第59話 閉幕と開幕
「これで、十二将学園運動会閉会式を終わりまーす」
「お、終わっちゃった……」
「まーしょうがねーな。こっからあの門と距離がありすぎる」
俺と子音さんは、海遊から十二将につながるという門を通って戻ってきた。
なるべく急いでグラウンドに向かったものの、閉会式がちょうど終わったという有り様で、整列していた生徒たちも、徐々にバラバラになって解散していく。
「セレン様ー!」
「あっ、戌慈さんと李卯さん」
解散していく生徒たちの中には戌慈さんと李卯さんもいて、こちらを認めるや否や向かってきていた。
もっとも、その表情は対比的だ。いつも通り手を振って俺にアピールし、満面の笑みを見せる戌慈さんと、少し口を尖らせていてどこか不満げな李卯さん。
「ネズミさん! セレン様はどちらにいらっしゃったのですか? 僕でも見つけられなかったのに!」
「イヌの嗅覚で見つけられないってことは、結構遠くにいたんでしょ。何があったの」
2人は子音さんに詰め寄り、今まで俺たちが何をしていたのか、事のあらましを問う。
「ああ、こいつは競技のお題に仕掛けをされて、敵に誘い込まれたんだ。そんで厄介なことに、一部記憶を操作された。敵はヒツジの呪物を破壊できるほどの腕前だ」
子音さんは彼らに問われたことを説明しながら、何やらほこりのようなものを李卯さんに向かって投げつけた。
「うわっ、ボロボロじゃん」
「セレンが襲われていたとき、助けに来たのが二神スイレン。ここから北の、海遊っつう地域に転移させて守ってくれたみたいだぜ。覚えてるか? セレン」
「は、はい。そのとおりです」
「そうだったんですね……! すみませんセレン様。あなたを危険からお守りできずして、何が十二支か……!」
「い、いえいえ。誰も借り物競走でそんなことが起こるとは思いませんし……俺も、対抗できなかったことが悔しいです」
戌慈さんが自責の念にかられているが、俺こそ、本当にあの時何もすることができなかった。
せっかく、俺という存在について何か知っていそうな相手と出会えたというのに。
「なあイヌ、お前はここから西の地域に行っただろ。そのとき、何か気づいたことはなかったか?」
「えっと、そうですね……そういわれると、金属臭が強かったような気が?」
「海遊で五行を使ったら、本調子とまではいかないが、ここで使うより格段に使いやすかったんだ」
「あんたは水五行だし、単純に海があったから上手く使えたんじゃないの?」
「それも一因と言えなくはないが、相生にあまり負担がかからなかった。つーことは、陽力が満ちていたってことだろ」
子音さんは、何かに気づいたのだろうか。
確かに海遊で彼が使った五行術は、十二将のプールで使っていたときより格段に数が多く、相生で五行が変わるスピードも早い。
これが、本来の十二支の戦い方であり、子音さんの強さなのだと圧倒された。
「……要するに、散り散りになった十干の欠片、それぞれが司る方角の地域にいるかもってわけ?」
「そうだ。そんでそうすると、十二将には十干の気配がほとんどないことになる」
「ふーん。神様もやってくれるじゃんね。じゃ、これからすることは決まりでしょ」
「ああ」
「え? すみません。僕は話が見えないんですが」
「わかります戌慈さん。ただ2人とも、悪い顔してますね……」
会合ではケンカをしていた子卯コンビ。
互いに小動物だから折り合いが悪いのかと思ってたけど、案外仲が良さそうで、少しの会話で通じ合っている。
だけど何でだろう、彼らが2人で悪巧みをしていると思うと、妙な胸騒ぎがするのは。
「人気を集めつつ、合法的に他校に乗り込み、十干を取り戻す……それがこれからの方針というところか?」
「辰幻さん……!」
後ろからもっと心配な人が現れた。辰幻さんは子音さんの額に人差し指で触れ、口角を上げる。
「ネズミ、貴様から強い水五行の気を感じるな。宝刃より戻ったイノシシやイヌに、金五行を感じたのと同様だ」
「お前……さては知ってたな?」
「ク、そのようなことはどうでもよい。大事なのは、呪いの強化だ」
「は……? げ、こんなとこで何してんだお前ら!」
辰幻さんに合わせて振り向けば、丑理さんと亜未さんが地面にしゃがみ込み、真剣な表情で顔をつき合わせていた。
「腹立つ……なんで壊されたことに気づけなかったんだろ。相手の術式の問題? 突貫で作ったものだったから耐久値が低かったのか……だとすると、もっと熟成された呪物に……」
「……相手の術式がわからないならば、札で対応するのは……」
「僕の人形が壊されるくらいの術なら、札なんて簡単に破られるよ」
「む……それもそうだな……」
土をいじりながら、何やら呪物についてブツブツと会議している。
なかなか近付き難い雰囲気を放っているが、それをもろともせず、辰幻さんが近づいていった。
「人形が破壊された後、吾輩をその場に召喚する術式を組み込んでくれぬか?」
「そんな高度なこと今はできないよ。それに、なんで僕の呪物が壊される前提なの」
「む……落ち着けヒツジ。辰に悪気は…………」
「クク、言い切れぬのだな。ウシよ」
辰幻さんは2人をからかっているのだろうか。呪物についての話に混ざったことにより亜未さんの顰蹙を買っているが、どこか楽しげだ。
「おーいお前らー! 何話しとるんか知らんけど、セレンはんが戻ったんなら、はよ片付け手伝えやー!」
「わは! トラくんみたいなしましま!」
「アホ! 被せんなて! あ、あかん。ハマって取れへん……ちょ、誰か取ってや〜!」
「おやおや! 新しい遊びですか!?」
「うむ! いい感じだぞ! トラ!」
「ええからはよ取れって!」
少し遠くから、寅琳さんから呼びかけられる。しかし彼らはいったい何をやっているんだろう。
運動会の片付け……なのだろうが、寅琳さんは亥寧さんに頭から三角コーンを被されて外せなくなっている。
だけど、その周りにいる酉奈さんと健午さんの他にも、笑って彼を見ている他の生徒たちがいるから、何だかんだで、寅琳さんはやっぱり、人を惹きつける能力があるなあと感心した。
「はあ……ま、今は片付けだな。いくぞお前ら」
子音さんの声かけに、渋々十二支は立ち上がって、グラウンドで片付けをしている寅琳さんの方へ向かっていく。
俺も着いて行こうとしたとき、子音さんがこめかみ付近に手をかざしていたので、その様子が気になった。
『……ヘビ、サル。進捗はどうだ』
『こちら巳乃。サルくんと確認したけど、ネズミくんの予想通り。この十二将には、8つの門が存在していたよ』
『こちら申弥。中でも、鬼門と裏鬼門に相当する北東門と南西門は、門に見えるだけで、開かねえただの飾りっすね。ただ、そのあたりがどうやら立入禁止になってるらしいんで、怪しいっす』
『そうか、ありがとな。仕事が早くて助かるぜ。これから運動会の片付けするから、なるべく早く戻ってこいよ』
そういえば、この場に巳申支合ペアがいない。
もしかしたら彼らに思念伝達を飛ばしているのかもなと、暗躍していそうな2人のことを思い浮かべて、苦笑する。
「何見てんだよ。ほら、行くぞ」
「あ、はい!」
これにて十二将学園運動会は、幕を閉じた。
しかし、これから幕を開けるのは、俺の想像の及ぶ余地もない、元十二支と動物たち……そして、俺を襲った第三勢力たちとの、十干を巡る戦いなのであった。




