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出口のない部屋  作者: 三嶋トウカ


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第22話:沼へはまる_3


 「ここが……VIPフロア……?」

「左様でございます。さ、こちらを」


 三兼は隼人へ仮面を渡した。目元だけ隠れる、貴族のパーティーで使われていそうなアレだ。


「付けるんですか?」

「はい。ここで素顔は必要ありません。それに、顔の見えないほうが捗るものもありますゆえ」

「はぁ……わかりました」


 言われた通りに隼人は仮面をつけた。よく見たらいつの間にか楓も仮面をつけている。既に入ったことのある人間は、持ち歩いているのだろうか。目の前にはもう一つ扉がある。隼人はここまで研究施設を歩いているような気分だったため、光の漏れ出ている扉を見て開けていいものなのか決めあぐねていた。


「私がお開けしましょう」

「お願いします」


 そのことに気が付いたのか、三兼が自らその役をかって出た。


「それでは、どうぞ――」


 最後の扉は呆気なく開いた。煙草のニオイはしないのになんとなく煙たく感じるような空気。腐怒りが漏れて明るいと感じていたのは気のせいだったのか、部屋の中は思ったよりも薄暗く感じた。漂ってくる嗅いだことのないニオイは嫌いではなかったが、にこやかになるほど好みでもない。ぼんやりと隼人はそんなことを考えていた。

 そしてそのぼんやりと考えることが終わった時、ようやく初めてこの空間に流れるピリピリとした空気と、部屋の中にいた全員が自分のほうを向いていることに気が付いた。その当たり前の異様さに隼人はゴクリと息をのんで、誰かが何かアクションを起こすのを待った。今何かアクションを起こすのは自分ではないと、そう感じたからだ。


「皆様、お楽しみのところ失礼いたします」


 口火を切ったのは三兼だった。


「本日より、VIPフロアへ新たなお客様が参られました。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 フロアに三兼の声が響く。他には誰も何も言わない。隼人は重たい空気に耐えかねて、一歩前へ出ると深くお辞儀をした。


 ――パチ、パチパチパチパチ。パチパチパチパチ。


 誰かが拍手をした。それに合わせて一斉に拍手が沸き起こる。ゆっくり隼人が顔を上げるとその拍手は鳴り止んだが、ついさっき感じた重苦しい空気はどこかへ行ったようだった。


「……なぁ、なんていうか、変わってるな、ココ」

「変わってない場所なんてないよここには。……そうだろ? だから別に普通なんだよ」


 ふと思ったことを楓に聞いてみたが、当たり前のような顔をして楓はそう答えた。


「なぁ、あっちのソファに行こうぜ。今日のゲーム、あと二十分で始まるぞ。タブレットもらっといたから。こっち、お前のな」


 楓について隼人は空いているソファへ座った。


「ねぇ、何のゲームするの?」

「まずはこれ。これが参加者の名前と性別年齢と写真。それから、何でこのゲームに参加してるか」


 隼人は楓がテーブルに置いてくれたタブレットへと目を通す。楓の言う通りそこには、ゲームの参加者らしき人物たちのプロフィールが載せられていた。


「税別も年齢も、バラバラなんだね」

「そうそう。それが面白いところ」

「わかんないけど、ハンデになったりしないの? 得意不得意あるだろうし、体格の差もあるし……」

「そういうのもひっくるめてやるから、結果がわからなくて良いんだよ! 筋肉ムキムキのヤツだってめちゃくちゃ頭いいかもしれないし、すんげぇばーさんが体力勝負で無双するかもしんないだろ? 誰が勝ってもおかしくないの。まーでも、だいたい焦ったヤツとビビりすぎなヤツには俺は賭けないけど」

「そういうものなの? まだよくわかってないんだけどさ」

「隼人の好きなように賭けりゃいいんだよ。三兼さん戻っちゃったし、俺が説明してやるから安心しろって!」

「いやまだなんにもわかってないぞ? この状態で賭けろってったって……」

「はいはい、まずはこの参加者のプロフィール。見終わったか? 何度でも見返せるから、先に進むぞ?」

「あ、あぁ」


 楓は一番上のメニューバーにある【本日のゲーム】をタップした。


「だいたいこの辺見ておけば間違いないから。まずはこれ。【本日のゲーム】のページは、今日見られるゲームの一覧がある。いくつかやってんだよ。時間と部屋の番号な。周り見ると、他にも扉があってアルファベットが付いてるだろ? その時間までに見たいゲームの部屋に行けば、無事見られるってわけ。あ、別にこれがさ、賭けたゲームじゃなくても見られるのよ。だから、Aのゲームに賭けてCのゲーム見るっていうのもできるわけ」

「へぇ、なんだろ、てっきに賭けたゲームしか見られないと思ってた、勝手に」

「普通そう思うよな。注意なのは、時間になったら鍵がかかるからその部屋からゲームが終わるまで出られなくなることと、部屋の中はカメラと係りの人間に監視されてること。トイレは中にあるからな、飯も食えるし。……飯食うやつはあんまりいないかも」

「ふーん。缶詰にされても、そんなには困らない、か」

「そうそう。人気なやつは店員オーバーになると部屋に入れなくなるから、絶対見たい! って思ったゲームはすぐ部屋入ったほうが良いぞ。入るは開始直前までだから」

「どの部屋にも入らないってできるの?」

「出来るよ。部屋に入らずに賭けるだけ賭けてここにいるヤツもいるし、上の階に戻ってゲームして、こっち終わってから戻るヤツもいる」

「終わったかどうかわかるんだ」

「デバイスが教えてくれるよ。あー、一応確認しといて。このタブレットのトップページに、お前のデバイスの識別番号と同じ番号が書いてあるはずだから。このフロアではこっちのタブレットのほう使うから。あー、待って、名前載ってるわ。隼人の名前タップしてみて」

「こう?」


 隼人は自分の名前をタップした。するとそこには、自分のプロフィールや持っているコインの枚数、そのコインの時価などが掲載されていた。今まで行ったゲームが日付と時間順に並んでおり、賭けた枚数も取得した枚数も載っており、自分が今までどれだけここで遊んできたかの履歴にもなっていた。


「こっちのほうが見やすいんだよなぁ。ま、好みもあるけど。あーやべ、話し戻さなきゃ、時間ない。さっきのページからそれぞれのゲームに飛べるんだけど、ゲームの詳細とかオッズとかここ確認して。ゲームによってコインの賭けかたも変わってくるからよく読めよ? で、実際に賭けるときはこのメニューの【BET】ってとこからやんの。これだけわかってりゃまず大丈夫。他のページも全部目は通しておいたほうが良いぞ。あ、こっちの【ルール】は絶対読んどけ。このフロアでのルールとか賭けかたのルール、注意事項が載ってっから。んでようやく、俺が今日お前に見せたかったのがコレ」

「どれ?」

「これだよ。はい、参加者にご注目~」

「……? ……は?」


 隼人は楓に言われた通り、開かれたあるゲームのページを目で追っていった。簡単なゲームの紹介にどの賭けかたが有効か。そしてその下に参加者の名前が書いてあった。


 それは、見覚えのある名前で。どこにでもいると言われたらそれまでだが、生涯忘れることのない名前でもあった。


「な、これ……」

「追加で支払すると、事前にゲーム内容と参加者わかるんだけどさ。急遽やるゲームじゃない限りね。で、見つけたのよ。いやー、俺、土曜も来たんだけどさ。マジで今日一緒に来られて良かった! 見つけた瞬間は思わず神様にお礼言っちゃったよね」

「い、いや……悪趣味すぎるだろ……」

「あ、あれだよ? みんな仮名だったりアルファベットだったりするんだけど。名前出すほうがなんでか知らないけどお金沢山もらえるらしいよ? 出演料ってやつ?」

「だって人間だぞ……? この間まで、一緒にゲームして、それで……」

「なに言ってんの? 隼人がコイツとのゲームに勝ったから、コイツはここに名前が載ってんだよ。返すお金がないから」


 隼人は楓とは違う意味で神様に祈った。

 ――こんなことが、実際に起こるなんて。


 ゲームの内容は四人制の計量ゲームだった。誰が一番早く、指定されたグラムの身体の一部を秤に載せられるか。制限時間は各三十分。最低グラム数は四百五十グラム。八時間経過時もしくはクリア者が出た際に四百五十グラム以下はペナルティ。それ以上はギブアップ可能。体液は血液以外不可。必ず身体から分離させること。指定されたグラム数を一人がクリアした時点で追加あり。最後まで残った人間に賞金。


 ――優勝は誰?


 四人参加者がいる中で、見覚えのある顔写真とともに載っていた名前には【シナガワ】と書かれていた。

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