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エリミネアー世界の敵を排除するー  作者: AtoRei
第1章 初任務

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第6話「撒き餌」―狡猾なる上位捕食者―


灰は、まだ降っていた。

静かに。


だが――


ぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐち……

ぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐちぐち……


視界の端で、潰し損ねた幼体の肉が蠢いている。

核を砕ききれなかった個体が、湿った音を立てながら再生を始めていた。


「撤退します!」

レオンが叫ぶ。


「後退しながら迎撃を――」


その時だった。

前方の灰が、ふっと割れた。


何かがいた。


灰の帳の奥。

崩れた建物の上から、ぬるりと一つの影が歩み出る。


人の形に近い。

だが、人ではない。


背丈はガルドと同等か、それ以上。

青白い皮膚はところどころ裂け、剥がれた肉の下で赤黒い筋が脈打っている。


片腕だけが異様に長い。

肘から先が何度も継ぎ足されたように細長く、指は骨ばって、節ごとに不自然に曲がっていた。

それはまるで、甲殻類を連想させた。


顔面の右半分は人間の輪郭を残しているのに、左は崩れたまま再形成され続けている。

口元だけが、やけに人間らしく歪んでいた。


その目が、五人を舐める。


「……ニゲるのカ?」


声だった。

湿っていた。

喉の奥で腐肉をかき混ぜたような、粘つく音。


「オレが、わざわざ……ココまで、集メてきてやッたのに」


セイルの喉がひくりと鳴る。


「……成体」

ミリアが呟いた。

声は落ち着いていたが、僅かに掠れていた。


成体。


幼体とは違う。

核を中心に再生する怪物が、捕食を重ね、より強く、狡猾に成長を果たした存在。

知性を持ち、人語すら模倣する個体。


目の前のそれは、唇の端を吊り上げた。


「人間は……バカだナ。逃げ道が、あるト思うと……ソッチを見る」


ぞわり、とレオンの背筋が粟立つ。


「後方、警戒!」


叫ぶと同時に、全員が振り向いた。


そこにもいた。


灰の向こう。

崩れた車両の影。

傾いた建物の裂け目。


さっき倒し損ねた幼体だけではない。

新たな幼体が、すでに後方へ回り込んでいる。

退路が、塞がれていた。


そして地面には、点々と続く赤黒い肉片。


撒き餌だ。


前だけではない。

後ろにも。

左右にも。


成体は、喉を鳴らして笑った。


「オマエらは、モウ……逃げられナイ」



「前衛、私とガルド隊長!ダン、セイル、ミリアは後方幼体を抑えて突破口を――」


言い終わる前に、成体が消えた。


次の瞬間、ガルドの目前。

長い腕が鞭のように撓り、叩き込まれる。


ガルドがウォーハンマーで受け止めた。


金属音。


衝撃で灰が吹き飛び、地面が陥没する。

巨体が、一歩押し込まれた。


「ガルド隊長が……!」


レオンが横から斬り込む。

剣が胸を狙う。

だが、成体の腕が異様な角度で捻れ、側面から胴を打つ。


「ぐっ……!」


肋骨が軋む。

肺の空気が押し出され、レオンは吹き飛ばされた。

外壁に叩きつけられ、呼吸が止まる。


ユナの声が脳裏をよぎる。

――「外の世界のお話、忘れないでよ?」


ダンの銃声が響く。

三発、四発。

肉が弾ける。


だが成体は止まらない。

長い腕がダンの左肩を掠める。

制服ごと肉が抉れ、赤い断面が露わになった。


「っあ゛あ゛!!」


ミリアの火炎球(ファイアー・ボール)が炸裂した。

セイルが死角からダガーを突き刺す。


だが、成体の腹が内側から閉じ、手首を絡め取る。

膝がセイルの腹にめり込む。


ぐぼっ。


血と胃液が噴き出し、セイルの体が横殴りに飛んだ。


「セイル!!」


成体は炎の中から歩み出る。


焼け崩れた顔。

垂れ下がった眼球。


それでも、口元は笑っていた。

じゅくじゅく……と燃えた肉が盛り上がり、眼球が引き戻される。


「マダマダ、威力が足りなイ」


その一瞬の硬直を突き、成体がミリアの喉を掴む。

細い首が軋む。足が浮く。


「ぐ……ぁ……っ」


ガルドが咆哮した。


「貴様ぁぁぁあッ!!」


ウォーハンマーが唸る。

成体はミリアを放り捨て、後方へ跳ぶ。


だが、完全には避けきれない。

ハンマーの先端が脇腹を掠め、肉と骨をまとめて抉り飛ばした。

黒い血と臓腑が灰の上に散る。


「……あァ、やったナ?」



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