第4話「継がれる言葉」 ―弱さを知る者―
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音が、ない。
夜の見張りを終え、レオンは空を見上げた。
暗い。
何もない。
風も、ない。
静かすぎる。
――荒廃地帯など、こんなものか。
異常はない。
記録上も、問題はない。
「交代だな」
ガルドの声。
振り返ると、そこにいた。
相変わらず、遠慮がない。
ウォーハンマーを肩に担いだまま、いつもの粗暴な表情で立っている。
「もうそんな時間でしたか」
レオンは頷く。
「どうだ」
「異常はありません」
「そうか」
短く返す。
だが、視線は外の闇に向いている。
「……なんですか」
レオンが問う。
ガルドは鼻を鳴らす。
「いや、思い出してただけだ」
「何をですか」
「お前が入隊して初めて塀の外に出た日のことだ」
レオンが思わず眉を寄せる。
「……やめてください、その話は」
「ガッハッハッハ!!なんでだ!!あれは傑作だったぞ!!」
ガルドが腹を抱えて笑う。
「初めて遭遇したメスの幼体だっけか」
「……そうですね」
レオンは小さく息を吐く。
「“弱ってる個体”だと思ったんですよ」
渋々、言葉を続ける。
「動きも鈍かったですし、全身傷だらけで――」
「だから一人で突っ込んだ」
「ええ」
淡々と答える。
「で?」
ガルドがにやりと笑う。
「噛み付かれました」
「抱き付かれてな!!」
レオンは軽く首の古い傷を触る。
「ここ、やられました」
「ガッハッハッハ!!恋人同士かと思ったぞ!!」
ガルドが楽しそうに笑う。
「違います。でも、完全に油断していましたね」
「真正面から抱き付かれて、丸かじりだ」
「やめてください」
「血ぃ吹きながら“報告します”とか言ってたぞ、お前!!」
「言ってません」
「言ってた」
即答だった。
レオンは小さく息を吐く。
「……トドメを刺してくれたの、隊長ですよね」
「おう」
ガルドはあっさり頷く。
「噛みついてた奴、叩き潰した」
レオンは記憶を辿るように視線を落とした。
「……そのあと、隊長が俺に言いましたよね」
ガルドはウォーハンマーを地面に軽く突き立て、太い腕を組んだ。
「なんか言ったっけか?」
ガルドは太い腕を組み、首を少し傾げた。
少し間を置いて、レオンは静かに続けた。
「『レオン。強くなりたいなら、まず“弱い自分”を認めることから始めろ。お前が一番弱い部分を、奴らは必ず嗅ぎつける。だから、常に自分を疑え』……って」
ガルドは鼻を鳴らし、豪快に笑った。
「ガッハッハッハ!!そんな長ったらしいこと、俺が言ったか?全く覚えてねぇ!!」
レオンは苦笑を浮かべた。
「ええ、そんな感じでした」
レオンは首の古い傷を指で軽く撫でながら、肩をすくめた。
「……今もなかなかできてませんけどね」
ガルドは一瞬目を丸くし、それからまた腹を抱えて笑い飛ばした。
「ガッハッハッハ!!真面目だな!!」
笑い声が、静かな夜の荒廃地帯に響く。
レオンも小さく笑いながら、続けた。
「でも……少しは、できてきたつもりです」
「おう。それでいい」
ガルドは重い手をレオンの肩にどんと置いた。
「……期待してるぞ、レオン」
ガルドの重たい言葉は、いつもの励ましとは少し違っていた。
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