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出口のない部屋  作者: 三嶋トウカ


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第17話:賭ける_4


 ――今からこんな危なそうなヤツと勝負するのか。そうも思った。負けたら何をしでかすかわからない怖さと、負けないために何でもしそうな不気味さがある。後がない人間は、失うものが何も無い人間は、何をしでかしてもおかしくない。死ぬ気で勝負をするというならば、文字通り死ぬ気で勝ちに行くだろう。


「あ、あぁ! んふっ、あ、あのですね、はぁー……すぅ、はぁー……」

「え? な、なんでしょう……?」

「いえね、あ、あのふぅー……ふふっ。いひっ、あ、あのね、その、んんん、ワタシと、ふっ、あ、しょ、勝負、しませんか? はぁぁぁ、ははっ」

「勝負、ですか……?」


 内心『やった!』と、隼人はガッツポーズを決めていた。自分からゲームへ誘うことには抵抗があった。カモにしているようで嫌だったのだ。だからこの勝負の申し出が契機にならないように、あくまでも相手から誘ってほしかった。『負けたとしても、そもそも勝負を挑まなければこんなことにならなかった』という言い訳がほしかったのだ。何があっても、決して自分の責任ではないと。『お願いされたから、仕方なく勝負をしてあげたのだ』という、自分を守るための大義名分が。


「いひっ、ひぃ……はっ、そう、そうですよ! ま、まだねぇ。勝負はねぇ、したことなかった、ですよね? んんっ、はぁ、お互いに、ね」

「えぇ、したことない、と思いますけど……」

「お願いお願い! お願いしますよ!!」

「えっ、ちょっ」


 ある程度離れた距離にはいたはずなのに、いつの間にか距離を詰められて隼人の目の前にシナガワの顔があった。近い。近過ぎる。危機感を感じたが、ガッチリとシナガワは隼人の両手を自分の両手で包み込むように引っ張って握っており、身体を後ろへ引くことができなかった。


「えっと、あの」

「ね? ね? お願いお願いお願いしますよ! へへへっ、ねぇ? 勝負! 勝負しましょう? んふっ」

「い、いや、でも! い、一体何枚コイン賭けて、なんのゲームするつもりなんですか?」

「そ、それはね、ははぁ、アナタもね、知ってるゲームでね、ねぇ、うん。そうですねぇ。やりたいと思っていますよ?」

「なんのゲーム、ですか?」

「あれです、はぁー、アレ、アレ! あの、そう、そうだ! ババ抜きをね、ちょっとね、ホラホラホラホラ! ね、ね、ね? 簡単! 簡単でしょ!?」

「ば、ババ抜き?」

「コインコイン、そうね、コインが要りますね! コインは一回でんーんーんー、千! 千枚ですよ! はぁぁぁ、すごい、すごいですね!」

「ババ抜き一回にコイン千枚って、正気、です?」

「正気も正気! あはっ、ホラホラ、ねぇホラホラ! ワタシの目をねぇ、ちょっとふっ、見てくださいよぉ? ふー、はぁー。ね? ねね? ねねね? 嘘なんか吐いてない目でしょ?」


 シナガワは目を見ろと隼人に言ったが、シナガワは忙しなく視線を動かしており、その目が合うことはなかった。


「三回ね、勝負しましょう! ね! と、と、とちゅうでさぁ、うん、うん。賭けるね、コインの枚数を、ふぅー……はい、ね。変えてもね、良いと助かりますね? 助かるでしょ? 助かるよね? そりゃあ助かるに決まってる! アナタもね? いや、むしろんーアナタが? アナタのためですよ! いやっはははっ! 名案だ、こりゃ! はははっ! すごい? ワタシ、すごいっ? いやー、はぁぁぁ」

 

 隼人の口も気が付いたら半開きになっていた。呆気にとられたのだろう。眉間にしわが寄っていて、直視したくないから見る場所に困って視線も泳いでいる。顔の上半分だけは、シナガワと同じ状態だった。まだ手はシナガワに握られているし、顔も近いままでどんなに逃げたくても逃げられない。こんな風に迫られたら、例え迫ってくる相手が最愛の恋人でも、なにものにも代えがたい家族でも、その手を振り払って罵倒し逃げ出したくなるだろう。今まで誰も勝負を受けなかった理由の一つを、隼人はその身をもって知った気がしていた。


「ホラホラホラホラ! イエス、でしょ? イエスイエスイエスイエス!! はいと言って! はい! はい!! んふふっ、はぁー、ねぇー、はぁー、はい! 決まりね! 決まりだぁぁぁっへへっ」

「あ、ちょ、ちょっと!」

「行こう! 行こう! はい!」


 シナガワは強引に隼人の手を引いて会場を進む。


「オッサン勝負すんのー!? この席空いてるよー!!」


 大きな声が会場へ響く。声の主は先ほど楓が声をかけた茶髪の男性だった。彼の言う通りそこだけライトの当たった二人掛けの席が、隼人とシナガワを出迎えているように見える。大勢の人に囲まれて、一度座れば逃げ場はなさそうだった。誰もがヒソヒソと話し、ニヤニヤ笑いながら立っている。


「わぁぁぁぁ! ありがとう! ありがとう!!」

「オッサンこっちに座って! 君は向かいの席へどうぞ」

「は、はい」


 シナガワの次にデバイスを機械へかざして登録すると、促されるまま隼人は席へと着いた。さっき通ってきた道は、観客に阻まれてもう見えなくなっていた。


 そこで気が付いた。自分の隣にいてくれるものだと思っていた楓が、なぜかシナガワのすぐ斜め後ろにいることに。大きな不安を感じながらも、隼人は深呼吸して今の異様な空気に飲み込まれぬよう落ち着こうとしていた。


「カードはね、この会場のモノを使いましょうね? ふぅーあぁー、受けてくれて嬉しい、嬉しいっ! はぁー、あぁ、うんうん、ありがとう! ありがとう!」

「どう、いたしまして……」


 あまり感謝されると胸が痛んだ。今から隼人はこの勝負してくれることに大きな感謝している男、シナガワのことを負かすために勝負をするのだ。ババ抜きに手抜きもなにもないかもしれないが、当然ながら負けるつもりは一ミリもなかった。自分はVIPフロアへ入りたいし、折角ここまで稼いだコインを一枚だって失いたくない。どれだけ同情を買うような背景があろうが、もう後がなかろうが、自分が負ける理由にはならない。

 隼人はテーブルの下からせり上がってきたトランプをじっと見つめ、シナガワにどちらが良いか確認した。


「そう、そうですね、んーふふ、んー……じゃあ、こっちにしましょう、ひひっ」

「じゃあ、俺はこっちで」


 残ったトランプの山を手に取ると、同じ数字のカードを組み合わせて捨てていった。


「ババ抜き、どうです? ババ抜き、好きですか?」

「ま、まぁ、はい。初めてここでプレイして、ついでに勝つこともできたゲームなので、それなりに思い入れもありますしね」

「そうですか。はぁー、うんうん、うん。二人だとね、捨てる枚数もいっぱいだね、あはっ」

「自分の手元にババが無ければ、相手が持ってるってわかり易いですしね」

「そうだ! そうそう!! そうだよ! ワタシ、ね、ワタシはね、持ってませんからね、ねぇ。ふふふっ、良かった、あはっ、はぁぁぁ」


 シナガワの言葉に嘘はない。ババは隼人が持っていた。思ったよりも手持ちの札が多いことを憂いながら、隼人はババの置き場所を考えている。


「どうしましょう? ババ……ねぇ? ワタシがそうね、どうでしょ? 引きますか? 最初に」

「良いですよ? シナガワさんが先に引いてください」

「じゃあ、遠慮なく。……ひひひっ」


 カードの一枚一枚に人差し指をかけ、じっくりとシナガワはどれを引くか選んでいた。ただカードをじっと見つめて、そのカードを持つ隼人へは目もくれない。隼人は隼人でどのカードへ指をかけられても――それがババであっても顔色一つ変えずにカードが一枚減るのを今か今かと待っていた。緊張でじっとりと汗をかいてきた隼人とは対照的に、シナガワはカードを選ぶ間も笑みを浮かべたままだった。話している間の笑い方といい、わざとらしい喋り方といい、後がないのに余裕はあるように見えて、妙な気持ち悪さを隼人は感じていた。『人間追い詰められるとこうなるのか』とも思ったが、隼人以外は誰も気に留めていなさそうで、相変わらず気にはなるもののできるだけ気にしないように努めた。


「それじゃあ……あー! こっち! このカード!」


 ようやくどれを引くか決めたシナガワは、まるで神にでも祈るように天を仰いでからその一枚を引いた。


「よし、よしっ! はぁぁぁぁ、やった、やった!!」

「まだ一枚目ですよ? そんなに喜ばなくても」

「馬鹿にする? 馬鹿にするの? あははっ、いやー、うんうん、はぁ、ひひっ。ひぃー、大事、でしょ、大事!」

「……次は俺の引く番なので」

「はひっ、どうぞ? これなんか、あー、とっても素敵! 良いカード!! ホラ、ホラホラホラホラ」


 カードを一枚だけ上に飛び出させると、ズイっと隼人の顔の前までその状態で持って行く。さも『名案だ!』と言わんばかりに、隼人が思わず顔を引いても気にせず、そのたびに押し付けんばかりにカードを近づけた。


 隼人は考えるフリをしながら楓を見た。楓は腕を組みながら、まっすぐ隼人と目を合わせている。


「まぁ、じゃあそれで良いかな……」


 隼人はシナガワが引いてほしそうに出してきた一枚を引いた。

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