表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出口のない部屋  作者: 三嶋トウカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/42

第38話:もう戻せない_3


 「おっす隼人!」

「あ、あぁ楓」

「なぁ、お前衣玖と喧嘩したのか?」

「え? あ、あぁ、ちょっと……」

「最後に昼飯食ってから、ずっと来ないよな? 衣玖が自分のせいだって結構責めてたからさ」

「……色々あって」


 楓は隼人に何が起こったのかすべて知っている。衣玖と違って。もしかしたら、楓なら自分の話をきちんと聞いてくれるかもしれない。――そう思った。


「あ、あのさ楓」

「ん? どした?」

「実は……」


 隼人は起こったことをすべて話した。衣玖と喧嘩した理由。リコが子どもを連れて出ていったこと。嘘がすべてバレたこと。――賭け金はあるものの、家庭としてはもう後がないこと。


「……はー、成程。そんなことになってたのか……」

「それで、少しね。衣玖に悪いなとは思うけど、俺もよくわからなくなっちゃって」

「ま、最後に物言うのはやっぱり金だからなぁ。……あ、あれだ。宝くじ当たったことにしたら、遠慮なく金使えるし見せられるんじゃね?」

「それは思ったんだよ! よかった、楓もそう思う?」

「手っ取り早いよな。宝くじってそんなこまめに当たるもんじゃないけど、一回当てたことにしたら、そう簡単にもなくならないから追加しやすいし」

「だよなだよな。それで、困ったのがどうやって増やすか……なんだよね。半年前の宝くじが前後賞併せて一等七億だったんだよ。それに合わせられないかな……」

「ふーん。……じゃあ、今日七億勝てば良いんだな?」

「そ、そういうことなんだけど、そんな勝負誰が請け負ってくれるかなって……」

「俺がやるよ。本当なら、二億の時も俺がチャラにするはずだったのにできなかったからさ」

「……良いのか? だって、七億だぞ?」

「ここに誘った責任もあるからな、俺、めちゃくちゃ稼いだから! 心配すんなって!」

「楓……」

「勝負をどうするかだよな。俺が七億賭けたら、お前も七億賭けないといけないし。今コイン何枚?」

「七百枚」

「まだイベントの勝負してないよな?」

「してないよ」

「じゃあ枚数的にはクリアか。……よし、初心に戻ってババ抜きするか!」

「ババ抜き?」

「スピードでも良いぞ? 普通のルールだと、額の割に面白みがないよなぁ。あれだ、負けたほうは残りのカード枚数かけるコイン百枚の額を勝ったほうに支払うのはどうだ? そしたら、勝ちでコイン七百枚、更にカードの枚数だけのお金がゲットできる」

「……それ、要る?」

「怪しむヤツがいるんだよ。出来レースなんじゃないかって。だから、ちょっとルールに捻りを入れるわけ。そうするとあら不思議。そっちに目が行くから、怪しくてもなにも言わねぇの」

「そういうもの?」

「そ。そういうもの。俺が負ければ、その残り枚数は隼人のお小遣いにすりゃ良いだろ?」

「……楓、マジでコイン何枚持ってるの……?」

「二桁の億はあるけど?」

「ど、どうやって稼ぐんだよそんなに……」

「後で教えてやるって! 取り敢えず今はお前のコインを現金に換えるぞ」

「あぁ!」


 楓の申し出に、隼人は疑うことなく返事をした。楓はいつも助けてくれる。その恩をいつか返したい。また『一緒に遊べればそれで良い』と言うならば、その期待に応えるためにコインは何枚あっても良い。遠慮なく、勝ってコインをもらおう。そう思っていた。


 ――これがこの会場に来始めたころの隼人だったら、きっと断っていただろう。大金を動かすのは怖い。実感が湧かず、信じられない。マイナスになった時のことを考えると胸が痛くなる。そんなお金を友達に使わせられない。理由は色々ある。

 しかし、そんな理由はもう隼人にとってただの文字に過ぎず、マイナスになった時の怖さも、文字通り身をもって乗り越えた今、恐るるに足りなかった。口では『気をつける』『注意する』と言いながら、そんな気はさらさらなかった。勝つことしか、考えていなかった。


「あそこのテーブルでやろうぜ」

「そうだな」

「……この回で良いんだよな? 百倍にするの」

「勿論」

「よし、じゃあ登録するぞ?」


 機械のモニタに勝負内容が映される。賭ける枚数は七百枚だが、実際の額は七億だ。


「なぁ、あそこの席イベント戦だって」

「やばっ、コイン七百枚⁉︎」

「大勝負じゃん?」

「でもスピードやるの?」

「一回勝負でこれは……」


 気がついた客がテーブルへと寄ってくる。人が人を呼び、いつのまにか隼人達をぐるっと囲むように人だかりができていた。


「準備はいいか? 隼人」

「いつでも」

「……手加減はなし、だよな?」

「そりゃそうだろ」

「一回勝負だからな?」

「わかってる」

「どっちが勝っても文句なしだぞ?」

「……望むところだ……?」


 念押しするように繰り返す楓に、隼人は少し違和感を持った。が、勝負を盛り上げるための余興だろうと気にするのはやめた。


「機械のアラームで開始だからな? 先に上がったほうが、手元のスイッチを押して終わり」

「大丈夫だって」


 隼人の頭の中には、もう七億を手にした未来しかない。


 一枚目に何が出るのか。とても大事なことだ。それで勝敗が決まるかもしれない。


 ピィィィィ――。


 アラームが鳴り、一斉にカードをめくった。幸い、隼人の手札には、その一枚目に重ねて出せるカードが揃っている。出だしは順調だった。それに、以前勝負した時に楓は『スピードが苦手』だと言っていた。隼人も特別得意ではなかったが、前回ギリギリだったが勝っている。今回もいわば接待のようなもので、隼人が勝つのだ。見栄えのために手抜きするつもりはないが、楓は手抜きをするだろう。


 そう思いながら手札を減らしていく。


「……あ、え……?」


 小さな声が隼人の口から漏れた。明らかに以前の楓とは違う。カードが流れるように場に出ていっており、たまたまカードの配置が良かったのかもしれないが、見る限り隼人よりも枚数が減っていた。


 そのことに焦って、隼人は出せるカードを出し損ねる。そんなこともお構いなく、楓はどんどんと場にカードを出していった。


「あっ……あ、あ……」


 これは接待だと、自分が勝つんだと思っているのに、目の前の光景はそうは言わなかった。


「――っ、と!」


 最後の一枚を出し終え、ボタンを押したのは楓だった。


「やった! 勝ちィ‼︎」

「えっ、あ、あ……? う、嘘……だ……?」

「うわー‼︎ たったこれだけの勝負で七億かよ‼︎」

「ヤバいな、まさかスピードで億単位のお金が動くなんて……」

「信じらんねー……」


 客が盛り上がる中、隼人は何が起こったのかよくわかっていなかった。隼人の手には、まだカードが残っている。楓が上がるまでに、出しきれなかったカードが。


「かっ、楓……? こ、これって、いい、いったい……」

「いやー、大勝利! 隼人カード何枚残ってんの?」

「え、あ、ああ……」

「ちょっと貸せって。えーっと、一枚、二枚……全部で七枚か! じゃあ、賭けてた七百枚のコインと、七枚分のコイン七百枚。全部で千四百枚だな。いやー、儲け!」

「まっ、待って⁉︎ この勝負、俺が勝つはずじゃ」

「……お前、何言ってんの?」


 楓の顔が歪み、声が低くなる。もう、取り繕う必要はないと言わんばかりに。


「勝負は一回きり。どっちが勝っても文句なし。手加減もなし。ちゃんと俺確認したじゃん?」

「それは……言葉のあやってヤツで……‼︎」

「みんなも聞いてたよな?」


 囲んでいた客の視線が、一斉に隼人のほうへと向いた。


「あ、いや……その……」


 何も言えない。確かにそう言われて隼人は返事をした。違和感を持ったが捨て去った。


「勝負はおしまい。……登録完了……っと」


 動けないでいる隼人を無視して、楓は勝敗の登録を行った。


「ね、ねぇ楓……どうして……?」

「さっき言ったよね? 『何でこんなにコインがあるか教えてやる』って」

「……それが……?」

「こういうことだよ。いやー、お前単純で助かったわ。やっぱ、衣玖よりもお前にして良かった」

「……それ、どう言う意味だよ‼︎」


 ――ピピピピッ――ピピピピッ――ピピピピッ――ピピピピッ――。


「……っ」


 聞き覚えのある音に、隼人は一気に冷や汗をかいた。


 ――この音は、隼人のデバイスから出ていた。前にも聞いた、あの音――。


「いっ、いや、いやだ‼︎ 嫌だ‼︎ 違う! こんなの、こんなの……‼︎」

「――譲原様」

「や、やだっ……! み、三兼さん……‼︎ こ、これは違くて……」

「通知が参りました。この度の負債、七億円と言うことで……」

「違うんだよ! 俺は勝つはずだった! なのに! それなのに……‼︎」

「どうぞ、こちらへ」

「嫌だ! あそこへは行かない! 戻ってきたのに、戻ってきたのに‼︎」

「おとなしくきていただけないのであれば、実力行使するまでです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ