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トゥエルブ・セレクション  作者: 上川央離
第2章 選抜始動編
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第52話 アイドル

 ここは十二将学園、オカルト部部室である。 


 オカルト部は以前、辰幻さんに会うためにやって来たことがあったが、部員に追い出されためあまり印象が良くない。

 

 しかし今日は土曜日ということもあり、活動自体は休みのようだ。

 

「さて、吾輩の実験に付き合ってもらおう。精霊よ」


「…………実験」


 もっとも、怪しげな実験をしている者はいるようで、俺はそれに巻き込まれようとしているが。


「クク、そう怖がるな。貴様には心強い味方がついているぞ」


「わは! ブタを叩きのめすね!」


「あの……その心強い味方、すっごく物騒なこと言ってるんですけど……」


 昨日、李卯さんから、亥寧さんと共に他校に侵入するという耳を疑う話があった。

 どうして亥寧さんだったのか。その理由を、今の彼の言動で理解したのだった。

 

「一度口にしたことを忘れるでないぞ、一神セレン。反故にした約束事は、呪いとしてその身に返ってくるぞ」


「はい……そのとおりだと思います」


 そう、俺は亥寧さんに協力すると約束したこと自体、頭から抜けていた。辰幻さんの言うとおり、自分が口にしたことには責任が伴う。


 散々わかっているはずなのに、忘れっぽい自分の記憶が憎い。羊のぬいぐるみくん、助けてくれ。


 そう胸中で嘆いていると、それに関しては異常なしだと、無機質な声で返答する人形のイメージが思い浮かんだ。


「ではイノシシ。役目はわかっているな?」


「うん! ブタを見つけたら、たぶん五志精霊が来る! で、そいつとセレンを合わせて、セレンの記憶がわは! ってなるようにする!」


「あくまで、精霊と会うことが優先であることを忘れるでないぞ」


「はーい!」


 2人のやり取りを見る限り、意外にも辰幻さんと亥寧さんは仲がいいのかもしれない。

 多分どちらも振り回す側だろうし、この2人が一緒にいることに不安を覚える十二支もいそうだ……俺が不安だし。


「一神セレン。貴様も今日はイノシシの当番だと思い、学べることは吸収しておくがよい」


「は、はい……!」


 色々とツッコミどころがあるのはともかく。申酉戌の3人の当番は後回しになって、今日は亥寧さんの当番をするようなもの。

 

「亥寧さん、よろしくお願いします!」


「わは! 記憶思い出せるといいね!」


 だから、気を引き締めるんだ。今回は亥寧さんが戦うことになるのは確実。この前みたいに振り落とされずについていきたい。


「ク、覚悟は決まったようだな。貴様らの転送先は、十二将より西にある、宝刃芸能学園という場所だ」


「芸能学園……?」


「まだ貴様が会っていない五志精霊は北にもいるようだが、西にはイノシシの敵がいるようだからな、都合がいいのだ」


「ありがとね! 辰くん!」


 なんで亥寧さんの敵の居場所を知っているのだろうと思ったが、いちいち疑問を口にしていては事が進まない。俺は口をつぐんで、辰幻さんの話を黙って聞いていた。


「転送時間は10分。10分過ぎれば自動的にこちらに戻ってくる。その間に精霊と会うがよい」


「はーい! すぐにカタをつけてくるねー!」


「10分……み、短いですね……」


「吾輩の陽力が完全に戻っていないのでな。サルで試したが、どうしても限界は10分までのようだ」


 申弥さん……以前辰幻さんの実験台になると言ったばかりに、犠牲になってしまったのか。


「イノシシ。貴様が苦戦を強いられることはなかろうが、万が一窮地に陥った場合の救済措置を用意する」


「だれだれ〜?」 


「いるのだろう、イヌよ?」


 オカルト部の入り口の方に辰幻さんが視線をやり声をかければ、そこから戌慈さんがひょこっと顔を出した。


「戌慈さん……!」


「わは! イヌくんだ! わーい!」


「わっ……セレン様。僕も連れて行ってください。神様のご意思を知るには、精霊様に会う必要があるので」


「お、俺は大丈夫ですけど……」


 戌慈さんは亥寧さんに勢いよく抱きつかれながら、真剣にそう俺に訴えかけてきた。

 俺としては、彼がついてきてくれることはありがたいし、亥寧さんが暴走したときの……抑止力になってくれるだろう。

 

「我が双璧の片割れよ。貴様、信仰心を捨てておらぬだろうな?」


「奇遇ですね。僕も貴方が役目を捨てるつもりなのかが聞こうと思っていました」


「クク……その威勢のよさならば問題なかろう。一神セレン、お供にイヌをつける。此奴のまじないは使い勝手もよいからな」


「いつまで僕を頼りない十二支だと思っているんですか? 僕だって戦えますけど」


「イヌくん! ブタはおれの獲物だから手を出さないでね!」


 ああ、この場は不穏すぎる。そういえば戌慈さんと辰幻さんは向かい干支だった。なるほど、確かに正反対だな。


 辰幻さんは戌慈さんの噛みつきに動じることなく、いつもどおり余裕たっぷりに笑っては、俺の方に指を突きつける。


「一神セレン、改めて言っておくが、吾輩たちは人間界の作法を知らぬ。転送先がどうなっているかもわからぬ。くれぐれも、注意するがよい」


「はい。そうですよね……他校に行くわけですし……」


 あれ……そういえば、よく考えてみれば、他校の生徒が勝手に侵入するのってまずいんじゃ。 

 通報されて、退学……という最悪で大げさなシナリオを想像する。


 しかし亥寧さんとの約束を破るわけにはいかない。それに、戌慈さんや俺自身の記憶のためにも、五志精霊と会う必要がある。


 うまく立ち回るんだ。それが人間の記憶を与えられた理由であり、役目ではないか。


「……辰幻さん。いつでも大丈夫なので、お願いします! 亥寧さん、戌慈さん。あちらではまず、俺に従ってくださいね」


「わは! わかった!」


「承知しました!」


「クク……では、始めるぞ」


 辰幻さんは近くに置いてあった水晶に手をかざし、こう呪文を唱えた。


「親愛なる金の精よ、混沌極まる今世に、導きあらん」


 聞き覚えのある呪文。キャンプファイヤーで、亜未さんが唱えていたものと似ていた。


 さらに水晶からは禍々しいオーラが出ていて、オカルト部ならば違和感のない光景だ。


「うっぷ……」


「イヌくんだいじょぶー? さすってあげる!」


「あ、ああ……呪い酔いだから心配ない。辰さん! さっさと発動してください!」


 やっぱり陽の戌慈さんは呪いに弱いようで、陰の亥寧さんはピンピンしている。

 俺は特に、体調が悪くなりはしない。どういう仕組みで陽の気分が悪くなってしまうのだろう。


「急かすでない。座標が外れるだろう? ……龍式呪法、逆鱗天下・解鱗!」


 水晶から出た光が俺たちを包み込む。その温かさに、微睡みに落ちていくような感覚が襲う。


 再び目を開けたときには、亥寧さんと戌慈さんの2人の顔が視界を占めていた。


「はっ! す、すみません、俺、眠ってしまったみたいで……」


「いえいえ。辰さんのまじないは乱暴なので仕方ないですよ」


(当たりが強いな……)


「わは! それでそれで! ここ、どこ?」


 周りを見渡せば大勢の人がいて、目の前にはステージがある。そこには煌びやかな衣装を着た人間が、マイクを持って堂々と立っていた。


「みんな! 今日は来てくれてありがとう! ボク、豚座琢磨(いのこざたくま)はこの宝刃で、十二賞のアイドル部門を取ってみせるよ!」


 ステージ上の人間がそう喋れば、周りから歓声が上がる。


 俺は自分の置かれた状況を理解した。ここは芸能学園。

 今俺たちは、アイドルの舞台を見に来た観客のような状態なのだ。


 よし、ならば周りの人間はアイドルを見ることに集中しているわけだから、こっそり動けば気にされない。

 両隣に座っている亥寧さんと戌慈さんに早速指示を出そう。


「いたーー!」


「え。嘘でしょ、亥寧さんっ!」


「おい、ちょっ、イノシシー!」


 ……そう思ったのが、俺は遅かった。猪突猛進という言葉を俺は侮りすぎていた。亥寧さんは客席を飛び出し、一気にステージ上へと駆け上がってしまったのだ。


「ねえ。あれ、十二将の制服じゃない?」


「ほんとだー、うちも色んな学校からお客さんが来てくれるようになったよね」


「あの人、豚座くんと顔立ちがちょっとだけ似てない!?」


 あ、ああ……観客がザワザワしている。どうしよう。


「せ、セレン様っ! お気をたしかにー!」


 だけど……亥寧さんがステージに向かったということは、あの人がブタの化身。ブタが……アイドル?


「キミはボクのファンかな? しかしいくらボクが魅力的だとはいえ、ステージに上がり込んでは……あ」


「わは! こんにちわは!」


「ど、どどどどうしてキミがここにっ!?」


「おまえが十二支になりたいのか確かめに来た!」


 明らかに舞台上の彼は、亥寧さんの登場に動揺している。顔面蒼白になりながら、ジリジリと近づく彼から逃れようと後ずさりをしていた。


「厄介ファン、回収ーっ!」 


「わ! なに!」


 亥寧さんがブタのことを追い詰めた。そう見えた瞬間、どこから誰かがそう叫んで、スーツ姿のSPのような人間が大量に現れる。

 そして彼らは、ブタの化身から亥寧さんを引き剥がし、どこかへと連れて行ってしまったのだ。


「い、いのししーっ!」


 あ、ああ……通報からの退学……また嫌な想像が掻き立てられる。


「ど、どうしましょうセレンさま! い、イノシシが、イノシシが、人間に連れ去られてしまいました!」


 戌慈さんのあまりの慌てように、一周回って俺が落ち着いてきた。いや、嘘だ。かなり俺も焦っている。


 ただ、現状すべきことは亥寧さんを探すこと。ああ、辰幻さんは予見していたのだろうか。

 隣に人探しのスペシャリストがいるではないか。


「お、落ち着きましょう……! とりあえず、亥寧さんを探します! 戌慈さん、亥寧さんのにおいをたどれますか!」


「あ……! はいっ、お任せください!」


 やはり戌慈さんにかかっているという呪いは、俺たちにとっては救いだった。


 人間を遥かに上回るその嗅覚は、亥寧さんの居場所を探し出して、俺たちはとあるビルへとたどり着いていた。


「この建物から、イノシシのにおいがします!」


「で、でっかいビル……い、行きましょう!」


 これこそ不法侵入な気がする。だけど、亥寧さんが連れてかれてしまった以上、なりふり構っていられない。


 それに、俺は精霊と会わなくてはならない。制限時間は10分と短いのだ。


 俺たちは、ビルに入り、なるべく人に見つからないように突っ切っていった。


 こんなどデカいビルなのに、なぜ人に会わなかったのか違和感はあった。もしかしたら、無意識にでも戌慈さんの嗅覚が、人を避けてくれていたのかもしれないなと思った。

 

「セレン様! ここからイノシシのにおいがします!」


「うん。突入しましょう!」


「はいっ!」


 見つけたのは控え室。近くにあったプレートには豚座琢磨と書いてあって、間違いなくここだと扉を開けた。


 しかし、見えた向こう側の光景に、俺と戌慈さんは思いっきりすっ転んだ。


「わは! 捕まっちゃった〜」


 亥寧さんは手首と足首こそは、椅子に紐で括り付けられ拘束されているものの、満面の笑みで見知らぬ誰かから与えられるお菓子を食べていたのだ。


「あ、どうも。お宅のイノシシくん、捕まえちゃいました」

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