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出口のない部屋  作者: 三嶋トウカ


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第39話:もう戻せない_4


 三兼の後ろにいた男たちが、隼人を抱え引きずっていく。


「……楽しかったよ、隼人。また誘うからな。その時もちゃんと来いよ?」

「なんで!? なんでぇ‼︎」

「あ、理由? まぉ、お前がオリジナルで幸せそうだったからかな? それに、俺にないものを持ってるのに、もっと欲しがったから。だからだよ。お前がフルボディになった時はスカッとしたぁ。最高。俺より持ってるヤツが転落する様って、マジでたまんない。辞めるタイミングなんか、いくらでもあったのに。面白いくらいにハマってくれてありがとう。礼を言うよ」

「うわぁぁぁぁぁ‼︎」

「『上手い話には裏がある』って言葉知らない? 優しくしたら、嬉しそうに尻尾振ってついてくるんだもんな。警戒心は必要だぞ? ……本当に、可愛くてチョロいヤツだよお前は」


 楓の言葉を聞きながら、隼人は下の階へと消えていった。


 またあの個室の椅子に座らされ、隼人は頭を抱えた。もう隼人には身体もない。貯金もない。悩むことしかできなかった。


 ――どうして、こんなことになったのだろう。


 折角オリジナルをやめてフルボディになり、最初の借金は返したのに。また、VIPフロアへ入る権利を買ったのに。家族のために、お金を稼いでいたはずなのに。


 そもそも、VIPフロアへ入らなければ良かったのだろうか。そうすれば、一気に大金を失わずに済んだ。それとも、衣玖に心配されたときに、やめれば良かったのだろうか。彼は、隼人のことを心配してくれていたのに。

 いいや、まずはここへくるべきではなかったのだ。誘われても、怪しい話に乗らぬよう、断るべきだった。


 いくら今そう考えても、過ぎた時間は戻せない。


「……さて。悩み始めてもう二時間が経過いたしました。そろそろ、結論は出ましたか?」

「うぅ……そんな、そんな……」

「マイナスになっている残りのコイン七万枚分。……もう一度だけ、お聞きします。こちら、マイナス分を当方へ返済するあてはございますか?」

「そ、それは……」

「ない、とおっしゃいますか?」

「うっ、あ、あぁ……ありま、せん」

「そうですか……。それでは、その上でお聞きいたします。完済できないことがわかっていたのに、なぜ一瞬でそれだけの額のコインを負け越してしまったのでしょう?」

「……」

「……いえ、それをお聞きする必要はございませんね。失礼いたしました」

「……」


 言いたかった。楓に騙されたと。本当は、最低七億手にしていたはずだったと。……しかし、そんなことを言ったところで、誰も信用しないしそもそもイカサマの証拠になってしまう。


「他に家やその他財産、残っているモノは……あぁ。VIPフロアのデジポットは返却するとして、他に家がございますね。ご自宅、分譲マンションの一室」

「そ、それは!」

「それは?」

「……か、帰る、帰る場所が、ないと困る、から……」

「そうですね。それにこちらの家をいただいたとしても、到底七万枚のコインの額には及びません」

「……」

「少々、意地悪な質問でしたね。申し訳ございません」

「あ、あぁ……」

「もう貴方はオリジナルではなくなってしまった。今までの返済のために。身体の一部を売るだけではやはり額が届きませんし、たとえ身体のすべてを私たちへ売り渡したとしても、この枚数は返済不可能でしょう」

「本当は! ……負けるはず、なかったんだ……」

「落ち着いてください」

「あ……あぁ、はい、すみません……」

「と、なりますと……やはり困りましたね」


 三兼は本当に困ったような顔をしていた。


「……こちらからの提案には、限りがございます。勿論、できるだけ寄り添いたいと考えておりますが……いかんせん、額が多い……」

「うぅぅぅぅ」

「そこで、でございます」

「うぅっ?」

「可能性として、あくまでも一つの提案として、お聞きいただけましたらと私は思っております」

「……?」

「ご家族の奥様、そしてお子様お二人に、奥様のお腹の中にいらっしゃる第三子。……まだお産まれにはなっておりませんが、こちらの計四名をお渡しいただけましたら、コイン七万枚分はゼロへと戻すことができる見込みでございます」

「なっ……!?」

「調べさせていただきましたが、奥様はオリジナルではございませんね? 臓器が一部と……目に鼻が既にクローン体と差し替えられております。ですのでセミボディ。オリジナルの金額には到底及びません。そこで、第三子にあたるお子様も視野に入れていただくことで、全額返済可能となっております」

「いっ、いや……いやいやいやいや……」


 隼人はようやく、家族のことを思い出した。そしてリコが『オリジナルではない』という言葉を聞いて取り乱した。いつの間に。なぜ。


「そうは仰いましても、生半可な手段での返済は、当然ながら不可能でしょう」

「かっ、家族を……! はぁぁぁぁ、いやっ、いやいやいや……。うっ、ううう売れるわけないだろぉ……!?」

「お支払いの額によっては、オリジナルからクローン体を複製し、フルボディのほうをお客様にお戻しさせていただくのですが。今回はそちらは無理かと存じます、申し訳ございませんが、やはり額が額ですので……」

「な、なんで……? なんで家族を売る話が進んでるの……? おか、おかしいよ……? なんで? なんで?」

「……お気に召しませんでしたか? 失礼いたしました。……それでしたら。返済が不可能、かつ、この案をのんでいただけないのであれば……。あまり提案したくはないと思っておりましたが、仕方ありません。もう一つだけ、コイン七万枚に匹敵するだろう案がございます」

「……っ、それは?」

「地下で中継されていますゲームに、その身で参加していただくことです」

「っ、ひぃ!?」


 ――知っていた。その選択肢を。自分がシナガワになる選択肢を。


「はっ、はははっ……」

「……」

「嘘、嘘ですよね? 嘘嘘、嘘だ。そんなの、そんなの……」

「嘘ではございません。……嘘を吐く必要もございませんし」

「だって、だって!」

「よくご存じでしょう。どんなゲームか、は」

「お、俺が……? あの、あんな、おぞましい……あんな、ゲームに……?」

「左様でございます」

「はっ……正気か? 正気なのか……?」

「……お言葉ですが、私から見ればこの額のコインをマイナスにするほうがよっぽど『正気』ではございません」

「ふっ、くくっ……」

「どんな内容であれ、開催されるゲームで優勝しましたら賞金が手に入ります。その賞金を返済に充てていただくのです」

「はぁっ……。それでも、どうせ足りない、だろ? 確かに賞金は高そうだ。みんなが賭けてたコインだって、相当な枚数だった! そもそものコインの価値も比じゃない! だけど……だけどっ!! いいっ、一回でなっ、なっなな、七億なんて金額は、とても……!」

「はい。ですので、返済が終わるまで『何度でも優勝を目指して参加して』いただくのです」

「……そりゃぁ……無理、無理、だよ……」


 隼人は顔を手で覆った。


「皆様、参加されますよ? 貴方は見たことはあるはずです、返済できなかった人間が、あのモニタの先にいるのを」

「あぁ、あぁ……覚えてるよ……。俺はあそこに、彼を送った……」

「仰る通りでございます。……あぁ、もちろん、死者には参加することができません。ですので、ゲームに負けて亡くなった場合は返済の義務はなくなりますのでご安心を」

「できるわけないだろ!?」

「皆様、最初はそう仰います。しかし本当に、そうでございましょうか?」

「くっそ、くっそ……! あぁぁぁぁ! もうあぁぁぁぁ!!」

「しかし、今ご提示できる有効な案は、このふたつしかないのです。……それとも、このふたつの他になにかいい案が?」

「うぅ……あぁぁ……」

「選びたくなくとも、どちらかを選ばなければなりません」

「うぅぅぅ」

「選ばれない場合は、選ぶまでこの会場の外へ出ることはできません」

「そんなの……! そんなの、監禁じゃあないか……」

「今のお客様は『選ぶことしかできない』のです。ご自身の立場をどうぞ、深くご理解ください」

「……くぅぅぅっ、くそっ!」

「お時間でしたら、まだまだいくらでもございます。存分に悩んでいただいて構いません。ですが、こちらからご提案できる内容は、以上でございます」

「なぁもっと、もっとマシな案は……」

「当然ございません」

「ああああもう!」


 まさか、こんなことになるなんて。まさか、自分がまさか、まさか。まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか。


「構いません。いくらでも、お付き合いいたします。初めてお会いした時から、今まで幾度となくお話をさせていただきましたから」

「……三兼、さん……」

「私とて、よく存じ上げるかたに、このようなことを繰り返しお伝えするのは心苦しいのです。……どうか、どうか。ご理解ください」

「……ごめん。……ごめん」

「思いが決まるまで、私も一緒にこの部屋に。えぇ、一緒におりますとも。――譲原様」

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