第16話:賭ける_3
「俺、どうやって稼げば良いと思う?」
「それだよな」
「今の枚数、きっと換えた分含めたら五千枚くらいいくと思うんだけど」
「それだと、今までのペースでやってたら四ヶ月かかるよな?」
「そうなんだよね。賭ける額を増やせばもっと早く集められるだろうけど。……四か月後かぁ……。今リコが妊娠六か月だから、入れるようになったころには俺育休で無理だな、しばらくは来られなくなる」
「もうそんな時期かよ……」
「あっという間だって。てか、今もこうやって残業って嘘吐いてきてることがバレないかハラハラしてるよ……。めちゃくちゃ心臓に悪い」
「でも、そうまでしてきてるってことは、よっぽどハマったんだな? 俺は仲間が増えて嬉しいけど」
「明細だけは見せられないよ。残業してないのバレちゃうから。でも、お金はここで稼げるからね。今のところ、お陰様でバレてないけど」
「一回登録しちゃえば、別にその後はたまに顔出せばいいわけだし。顔さえ見せれば滞在時間一分だっていいからな」
「一気に稼ぐためには、掛け金自体を増やせばいいけど……。だからといって勝てる確証がないから、額が増えるぶんリスキーなんだよな。負けたら取り戻す分は増えるし、それだけコイン五千枚には遠くなるし。そもそも、そんな高額の勝負受けてくれる人がいるかどうか」
「何か換金できるもんないの?」
「ないよ」
「……オリジナルは一部でも結構な値が付くぞ?」
「おいおい、冗談はよしてくれよ」
「いや、爪の白い部分だろ? それに髪の毛にあと血液? は、研究用に買い取ってるみたいだし」
「……それって、再生する部位じゃん」
「そうだよ? 聞いた話だと、その次は皮膚だから再生はするけど時間はかかるし、イマイチだよな。骨なんかどうやって戻すの? って感じだし。歯に後は臓器か……」
「詳しいんだな」
「そりゃ俺も、VIPフロアに入れるようになった時、色々調べたんだよ。借金作りたくないからな」
「そりゃそうか」
「……ちょっと待てよ? 結構な枚数のコイン賭けても問題ないヤツが一人いるかも」
「そんな奇特なヤツいる?」
「いるいる!」
「ハイリスクハイリターンだよ?」
「隼人がもし、もう後がなくって、借金しまくってて担保もなくて、すぐにでも大量のコインがほしい時に、高額ベットしてくるヤツがいたら? どうせいくら賭けようが、大きく勝たない限り行き着く先が変わらなかったとしたら」
「受ける、と思う。だって、後がないんだよな? みんなリスク避けて高額ベットやってくれない可能性あるし。ちまちま稼いだって意味ないんだろ……?」
「そう思うよな! 俺だってそう考える。つまり、他にもそう考えるヤツはいるだろうし、俺は今、そういうヤツを一人だけ知ってる」
「……マジで?」
「マジで。来るたび見かけてるから、多分今日もいるんじゃないかな? ……あ! いたいた!」
楓が指差したその先。そこにはよく知っている人がいた。
「……シナガワ、さん?」
「あの人、隼人が初めてここにきたころに借金返して、折角ゼロになったっていうのに、そこから勝ち負け繰り返して、まぁた負け越してんだよね。他のヤツらも言ってたけど、高額でプレイできる対戦相手探してるみたいだけど、後がないからトドメ刺したくないからみんな受けないっぽい。何回かカンキンジョに行ったみたいだけど、最後に出てきた時は大泣きですごかったらしいぜ」
「トドメ刺したくないはわかるな……」
「えーっと、俺の記憶があってれば、担保に出せる物ももとっくになくなって返す目処が立たない……ってなったら、そこから猶予が全然ないのよ。だから、ギリギリラインのソレを過ぎたらもれなく人生終了のお知らせ」
「怖いことサラッと言うなよ……。にしても猶予が全然ないのか……。シナガワさん、あとどれくらいで稼げばいいんだろ……」
「あ、ホラ。また声かけて断られてる。もう何回目だ? 一ミリも無いんじゃね? 余裕」
「どう見ても必死、だよね」
「ありゃ間違いなくなぁ」
隼人と楓が話している間に、シナガワは何人もの客に声をかけては断られてを繰り返している。楓の言うことに間違いはなさそうだった。
「アレなら、高額ベット受け付けてくれると思うけど」
「……気が引ける」
「そうも言ってられないだろ? チャンス逃したら、VIPフロア入るタイミングもなくなるぞ?」
「ぐっ。めちゃ推してくるじゃん、楓」
「VIPフロアの概要聞いて、それでも興味ある、って言ってくれてるんだからさ。そりゃこっちも必死だよ。入れるんだったら友達と一緒に遊びたいし?」
「なんかさ、人生背負うと言うか、決めちゃうみたいで嫌なんだよな、シナガワさんの」
「あんなのもう決まってるだろ。たまたま勝負しただけだっつの」
隼人の目には、シナガワの行動と見た目は常軌を逸しているように見えた。服装はヨレヨレで肌は汚れている気がする。目の焦点はあっておらずヘラヘラと笑いながら交渉……相手に縋っているのだ。これがただ、ゲームをお願いしているだけなら、そうは見えなかったかもしれない。必死なのは見ればわかる。わかるのだが、必死さよりもその先にある異常さのほうが際立っていた。
「あ、なぁ、そこの茶髪のお兄さん」
「……俺?」
そんな時、楓が近くを歩いた男性に声をかけた。
「そうそう、お兄さん。さっき、あの人に声かけられてたよね? なんて言われたの?」
「あー……。三戦勝負してほしいって。一回千コインで」
「うひゃー、これまた高額だなぁ」
「ゼロ枚周辺行ったり来たししてたらしいけど、今負け越し中で三千枚。担保無くて返しきれないとヤバいんだって」
「……前の億単位に比べりゃ成長してるけど、今回はもう後がないもんな。そりゃあ必死にもなる」
「一回で三千枚賭けるのは怖いんだろうな。三番勝負なのはきっと、一回目で自分が負けても賭け金釣りあげて次の勝負するためだろうね。……はー、いい加減諦めれば良いのに」
「諦めきれない気持ちはわかるよ。俺だって人生終了のお知らせは聞きたくないもん」
「もうなんにもないんだから、素直に従うしかなさそうだけどね」
「なぁ、コイツがあの人と勝負するって言ったら、ギャラリー湧くかな?」
「え、まだ勝負するって言ってないけど?」
「そのお兄さん? まぁ、あのオッサンの人生がかかってるのはみんな知ってるし、どうなるのか見てみたい人たちはいるだろうね。明日は我が身のヤツもいるだろうし」
「言うねぇ。よし、やっぱり勝負仕掛けようぜ隼人!」
「い、いや、俺だってコイン失いたくないし……」
「お前は例え三戦全部負けたとしてもコインがゼロになるくらいだろ? 負債はないわけだし、交換したやつまたコインに換えられるし。そうなったら別に俺も軍資金としていくらか出すから、お前は痛くも痒くもなんともないって!」
「アッサリし過ぎだよ楓……」
「マジでお兄さんあのオッサンとやるの? それなら俺人集めてくるけど。絶対盛り上がる!」
「お、集めてきてくれよ! それだけ必死なら、イカサマもするかもしれないからな、全員で見張ってやろーぜ」
「おっけおっけ。こりゃ楽しくなってきた!」
茶髪の男性は笑いながら席を離れていったと思うと、辺りで暇そうにしている人たちに片っ端から声をかけていた。
「……これもうやるしかないじゃん」
「覚悟決めろぉ隼人。あのな、緊張するとは思うけど、その緊張感がたまらなくなる時が来るからさ。それに、俺もついてる。だから絶対大丈夫だって!」
「だ、だってイカサマされる可能性もあるんだろ? 俺絶対気が付かないよ……」
「その辺は大丈夫! 隼人はとにかくゲームに集中して。困ったら、俺だけ見てろ。知ってる人間が見守ってるんだから、安心するだろ? イカサマバレたら、オッサンはそこで終わりだし? バレなかったらお咎めなしだけど。とにかく大丈夫! 信用しろ!」
「……わかったよ」
隼人は覚悟を決めて、未だに対戦相手を探しているシナガワの元へ歩いていった。
「あ、あの……」
「え、あ、アナタは!」
「その、お久し振り、です」
「いやいやいや、へっへっへっ。いやぁ、お久し振りですね、ふふふっ」
「あ、あはは」
「んふふ。いやぁ、えぇ。スロットのね、あの時のお兄さんですよねあはは」
「は、はい。そ、その、あー……最近その、調子はどうです、か?」
「ちょーし? ふふっ。あぁ、調子ですよね、そりゃもう、ふっ、この上なく? ひぃっ、ひひっ」
「あ、あぁ、そうですか」
人生がかかっているというのに、この人は一体何が面白いんだろうか。隼人はそう思いながら改めてシナガワを見た。口が半開きになって、その端は無理やり持ち上げているようにも見える。眉間にしわが寄っているのに、口元は笑っているのだ。目はずっとキョロキョロしていて視線が定まらない。そして開いた口からは時々笑い声が漏れている。一体どうして、こんなに笑っているのだろうか。――非常に気味が悪い。こんな人にゲームを迫られたら、間違いなく普通の神経の持ち主なら迷うことなく断るし逃げる。それが隼人の今のシナガワに対する正直な感想だった。




