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トゥエルブ・セレクション  作者: 上川央離
第2章 選抜始動編
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第51話 兆し

 迷子の迷子のモモ太くん。再会できた飼い主さんの周りをぐるぐると回って嬉しそうだ。


 一方で、その飼い主が現れた途端、申酉戌の3人の様子がおかしくなってしまった。


「君たちがモモ太を見つけてくれたのかな。ありがとう! 俺は高等部2年の裏木兆(うらききざし)! よろしく!」


「よ、よろしくお願いします。俺は高等部1年、一神セレンと申します」


「そちらは?」


 そう、先輩が指し示す先には、跪き、ぴくりとも動かず喋りもしない3人組。いったいどうしてしまったというのだろうか。


「えーっと……左から順番に、猿爪申弥さん、飛鳥酉奈さん、犬浦戌慈さんです。みんな1年生です」


「そうなんだ! 何か不安なことがあるなら、2・3年校舎においでよ! 生徒会長だし、だいたいのことは相談に乗れるから」


「生徒会長!?」


 とりあえず彼らを紹介すると、先輩は親切にもそう言って、手を差し出す。しかし、誰も反応する気配はない。


 彼が生徒会長だということに、俺が驚いて声を上げてからも沈黙が続く。よく彼も、3人に手を差し出し続けたままでいられるなと思っていた。


「うーん。ねえ、一神くん。彼らって気難しい感じ?」


「いえっ! そんなことは! み、みなさん一体どうしちゃったんですか? 挨拶には挨拶で返さないとダメですよ!」


「緊張してる? なら、これでも食べる?」


 俺が咎めるも動かない。3人を見かねてか、裏木先輩がどこからともなく出したのは、袋に入った団子だった。


「はい、きびだんご。おいしいよ?」


(あれ……?)


 きびだんご……きびだんごといえば、かの有名なおとぎ話の桃太郎に出てくる代物だ。

 きびだんごで桃太郎が家来にしたのは、犬、猿、雉。十二支と一致している。


 彼らは、桃太郎にきびだんごを与えられて家来になる。


 モモ太という、やけに桃太郎を意識しているような犬の名前といい、彼らはこの代物を食べてはいけない。そんな気がした。

  

「……う、裏木先輩! も、桃太郎ってご存知ですか?」


 だけど、好意で与えられようとしている物を断るって難しい。上擦った声で、誤魔化すように突拍子もないことを俺は言う。


 ただ、裏木先輩からの返答は、全く予想外のものだった。


「ももたろう……? えーと、それって何かな?」


「えっ……」


「どういうものなの?」


 裏木先輩は首を傾げながら、興味津々そうな目で聞いてくる。

 嘘はついていないだろう。しかし、桃太郎を知らない。そんな日本人っているのだろうか。


「も、桃太郎っていうのは、桃から生まれた桃太郎という人間が、家来の動物たちを連れて、鬼を倒すというおとぎ話です……」


「へーっ! 面白そうだね! でも俺なら、鬼を倒すなら1人で戦いたいなー!」


「はい? それってどういう……」


「おっと! 仕事が残ってたんだった! じゃ、お近づきの印にそのきびだんごはあげる! 後ろの3人とは話せなくて残念だけど、また今度ってことで! じゃあ!」


「え。あ、はい……!」


「モモ太、行くよ!」


「ワン!」


 十二将の生徒会長も変だ。

 モモ太を連れ、おそらく2・3年校舎があるであろう方角へと風のように走り去ってしまった。


「どうしよう……きびだんご」


 結局断り切れずもらってしまった。とりあえず3人には食べさせないでおこう。

 まあ、3人はまだびくともしないし、今はこちらの方が問題ではある。


「あの、みなさん本当にどうしたんですか? 挨拶しないで、人間としては感じ悪かったですよ」


「き……」


「き?」


「「「きびだんごよこせーっ!」」」


「でええ!?」 


 どういうわけか俺が声をかけたら、今まで置き物みたいだったのが嘘のように、3人が俺の手元にあるきびだんご目掛けて一斉に飛びかかってきた。


 やられる。そう思ったとき、スパァン! と大きな音が3つこの場に鳴り響いて、気づけば3人が呻きながら頭を押さえていた。


「まったく、簡単に呪いにかかっちゃってさ。それでも十二支なわけ?」


 すぐ隣から刺々しい物言い。案の定、ウサギの尻尾のようなちょこんとした結び髪が目に映る。

 

「李卯さん!? わっ!」


 李卯さんからきびだんごを強奪される。そしてそれは、彼の手から真っ黒なハリセンを持った丑理さんへと渡された。


「丑理さん……!?」


「ウシ、あんたが感知したのは、この呪物だね。辰に見つからないうちに処分した方がいい」


「じゅ、呪物!?」


「……西方合、後でおまえたちに……話がある」


 きびだんごが呪物ってどういうことだと思いつつも、起き上がった3人は、丑理さんの言葉に静かにうなづいていた。


「それと精霊、あんたは明日に備えて早く帰って」


「え? 俺、まだ3人の当番が終わってないんですが! それに、明日って学校休みじゃ……」


「明日、あんたには重要な役目をしてもらう。そしてその後、十二支会合を開く」


「え、十二支会合ですか?」


 一方俺、李卯さんから帰宅を促される。と思いきや、明日は何やら俺が動く大事な用事? がありそうだ。


「西方合たちは当番が後になるけど、それでいい?」


「ウサギさんがそういうなら……」


「ワタシも構いませんよ……」


「むしろありがたいんで全然大丈夫っす。呪い解いてくれてあざっした、ウシさん」


「む……荒療治ですまなかったが」


 李卯さんの伺い立てに、西方合の3人はあっさり当番を後にすることに了承した。


 十二支会合は、申弥さんが言うには全員の当番が回ってから開くとの予定だった。


 3人と亥寧さんを飛ばしてまで開かなければならないくらい、事態は切迫しているということだろうか。


「陽の犬猿はともかく。トリ、あんたが呪いを破れなかったわけ?」


「そうなんですよね。ワタシ、気づけばキジくんになって、2人と鬼退治に行く幻覚を見てまして……本当にどうしてしまったのでしょう」


(桃太郎……!?)


「ふーん、幻覚系の呪いねえ……ま、十二支全員おかしくなってるのは間違いない。あんたは元からおかしいけど」


「ウサギくん! ワタシのどこがおかしいのです? ヒヨコのみぎりより共に頑張ってきた友に、よくそんなことが言えますねえ! ああ、傷ついた……!」


「あっそ。2人よりは元気そうで何より。よーしよし、別にそんなに落ち込む必要はないんだよ、イヌ」


「う、ウサギさんっ! セレン様がいる前でやめてください!」


「いないならいいの? よし、精霊。トリと帰った帰った」


「ええ……?」


 李卯さんはやっぱり、向かい干支である酉奈さんに対して手厳しい。


 落ち込んでいる戌慈さんには、頭を撫でて優しくしているし、対応の差が明らかだ。


 ……こう見ると、撫でられている彼は完全に犬にしか見えない。言葉では拒否していても、見えない尻尾を振っているような気がする。


「えっと、帰るのはいいんですけど……その、明日って結局、具体的には何をするんですか?」


「そーっすよウサギさん。そいつのことはどうでもいいんで、ちゃんと精霊さんに明日のこと説明してあげてください」


 意外にも申弥さんは、俺に助け船を出してくれることが多い……表情はうんざりしているので、多分彼も早く帰りたいのだろう。


「……嫉妬?」


「はっ倒しますよ」

 

 和の双璧は争いを好まないと言うけれど、彼ら2人のケンカに対しては、むしろ火に油を注いでいるように見える。


 李卯さんや酉奈さんにとっては、犬猿のケンカはからかいの対象なのかもしれない。


 こういうところで、向かい干支でも似通っているところはあるのだと勉強になる。


「む……では私が……」


「ウシは喋らんでいい。精霊、あんたにはイノシシと一緒に特攻をかけてもらう。他の動物が通う、学校とやらに」


「…………はい?」


 李卯さんが意地悪く笑う。亥寧さんのお決まりの口癖が、遠くで聞こえたような気がした。

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