生み出した異能の兵。
少女は、成体だけを見ていた。
ガルドの惨状にも。
血の匂いにも。
視線一つ、乱さない。
「……排除する」
小さく、そう呟く。
成体が怒りに顔を歪める。
失った腕の断面が蠢き、再生を始める。
「なんダ、お前」
少女は答えない。
ただ、片方のレイピアを僅かに下げた。
踏み込みのための、ほんのわずかな予備動作。
成体の腕が伸びる。
――速い。
人類ならば誰も反応すらできない攻撃。
だが少女はもう、そこにはいなかった。
核へ最短で届く一筋の銀閃。
少女が低く告げる。
「――《閃撃》」
その言葉が落ちた瞬間。
成体の全身が、内側から弾けた。
核が砕けている。
胸が裂ける。
首が落ちる。
内臓が溢れる。
青白い肉体が、支えを失って崩壊する。
どしゃり、と灰の上に沈む。
灰だけが降り続く。
少女は、血の滴るレイピアを軽く振った。
黒い血が線を描いて落ちる。
それから、ようやくこちらを見た。
視線がレオンを通り、倒れたガルドへ落ちる。
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ、その凍った瞳の奥に、何かが揺れた気がした。
痛みか。
怒りか。
それとも、遠い記憶の欠片か。
だが次の瞬間には、もう消えていた。
冷たい静けさだけが残る。
「……すぐに居住区へ戻る」
声は低く、感情が薄い。
なのに、逆らえない。
レオンはそこで初めて、自分が呆然と立ち尽くしていたことに気づいた。
少女はレイピアを収める。
横顔は、息を呑むほど綺麗だった。
それだけに、余計に異質だった。
こんなものが人間側にいるのか、と。
そう思ってしまうほどに。
ダンが、血を吐きながら呟く。
「……なんだよ、あれ……」
ミリアが掠れた声で答える。
「……《機関》の、戦士……」
少女は短く名乗った。
「No.42」
灰の中で、銀髪が揺れる。
「リュシア」
こんばんわ、アトレイです。
第1章もクライマックスです。
お待たせすぎたかもしれません…が、!!!!
この物語の主人公・リュシアの登場です。
《機関》とは何なのか、
【エリミネア】はなぜ生まれたのか、
リュシアはなぜ「戦士」になったのか、
序章ってなんだったの?
魔法?【侵腐の森】?モノローグ??
少しずつ解説していきますので、
引き続きよろしくお願いします…。。。
でわでわ。




