第62話 得手
――十二将学園昇降口前。放課後であるため部活動に行く生徒たちが出入りする中、一神セレンはとある動物3匹と格闘していた。
「こんなところで何してるの、イヌ」
「ウサギさん……あそこでセレンさまが何をしているのか気になってまして……」
「も、モモ太くん。サル吉くんとケンカしないで……き、キジローくん! どこ行くのー!?」
「……苦労してるみたいだね。気になるなら、行けばいいんじゃない?」
俺は今、裏木先輩の飼っている動物たち、犬・猿・雉を引き連れ、動物愛好部の部室へと向かっていた。
その原因となったのは申弥さん。彼はなぜかいないから、この気まぐれな3匹の相手を1人でしなければならない。
「セレンさま……この状況はどうしたのですか?」
「あ、戌慈さん……!」
俺が動物の対応に苦慮していることを見かねてか、心配そうに眉を下げている戌慈さんが話しかけてきた。
途端、モモ太が嬉しそうに尻尾を振って彼に近づく。
しかし相変わらず犬猿の因縁が発揮されるのか、裏木先輩の飼い猿であるサル吉が戌慈さんに対して歯を剥き出しにし、威嚇し始めた。
「ウキィィィ!」
「さ、サル吉くん落ち着いて……」
「セレンさまに向かって何たる無礼か! セレンさま、僕がこの品性の欠片もない子猿をしつけますのでお待ちください!」
「い、いや……あっ!? キジローくんがいない!」
い、いけない。戌慈さんたちに気を取られていたら、いつの間にかキジローが姿を消している。
とりあえずモモ太とサル吉はいったん戌慈さんに牽制してもらうとして、キジローを探さなければと周囲を見渡す。
そのとき、俺の後ろで何かが着地したような物音が聞こえたので振り向けば、そこにはキジローを抱き抱えた酉奈さんがいた。
「我が国の国鳥、キジくんです! 主は我が君ですか?」
彼が翼を出しているところを見るに、まさか、ここに飛んで来るという目立つことをしたかもしれないのは困るが……ともかく今は部室に連れていくのが優先。
「酉奈さん……キジローくん捕まえてくれてありがとうございます!」
「いえいえ。我が君、この仔たちはいったい?」
「いろいろあって、この子たちを動物愛好部に連れて行かなければならなくてですね……」
「ほほう?」
「え、そうだったんですか! 誰がこんなことをセレンさまに押し付けたのですか?」
「い、いやあ……ははは」
俺の言葉に戌慈さんが反応する。首謀者が申弥さんと言ったら、彼の怒りの火に油を注ぎそうなので言えない。
一方酉奈さんはキジローを抱えたまま、昇降口の中へと歩みを進めていた。
「キジローくん。安心してくださいな、悪いようにはしませんから。我が君! ワタシがキジくんをご案内いたしましょう!」
「え、いいんですか? ありがとうございます! 酉奈さん!」
「セレンさま、僕もモモ太を連れて行きます! ほらモモ太、僕と一緒に行こう」
「ワン!」
「あ、ありがとうございます!」
続けて戌慈さんも、モモ太を引き連れて昇降口の中へと入っていく。
「…………本当に、申弥さんの言うとおりになっちゃったな」
2人がやって来て、俺が3匹を動物愛好部に連れていくことに協力してくれる……今までのことは、全部申弥さんが計画したことだった。
――申弥さんは、裏木先輩と別れた後、剣道場で自らの選抜の願いを語ってくれた。
「俺は参謀としてネズミさんに協力しているとはいえ、ただの言いなりで終わる気はないっす」
「い、言いなり……?」
「そう。俺の望みは、ガキみてえだけど……ネズミさんを出し抜いて、アレが考える以上の効率的な方法を考えて、俺が、十二支を完璧に戻す体制を整えることっす」
十二支を元の状態に完璧に戻す。それは、子音さんの願いであり、会合での申弥さんは、それに対して順番までは別に同じにしなくてもいいと言っていた。
どういう心境の変化か。それとも、その本当の望みを子音さんに悟られないようにしていたのか。
まあ彼の願いが何であろうと、断る理由は存在しない。それに、子音さんの願いを叶えるにあたっても、願いそのものは対立しない、同一のものだ。
「わかりました。その願い、俺が協力します!」
「……あっさり承諾するんすね。俺がこれからやることは、ネズミさんの指示を完全に無視した行動なのに」
「あはは、俺は全員の願いを叶えたいので……でも、俺も意外でした。申弥さん、最初は子音さんに肯定的じゃなかったし、一応1位を目指しているとも言ってたので」
「それは……単純に無謀だからってのと、ネズミさんを煽るつもりだからっすよ。本当に逆境ほど強くなる方なんで」
「……なんていうか、子音さんのことみんな好きですよね」
「好きっつーか、対抗心っすけど……んじゃまあ、色よい返事が頂けたんで、さっさと計画の話をしましょう、セレンさん」
「……はい! お願いします!」
それから話してくれた、申弥さんの計画。
一言で言えば、それは動物愛好部の運用計画だった。
俺たちは、その名のとおり動物を愛好する部活動。偶然にも選抜の本題である「人間からの人気を得る」に適しており、動物の魅力について、人間に発信することが可能だ。
今、十二支のほとんどは兼部している部活動に夢中。副題である人間と関わるためには、内輪だけではいけないから。
だが、活動基盤であり、本題に直結する動物愛好部をおろそかにしては、本末転倒。
子音さんは部活動の運用について、現状まだ手を加える必要はないと言っていたらしい。
期間もまだ明言されていない選抜に対して、彼にしては悠長過ぎないかと、申弥さんは違和感を持ったという。
そこで考えたのは、動物愛好部を動物の悩みを解決する方向に持っていくこと。
十二将は裕福な家庭の出が多く、実家で動物を飼っているという生徒が多い。
裏木兆はその例であり、実際飼っている動物たちの世話をしているのは祖父と祖母らしいが、3匹はそこから抜け出して、わざわざ先輩のいる校舎とか、寮にまで侵入してくるとのこと。
生徒会長である裏木兆の動物の問題を解決すれば、動物愛好部の噂は広まり、必然的に注目される。
そう踏んだ申弥さんは、裏木先輩に近づいて今に至るが、彼はこうも言っていたのだ。
「裏木兆の動物を連れていくとき、多分犬っころとトリが現れるんで、あいつらと協力してくださいっす」
現状、確かにそのとおりになった。
2人を利用するような気がして悪い気はしたけど、どうして申弥さんは、2人が来ることを知っていたのだろう。
あの感じからすると、彼の計画は、2人には伝わっていないようだし……
「なーにボーッとしてんの、おさるさん逃げるよ?」
「ウキッ!」
顔を上げたら、眼前にサル吉の顔。そして、張り付かれて俺の視界はシャットアウトされた。
「うわっ!? ちょっ、さ、サル吉くん! 離れてー!」
「せっかく僕が誘導して2人を連れてきてあげたのに、猿を逃しちゃ意味ないでしょ。ほら、部室に行くよ」
姿は見えないけど、この刺々しい感じは李卯さんに違いない。
「り、李卯さんですよね!? どうしてこちらに!?」
「決まってんじゃん、僕はサルの協力者。あのインチキネズミに一泡吹かせられるなら、誰だろうと協力するの」
「ええ……」
多分、また邪悪な笑みでも浮かべているんだろうなと、楽しそうな声の調子からわかる。そして子音さんは、皮肉なことに十二支からは大人気だなあ。
結局、俺は視界がサル吉に塞がれるという奇妙な状態のまま、李卯さんに手を引かれながら、多分、部室へと向かったのであった。
申弥さん……李卯さんが協力者だなんて、聞いていないぞ。




