第61話 計画
申弥さんと酉奈さんに連れられ向かった先は、武道系の部活動が活動する道場がある場所だった。
十二将は文武両道を謳う私立校ということもあり、種目ごとに道場がちゃんと用意されている。
「剣道部か……この姿で剣を扱えるように剣術を習うべきか?」
「決めました! ワタシは弓道部を見学してきますっ!」
「え、酉奈さーん!?」
「あいつも考えてることは同じか。後を追いますよ、精霊さん」
「あ、はい……」
どうしても気になってしまうのは、先ほどの戌慈さんの様子。普段の彼ならば、セレン様にお供しますとそれはもう輝く笑顔で言ってくれるはずだ。
なのに、どこか寂しそうな、辛そうな表情をして、俺たちについてくることはなかった。
「まだ犬っころのことが心配すか?」
「あっ……はい、様子が変だったので」
「まー大丈夫っす。どうせそのうちどこかでボロが出て勝手に爆発しますよ。俺とは真逆で、不器用なんで」
心配を申弥さんに気取られる。集中しろと怒られるかと思ったけど、予想外にも、戌慈さんなら大丈夫であるという発言をする。
すぐケンカするけど、結局2人は同じ十二支として長い時を過ごしたのだ。何となくだけど、2人の間の信頼関係自体は築けているのだろうと思った。
それから、俺たちは弓道部へと足を運んだ。部活動見学者であることを弓道部員に伝えると、笑顔で中に案内してくれる。
「ワタシ、弓道については経験者ですので! ぜひとも弓を引かせて頂けませんかね!」
「え。申弥さん、酉奈さんって弓道の経験者なんですか……?」
「少なくとも、人間の姿で矢を射ったことはないでしょうね。ま、アイツは命中率だけが取り柄なんで、大丈夫じゃないっすか?」
「め、命中率?」
「トリの呪い、あるっすよね。あれの効力は、本来の十二支の力であれば、最弱呪耐性のネズミさんですら自力で解けるほどなんで、強くないんす」
「……十二支の間にも、呪いの強さの差があるんですね」
酉奈さんの呪い、来鶏告光。光線を放ち、命中したものを何らかの鳥の姿に変えることができるものだ。
俺も呪いをかけられたが、丑理さんがまばたきするだけで解いていたことを考えると、申弥さんの言っていることは本当なのだろう。
「そうっす。トリの強みは、一瞬でも呪いまじないを使用不可にできることと、百発百中の命中率。アイツは、いざというとき絶対に外さない」
「では、参りますっ!」
酉奈さんが、美しい姿勢で弓を引く。
弓道において、弦音という言葉があるらしい。正しい姿勢、正しい技術で矢を放てば、高く澄んだ音を響かせるという。
酉奈さんが放った際、確かに綺麗な音を立てていて、矢は的の真ん中へと的中していた。
「う、うまっ……真ん中じゃないですか!」
「いや、狙った位置と若干ズレてる。精度鈍ってんなあ、コケコッコさん?」
「くぅ〜! やっぱり不調ですね! 後もう少し右でどんぴしゃりですのに!」
「ええ? 俺から見る限り真ん中なんですけど……」
酉奈さんはその後も弓道場に居座り続け、何本も矢を放ってはしっかり的に命中させ、気づけばもう弓道部に入ることになっていた。
部活動入部に迷っていたという話はいったい何だったのか。
彼はもうちょっと弓を射っていたいとのことだったので、酉奈さんと別れて、俺たちは弓道場を後にすることにした。
少しばかり、酉奈さんがちゃんと弓道部員と関われるか不安に思った。
だけど、見学の様子からするに、上から目線の物言いや危うい言動をすることもない。
至極真面目に弓道や人間と向き合っていたので、やはり彼は、十二支の中でもまともな方なんじゃないかと、改めて思うのであった。
「精霊さん、俺は剣道部に見学しに行くっす」
「あ、はい! わかりました」
剣道場は弓道場から近い。弓道場から出れば、例によって剣道部のかけ声が聞こえてくる。俺たちはそちらの方向に向かっていった。
「申弥さんは剣道にご興味が?」
「ある程度この身体で剣に慣れていた方がいいと思ったんすよ。精霊さん、俺の五行は?」
「えっと、金ですよね」
「そうっす。だから、こうやって剣を作って戦うこともできるんすよ」
申弥さんはそう言って土に触れては、いつぞやの龍が巻きついた剣を生成した。
周りから目立たないようにだろう、大きさは手のひらに収まる程度、キーホルダーくらいのサイズだった。
子音さんが水を自在に操って戦っていたように、どの五行かで十二支の戦い方がそれぞれ違うということになるのだろう。
金五行なら、金属製の剣を作って戦える。なるほど、だから申弥さんは、人間姿での剣の扱いに慣れるため、剣道部に興味を持ったということか。
「あれ? セレンくん! 剣道部に何か用事かい?」
「う、裏木先輩!? あっ……」
剣道場の前に到着すると、どういうことかそこにはかの裏木先輩がいて、俺に声をかけてきた。
まずい、彼は剣道部だったのか。申弥さんに何か影響があるかもしれない。
そう思ったが、申弥さんはなんてことないように軽すぎる挨拶を始めた。
「……チッス。この前はすいませんした。いきなり会長が現れたもんで、驚いてしまって」
「あ、そうなの? よかったあ、嫌われたのかと思っちゃったよ」
どうやら、申弥さんに何も問題は生じていないようだ。そのことにいったん安堵はするけど、俺は先ほどの出来事を思い出す。
鼬雲さんに貰った、あの手紙。十干の欠片を、人間に埋め込んでいるとの内容。
もしそれが本当ならば、裏木先輩の身に、何か問題が起こるということになる。それを俺たちで助けることができれば、十二支が元の能力を取り戻すことに近づく。
ただ、十干の欠片をどうやって取り出すからわからないし、第一、どのような問題が起こるかも予想がつかない。
今は、様子見しているほかないのだろう。
「そうだ会長、聞きたいことがあるんすけど」
「うん、何かな?」
「モモ太っていう犬以外に、雉と猿を飼ってません?」
「し、申弥さん!? 何を」
しかし、十二支に様子見する気はなかった。申弥さんは裏木先輩に、だいぶぶっ込んだ質問をした。
「えっ、すごいね! どうして知ってるの?」
飼ってるんかい。ガチの桃太郎じゃないか……もしかして、彼が桃太郎を知らないことに、関係しているのだろうか。
「いずれの動物も学校に侵入したことあるんでしょう? 噂になったことがあるらしいすね。俺、動物愛好部なんで、先輩が動物を連れ込むと困るんすよ」
申弥さんの言葉を受けて、裏木先輩は何かに気付いたのか、ハッとしたように口元に手を当てた。
「そ、そうか! 動物愛好部は、校内にいる動物全ての責任を負うんだったね……君たちの迷惑になってしまうわけだ、申し訳ない」
なるほど、申弥さんは、先輩に釘を刺したんだ。先輩が言ったとおり、俺たち動物愛好部は、結成の際の誓約として、十二将にいる動物の責任を負わなければならない。
つまりは、誰かが動物を連れてきてしまって、その動物が問題を起こせば、理不尽にもそれは俺たちの責任になってしまうのだ。
さすがだ申弥さん。リスク管理もお手のものということか。しかし、次に彼のしたり顔を見た瞬間、俺は悟った。
彼が何か、企んでいるということを。
「……もし、動物が言うことを聞かなくて困っているなら、俺たち動物愛好部が手を貸しましょうか? 生徒の動物に関する悩みごとの解決も請け負ってるっすから」
まったくもって初耳だった。多分、子音さんあたりは知っているんだろうなあ。
頼むから、部活動に関することは部長の俺を通してほしい。次の十二支会合で訴えよう。
「お、お願いできるかい……!? どうしてもモモ太は俺のところに来たがっちゃうし、キジローもサル吉も気づけば学校に侵入してるし……」
桃太郎の家来って、そんなに忠誠心が強いのだろうか。きびだんご1つで繋がった絆って、そんなに固いものなのだろうか。
ああ、いけない。別に彼は桃太郎じゃないし、関係ないことは考える必要あるまい。
「じゃ、とりあえず学校に話は通しとくんで、その3匹を動物愛好部に連れてきてくれませんか? あ、連れてくる時は事前に、部長の一神に伝えてくださいっす」
「わかった。一神くん、よろしく頼むよ!」
「あ、ああ……はい……」
こうしてあっさりと話がまとまって、裏木先輩は剣道場の中へと入っていってしまった。
裏木先輩の件を解決できれば、動物愛好部が不当に責任を押し付けられる危機を回避できる。
加えて、西方合のかかってしまった呪いの解明にも近づけるのかもしれない。
ただ、何でこうなったんだっけと混乱している。そもそも俺は今日、申弥さんたちの部活動見学に随行しているわけであって、裏木先輩に会いにきたわけではない。
「精霊さん、混乱してるとこ悪いすけど。俺の計画聞いてくれます?」
いったい、今日のことはどこまでが彼の計画なのだろう。
やはり彼も、食えない十二支だなと思いつつも、俺は二つ返事で承諾したのであった。




