第2回十二支会合(1)
十二将学園、動物愛好部部室。この場に、部員全員が揃った瞬間がようやくやってきた。
「……司会、十二支次席の牛戸丑理だ。まずは……先導、よろしく頼む」
円卓に12人が座り、厳かな雰囲気の中、今回の会合の司会であろう丑理さんが、先導に進行のバトンを渡す。
結局進行が先導になるのなら、丑理さんが司会の意味はあるのだろうか。席から立ち上がった子音さんと健午さんを見てそう思ったが……これも俺の知らない会合のルールなのかもしれない。
ただ、2人が向き合っているのを見ていると、やはり先導という名を受けるに相応しい風格を感じる。
「任された。前半先導の鼠入子音だ。まずは当番の状況をそれぞれ報告していけ。その中で、問題点を整理する」
「後半先導、馬宮健午だ! 前半はうまいように当番を回せていたようだが、西方合が終わっていない! 後半がなあなあになってしまうのは昔からの悪習だな!」
「つーことは、報告は西方合以外の9匹な。イノシシ、お前が1番記憶が新しいんだ。さっきのことを報告しちゃえよ」
「わは! わかった!」
先導はスラスラと会合の方針を決め、再び席に座る。今度は指名された亥寧さんが元気よく返事をして起立した。
「えーとねー、コレンっていう金の精霊、意外と味方っぽい! ブタはなんかよくわかんないことしてたー!」
「……イヌも一緒に行ったんだろ? どうだった」
「あ、はい。コレン様からは庚様や辛様のにおいがしましたので、五志精霊で間違いないはずです。ブタに関してですが、『あいどる』といったよくわからないものを目指しているそうで」
残念ながら亥寧さんの説明は子音さんのお気に召さなかったようで、同行した戌慈さんに回される。
すると彼の話から、「あいどる」って何だと元十二支たちが騒めき始めた。
「む……一神セレン、あいどるとは何だ?」
それを受けてだろうか、急に丑理さんから話を振られて、動揺からビクッと体を揺らしてしまい、ホワイトボードにぶつかる。
一部から、他人事だと思ってんな、とでも言いたげな視線が送られるので、反省した。
確かに思ってたのだ、今回は会合を見守るだけなのだと。イメージするならば、生徒に司会を任せて、学級委員とかを決めるときの教師……いや、教師に失礼だな。
「え、えーと……いわゆる、歌や踊りなどの芸で、世間の注目を集める……人? ですかね」
人間としての俺は、あまり芸能界に詳しくない。
ただ、アイドルには多彩なコンセプトがあって、それによって人気層に違いがあるというのはわかるけど……豚座さんはどこを目指しているのだろう。
「セレンはーん。そのあいどるとやら、俺たちがなるのは厳しいんかー?」
ざわざわとしている中、寅琳さんが俺に問いかけ、周りも気になったのか喧騒が止む。
人気を得ることに積極的なだけあって、彼も対抗したいのだと思ったのだろう。
彼らの容姿は人目を惹くことはできる。だけど、アイドルは見てくれだけじゃ成り立たない。
それに、歌やダンスを一からやると考えると、指導してくれる専門的な人間がいないと厳しいのは明白だ。
「そうですね……十二将とは違って、あちらの学校は、アイドルなど人に注目される存在を目指すのに特化しているんです。十二将は勉学特化ですから、難しいですね」
「ふうん。せやったら、ブタがおる学校の動物は、俺らより有利ってことやんな。そりゃイノシシも暴れるなあ」
「わは!」
「有利ってわけじゃねえと思うぜ」
「あん?」
子音さんが一言発すると、寅琳さんは彼に対しガンを飛ばす。間に挟まれている丑理さんは、仲裁することもなく何事もないかのように、静かにペンを走らせていた。
「人から注目を浴びる以上、少しでも行動を間違えれば、積み上げたものはすぐ崩れる。だろ? セレン」
子音さんの言っていることはもっともだった。
芸能人というものは、世間に注目される以上、より行動に気を配らなければいけない。
それに、アイドルとしても技術を磨かねば、他者に淘汰されてしまう。チャンスは与えられているものの、豚座さんたちはシビアな環境に置かれているのかもと、思い直す。
「そうですね……芸能界って、すごく厳しい世界らしいですし……」
「ま、現段階では注視していくとしか言えねーな。さて、さっさと次の報告いくぞ」
不服そうな表情で頬杖をつく寅琳さんをよそに、子音さんは先導として会合を進めようとしていた。
「イノシシから西方合飛ばして、次の報告はお前らだな。午未」
「おお、そうだな! 俺たちは前会合で言ったことを撤回する!」
「え、ちょっ、ウマくん心の準備が」
指名された健午さんは意気揚々といった感じで宣言した。一方、相方の亜未さんは、真っ青になって落ち着きを失っている。
「俺たちは子丑の座と置き換わる形になりたい! いわば、俺が1位でヒツジが2位になるわけだ!」
ああ、そうか。健午さんは俺との当番で、亜未さんと共に十二支の1位と2位を目指すことを決意したんだった。
なるほど……ある意味子音さんと丑理さんに対する、真っ向からの宣戦布告。健午さんは、寅琳さんとも対立することになる。
亜未さんは、2位になると宣言したときは強気だった。羊は群れで行動するし、争いを好まないようなイメージがある。
だからこそ、この大勢の前で本心を宣言することに、抵抗があったのかもと思う。
俺も、胃が……キリキリしそうだし。
「はあ!? おまえどういう風の吹き回しもごごご!」
「ちょっと黙ってろトラ……今まで何を遠慮してたか知らねえが、やっぱり俺とお前は対立する運命なんだな。いいぜ、受けて立つ!」
「うむ! 共に良い戦いをしよう!」
「何やねんおまえら、俺を除け者にしよって! 俺が勝つに決まっとるやろ!」
亜未さんとは対照的に、子音さんや寅琳さんは、健午さんの宣戦布告にむしろ嬉しそうにしているようで、3人とも笑顔だった。
健午さん以外、ニヤリとでも効果音がつきそうなわっるい顔だったけど。
「……そうなのか、ヒツジ」
「ヒツジにしては思い切ったことするね。でも、確実にウマと支合になるには、そうするのが1番確率が高いのか」
「あー、そういうことっすか。ヒツジさん、理由のない戦いはしない主義っすもんね」
「…………」
丑理さん、李卯さん、申弥さんからそれぞれ話しかけられるものの、亜未さんは無言になって目を逸らしていた。
「ウマの発言で思い出した。前会合で言ったこと、お前ら本心じゃねーだろ。この場でゲロっちまえよ」
子音さんは進行に戻り、元十二支の本心を聞き出そうと話を振る。俺は、選抜で彼らがどうありたいのかは、だいたい当番で把握できてはいる。
「精霊くん、秘匿希望です」
「吾輩もだ」
「……え? えっと、言うなってことですかね」
しかし、巳乃さんと辰幻さんは、子音さんが本心を言えと話した瞬間に、手を上げて隠すことを俺にお願いしてきた。
確かに、2人の本心といえる願いは、この場にいる彼らに直接的に関係するわけだし、隠したい気持ちもわからないでもない。
俺は個人個人を大事にしたいし、意に反して2人の願いを公表することはしたくない。
だから、子音さんに視線を送られても、ただ俺は横に首を振るだけだ。
「チッ、爬虫類はこれだから……」
「え〜? 爬虫類に対する偏見に抗議します。ねえ、哺乳類のウサギくん」
巳乃さんが李卯さんに話を振る。彼なら今選抜での在り方の変化について、話してくれるだろうと踏んでいたのかもしれない。
「は? 今は全員哺乳類でしょ。ああ、それと。僕は情け深いから、自分の人気を維持しつつ、みんなの人気を底上げしてあげるよ」
李卯さんはふんぞり返って、自信満々にそう言った。なんて上から目線なんだ。彼の当番の様子から思うに、もしかしたら照れ隠しなのかもしれないけど、言い方が悪い。
「偉そうに言ってんじゃねーぞウサギ! 俺にだけ嫌がらせしやがって!」
ああ。子音さんが反応した。この感じからすると、結局ネコのクッキーは彼の手に渡ったのだろう。
「ふん、人気ドベネズミは黙って僕の施しを受けてなよ」
「いらねえしドベネズミじゃねえ、ドブネズミだ!」
「ウサちゃんはこうでなくちゃな。結局、自分に1番正直もんが勝つんやで。その証拠に、俺が1番進んどるしな!」
寅琳さん……どうして彼は自ら争いの中に突っ込んでいくんだろう。
「お前はところ構わずトラ化するな。どこで見られて、人間に何を考えられているかなんて、わかったもんじゃねえぞ。目立てばいい、人間に関わればいいって、考えが安直すぎんだよ」
案の定、李卯さんに突っかかるままの勢いで、子音さんは寅琳さんに文句を垂れる。トラがネコ科というのもあるのだろう。この2人はちょくちょく争う。
「自分がネコちゃんやら何やらでうまくいかへんからって、そこまで言わんでもええやろ。それに、何をしたいかわからんのはコイツや。何をのんきに野菜育ててんねん」
「む……2位になるためだが?」
「はあ? ヒツジのぬいぐるみ作りの方が納得いくんやけど」
寅琳さんの気持ちはよくわかる。野菜を育てることは、直接十二支の2位に繋がるかというと怪しい。
だけど、部活動での活動は人間らしさのポイントになるだろうから、地道に進んでいく彼らしい行動だとは思う。
「……ヒツジのぬいぐるみと言えば、だが。五志精霊と会って、変化はあったのか?」
「あ、そういえば、記憶に特に変化はないですね……」
なんてマイペースなんだ。丑理さんは自分が気になる話に方向転換した。しかし確かに、俺はコレンと会ったのに何の反応もない。
「五志精霊と会って反応するってわけじゃないのかな? うーん、呪いってこれだから……」
落ち着きを取り戻したのだろうか、亜未さんが呟く。
「これだから興味深いのだ。一神セレン、五志精霊と会った際の状況について、後ほど吾輩に説明するとよい」
「は、はい……」
すると辰幻さんが反応して、それはそれは好奇心旺盛なキラキラと輝く瞳で俺を見つめるから、ただ肯定することしかできない。
「はあ……これだから爬虫類は」
「えっ、ヒツジくん……? なんか僕に飛び火したんだけど。それにしてもさ、僕たち、元々何の話をしていたんだっけ?」
巳乃さんの発言に、みんなが顔を見合わせる。
「本心を言うんじゃないの?」
「いや、当番の件か?」
「精霊くんの記憶……」
ざわざわざわ……元十二支たちが一斉に話してわけがわからない。
頼みの綱であろう先導すら、2人とも何かを考えているのか目をつぶってこの状況を放置していた。
「こういう時のための司会なんだって……あー、今回の司会、ウシだった」
「む……用は、これからどうするか……ということだろう」
しばし沈黙。
もしかして……十二支会合って、毎回司会によって進行の仕方が変わるのか。
結論の見えない会合。俺はその行く末を不安に思ったが、先導が目を開けて手を上げる。
「脱線しちまったもんはしょうがねえ。気になることを話し合っていく!」
その挙げられた手は、そのまま申弥さん、酉奈さん、戌慈さんがいる方向を差した。
「うむ! 西方合! 例の呪い持ち人間について教えてくれ!」




