第2回十二支会合(2)
会合が続く部室。健午さんが西方合を指名し、申弥さんが立ち上がったところだった。
「呪い持ち人間、というと微妙な線すね。実際、あの人間が団子を作ったとはまだ断定できていないんで」
申弥さんは急にも関わらず、スラスラと冷静に話を続ける。
先ほどまで騒がしかった雰囲気が一気に引き締まっていくから、俺もこうなりたいと尊敬のまなざしを送る。
「うん。ウサくんが押収した例のブツ。問題なのは、多分アレ、経口しないと効果を発揮しない系のモノなんだよね。だから3人がおかしくなったの、別件かも」
「はあ? ヒツジそれほんと?」
「ほんと。団子が呪物なのも間違いないよ」
例のブツというのは、きびだんごのことだろう。亜未さんの言うことを考えると、きびだんご以外に、何か申酉戌の3人をおかしくしてしまうような呪いがあったということになる。
李卯さんの不満げな反応にも納得だ。呪いって複雑でよくわからない。
「それにしても、トリくんなら呪われないような気もするけどねえ……?」
「ええ……ワタシ、何だか調子が悪くって……! 死んじゃうんでしょうか!?」
「大丈夫だよ。暇を持て余したイノシシくんをシマエナガくんに変えられる余力があるからねえ」
巳乃さんから酉奈さんへ疑問が飛ぶ……ずっと、気にしないようにしていた。
会合の途中から、やけに部室の天井付近を可愛らしい小鳥が飛んでいたことを。
そして……亥寧さんの姿が見えなくて、戌慈さんの右肩にそれはそれは可愛らしいシマエナガがとまっていることも。
「ジュリ!」
「イノシシ、呪いで遊ぶのはやめた方がいいと何度も……僕の肩口でさえずるんじゃない」
「うむ。今後そいつを見かけた場合、犬猿どちらかがまじないを使って陰を呼ぶといい。いずれにせよ、君らに特効のある呪い持ちである可能性が高いのだろう? よくわからんがな! なあ辰!」
「なんで辰に言うんだよ……」
健午さんの結論に、子音さんが苦言を呈す。話を振られた辰幻さんがご機嫌な様子なので、気味が悪かった。
「ウマの言っていることは間違いなかろう。西方合、次は吾輩を呼ぶがいい」
「呼びません。操られる系は辰さん無力っすよね」
「クッ……例のブツは大変美味であったぞ。ウサギの呪力に負けず劣らずの味だ」
「あ、アレ食べたんだ。やばいねあんた」
一部、ドン引きした様子の元十二支とか、辰幻さんと李卯さんの会話からもわかることだけど、改めて、呪いについては俺もできる限り関わりたくないと思う。
まあ、俺はすでに呪われているけど……うん。
「……よおし! ひとまず西方合の件も調査していくとして! 次は!」
健午さんですら若干強引に話を進める。表情は変わらず穏やかだから、丑理さん同様、彼が感情的になって怒る様子が想像できない。
「はいっ!」
「何だトリ、ふざけるなら会合が終わってからに……いや、もうふざけてるか」
「いいえ、至って真剣な悩みです。部活動、何に入りました?」
酉奈さんの質問に、一瞬の沈黙が訪れる。
たしかに……結局みんな何の部活動に入ったんだろうか。
「わは! なんか走るとこだよ!」
「イノシシ! 陸上部だ!」
うん、亥寧さんと健午さんは言わずもがな陸上部だ。元気いっぱいで、走るのが得意な2人に向いている。
「家庭科部の調理部門」
「あ、右に同じ。家庭科部。手芸部門だけど」
李卯さんと亜未さんは家庭科部。動物の形を模したお菓子やぬいぐるみで、人間から人気を得る方針だ。
「怪しい儀式をしている部活動だよ。師匠と同じ」
「ク、名目上はオカルト部とやらだな。吾輩の根城にしたぞ」
「む……私は園芸部だ。今夏には、夏野菜が収穫できるだろう」
まあ……巳乃さんと辰幻さんが入った怪しいオカルト部は、呪いの解決に近づけるならいいとしよう。
丑理さんは……園芸部を楽しんでいる様子で何よりだ。
「せやなー、未だに野球部入れ入れ言われとるんやけど、人気者作戦もあるし、別に入らんくてもええかな。いろんな部活動渡り歩くんもおもろいし。え、おまえらは決まっとらんの?」
寅琳さんは、まだ真珠くんに野球部へ勧誘されているようだ。彼は1番人間と多く関われている。
このまま兼部しないまま助っ人として活躍するか、人気者である真珠くんの勧誘に応えて、野球部に入部した方がいいのか……俺が助っ人作戦を提案したのだけれど、悩みどころだ。
「ええ! 皆さん決まっているとはさすがです!」
酉奈さんは拍手しているが、寅琳さんの問いかけに、申弥さんと戌慈さんは決まり悪そうに明後日の方を向いている。
どうやら3人は、まだ兼部する部活動を決めていないようだ。
「その……種類が多くて、何から見学をすればいいのか……」
「……ネズミさんは決めてないんすか」
「俺? 俺は兼部しねーけど?」
「なんですと!? あれだけワタシたちに兼部しろしろと言っていたですのに!?」
俺も驚いた。酉奈さんが言うことももっともで、ほかの十二支に兼部をするよう命じておいて、しれっと自分は兼部をしないと言うのはどうなんだろう。
「だから、部活動『には』入らねーんだよ。お前らが動きやすくなるように、俺は調整しようと頑張っているだけなのにな?」
「あー、よくわかんないすけど、また何かしら企んでるんすね……」
調整……とは何だろうか。子音さんは先を見据えた行動が得意だから信頼はできるのだけれど、李卯さん同様、言い方に問題があるというか。
「うむ。せっかくならば3人は、当番の分も兼部について一神セレンに協力してもらったらどうだ? きっと君たちにぴったりの部活動を見つけてくれるはずだ!」
そして突然の無茶振り。西方合たちは俺を見て、ぺこりと一礼してくれた。頼られるのは嬉しいし、断る理由もない。
「お、俺でよければ……」
「んじゃ概ね、部活動と当番の件は大丈夫だな。セレン、最後におまえの記憶状況を教えろ」
「記憶状況……」
会合は、始まってだいぶ時間が経った。
途中から飽きて、隣と雑談する人、シマエナガになって飛び回る人、水晶を磨き始める人、ひたすら議事録にペンを走らせる人……いろんな十二支がいた。
だけど、子音さんが俺の記憶状況について聞くと、全員が姿勢を正して、俺に視線を合わせたのだ。
「覚えたこと、思い出したこと、違和感があったこと……何でもだ。五志精霊の言動からするに、お前という精霊は、この選抜の全てを知っているはずだからな」
子音さんの言葉や緊張感のある雰囲気から、俺の記憶状況については、元よりこの会合で話す議題であったことが見て取れる。
「わ、わかりました。当番で教えてもらったことも、順に話していきます。えっと……まず、子音さんですね」
「ああ。俺が教えたのは相生。そんで五行すべての相生を見せた。俺の陽力量でも、小さいネズミで五行を一周させるので精一杯だ。弱体化してる証拠だな」
「……子音さんが言ったとおりです。ただ、俺は六神ドレンと会っても、記憶が変動することはありませんでした」
「……私はネズミに引き続き、相剋だ。私は……特に何も説明はしていないが……」
「い、いえ……子音さんと猫口さんが戦っているとき、丑理さんが相剋を見せてくれたのでわかったことですし……」
「やっぱ、実際に見た方が早いってことやんな! 俺は五行操作見せたで!」
「五行操作なら俺がすでに見せていたけどな?」
「細かいことはええやんけ! 支合の話もしたしな」
子音さんが相生、丑理さんが相剋。そして寅琳さんは……まあ、支合及び五行操作ということにしておいて、俺は整理するため、ホワイトボードに教えてもらったことを簡単に書いておく。
「僕は三合。ほとんど説明したのはヒツジだけど」
「ク……吾輩は貴様に十分な経験はさせたぞ」
「師匠は僕たちを助けてくれたからね。僕は三神モクレンと接触、そして双璧についてとかかな」
李卯さんは三合、辰幻さんは呪いなど……巳乃さんは、双璧など、と……ちょっと曖昧になってきたな。
「うむ。俺としては、あまり当番で教えることはできなかったなあ! ヒツジと十干を教えたくらいだ」
「うん。僕は四神カレンとの接触を試みて、精霊くんに記憶操作妨害呪物をあげたよ」
健午さん及び亜未さんは十干について、と。改めて思い返すと、結構色んなことを教えてもらっているのがわかる。
ただ、これで全部ではないし、まだまだ基礎知識に過ぎないことを思うと、気が遠くなるが。
「俺ら西方合とイノシシは、どうせまともに教えてはいないっす。俺はヘビさんと一緒にいましたけどね」
「おやおや聞き捨てなりません! ワタシは半会、方合、自刑などは、我が君に単語としてはお教えしました!」
「い、いつの間にっ! セレン様、わからないことがありましたらなんでも聞いてくださいね!」
「わは! おれもおれも! あれ? おれ何かセレンに教えたっけー?」
「あ、あはは……皆さん、ありがとうございます。でも俺、1つ言いたいことがあって」
ここ最近、ずっと考えていたことがある。
「皆さん俺の記憶のために色々してくださったと思います。ただ、今は選抜中。選抜の課題のとおり、人間と深く関わることが重要です」
元十二支たちとは、クラスが違うから、授業中の様子はわからない。学校は広すぎるから、すれ違うとしても頻度はそこまで多くない。
だから思う。この人たち、ちゃんと他の人間と関わっているのか。ちゃんと楽しく、学校の一生徒として学生らしい生活を送れているのか、と。
「なので……一旦俺のことは置いといて、運動会。これを目一杯、人間として楽しんでほしいんです。学校行事を楽しむことも、学生らしさなので」
「ああ……そういやそうだったな……」
あれ、子音さん、まるで思い出したくなかったとでも言いたげな、嫌そうな表情だ。
「はい、俺はみなさんを見届けるためにも、運営の灰組に入ったんですが……どうしたんですか? なんか、様子がおかしい気がするんですけど……」
「ウシ。会合を締めてくれ」
「……わかった。これにて……第2回十二支会合を閉じる。本会合の結論は……」
「運動会は陽が勝つ! そうだろう、白組!」
「わは! 陽は陰には勝てないよ! 黒が勝つ!」
「…………だ、そうだ」
健午さんと亥寧さんの言葉を皮切りに、椅子から全員が立ち上がって、物々しい空気がこの場に流れる。
そういえば、彼ら2人といえば、白組と黒組の応援団長同士じゃないか。
あれ、じゃあ、この雰囲気はまさか。
「あの、陰は黒組で、陽は白組なんですか!?」
「まったくの偶然だがな。ま、運動能力において陰が陽に勝つのはどう考えても無理無理」
「陽の中で1番運動能力がないやつがなんか言ってるよ。そうやって余裕ぶってたら、隙をつかれて負けるよ?」
「は? 1番運動能力ねーのは辰だろ。天界ではいつも浮いてたからな。陸上で競走する概念がねーんだよ」
「ク……戯言を。吾輩を誰だと思っている」
あ、ああ……また会合が荒れて……いや、終わっているのか……
「そういえば、トリくんは今飛べるのかい?」
「翼を出せば飛べますよっ!」
「よし。じゃあ僕、トリくんに乗って運動会出るね」
「わかりました! では、ダチョウくんのお力を借りて!」
「ヘビさんバカなんすか? ダメに決まってるっすよ」
「じゃあ棄権する!」
「巳乃さん……」
巳乃さん、変温動物の呪いのこともあるし、元々足のない動物だから……運動会に出たくないんだろう。
「わは! ヘビくん、ちゃんと人間らしくしなきゃ、ダメだよ!」
「…………運動ができるやつは、できないやつの気持ちがわからない」
「…………わかるぞ、ヘビ。私も運営とやらをやりたかった」
「…………陽はいいよね、ウマくんいるし」
「ちょっと! 陰の半分がやる気ないとかふざけないでよね!」
李卯さんの言うとおり、陰の半分の気分が沈んでいる……亜未さんに関してはちょっと違う気もするが。
「まあ、五行使えんのはつまらんなー。使えるんやったら陰ともええ勝負になるんやけど」
「勝つ前提で喋らないでよ。ねえイノシシ」
「わは! おれ、トラくんと戦いたい!」
「戦闘狂は黙っとれ……」
「ま、張り合いはほしいよな。セレン、十二支陰陽対決は毎年恒例でな。勝った方に褒美が与えられるんだが、お前は俺たちに何をくれる?」
「ええっ……!?」
「ネズミさん、セレン様は分身であれど神様ではないのですから、負担が増えてしまうのでは……」
「なあに。軽い褒美でいいんだよ。ほら、セレン。気負わずに、人間が思いつく褒美を考えてみろ!」
また無茶振りだ。相変わらず心配してくれる優しい戌慈さんに感謝しつつ、動物の化身は何がご褒美になるのか、思考を巡らせる。
十二支の絵本ではみんなでお酒を飲んでいる描写がありもしたけれど……今の見た目と立場的にアウトだし俺も買えない。というか非行になる。
「えっと、ええと……か、勝った方の組に、好きなお菓子をあげます!」
無理やり絞り出したのは、無難なお菓子であった。さすがに競争の報酬としてはしょぼいだろうか。
「よおし、絶対勝つぞ! 白組!」
「わは! 黒組は絶対負けないよ!」
なぜか士気が高まった。誰かに鼻で笑われた気がしたが……食べ物、偉大なり。
一応、十二支全員の好物を調べておこう。俺はそう決意したのであった。




