策の激突、戸賀狂嫁VS霞ヶ崎小雪⑦終
「梓沼、お前は電波障害を起こしている陣地にて、私の後頭部を撃ち抜いた。だが既にその時、私のもうひとつの策は動いていた。それは私の策を全て知り尽くした者に託していた、ということだ」
私の背後から、二人の女性が現れた。
それは、紅橙霞と蒼青明。
二人は勝利したことを分かっているのか、満面の笑みを浮かべ、困惑し立ち尽くしている梓沼たちを見下ろした。
「今回の決闘の要は私、ではない。私はあくまでも囮であって、この作戦の主役ではない。私は今回の作戦を紅と蒼の二人にこと細かく話した。
内容はざっくり説明するとこうだ。私が囮となり、敵陣で討たれる。だが君たちの中にスパイとして送り込んでいた卓城が全ての兵をここへ集結させる。そして彼らより旗の位置情報を入手する。
まあ、君たち霞ヶ崎の仲間が来るのは予想外だったけど」
「まあ、そういうことですね」
テントの中からは、卓城がトランシーバーを片手に出てきた。
「卓城、裏切ったのか」
「別に、俺は君たちの仲間になるとは言っていない。ただ君たちが勝手に仲間になると思い込んでいただけの話」
梓沼は卓城へ怒りに満ちた視線を向ける。
「梓沼、君たちは負けた。だがしかし、この決闘の要は我々が争うことではない。破壊された生徒会選挙の決着を着けることがこの決闘の目的だ」
私はそう言い、梓沼と卓城の間に入った。
「だから、追加ルールといかないか?」
「追加ルール?」
「ああ。確かに私たちは君たちに勝った。だがそれではこの決闘に決着がついてしまう。だから、先に司令官が倒されたら負けにしないか。
君たちの場合は戸賀が、私たちの場合は霞ヶ崎が。この二人のどちらかが負ければ、その者が率いる陣営は敗北」
「ならとっとと仕留めにーー」
「ーー待て。話は最後まで聞け」
先走る梓沼を止め、私は真剣に言った。
「この戦いで、司令官以外が司令官に攻撃をするのを無しとする。つまりは、一対一の一騎討ちだ」
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そこは霞ヶ崎陣営の拠点。
そこには生徒会長の霞ヶ崎と生徒会補佐員の暁幹太がいた。そこへ一人の女性が赤いペイントが塗られた刃のない刀を手にし、暁幹太を赤いペイントに染めた。
「誰だ」
霞ヶ崎は咄嗟に拳銃型のペイント銃を構え、その女性へ向けた。
「戸賀……なぜここに!?」
「霞ヶ崎、勝負をしよう。一対一で、決闘を」
「今行われている決闘はどうなる?」
「もうじき終わるだろう。だから、それが終わる前に、」
「私たちで決着を着けようというのか」
「そうだ」
戸賀はいたって真剣であった。
それは演技などではない、彼女は本気で一対一を望んでいる。
「確かにそうだな。決闘で決着が着こうとも私は満足できない。好敵手であるお前と出会えたことに、私は心の底から喜んでいるぞ」
「私も同じだ。だから、」
「ああ、」
「始めるぞ。準備はできているか」
「答えはyesだ」
霞ヶ崎は、後ろに布を被せて隠しておいた直径三メートルはあるガトリング砲を戸賀に披露した。そしてその後、すぐさまガトリング砲を起動させた。
「青く染まれ」
青いペイント弾が木や簡素な素材で作られた拠点を破壊し、青く染める。戸賀は机を倒して壁にし、崩れていく拠点の外へと移動した。
拠点は完全に崩れた。その中から、霞ヶ崎は青いペイントが塗られたゴムナイフと拳銃型のペイント銃を手にし、戸賀へと走り抜けた。
「さあ来い」
戸賀は赤いペイントが塗られた刃のない刀を構え、霞ヶ崎と攻防を繰り広げていた。
一進一退の攻防、互いの強さはほぼ互角、動体視力、判断能力、その他諸々、それら全てが彼女らは互角であった。
戦いの最中、戸賀の刀は折れた。戸賀は刀を捨て、腰に下げていた拳銃型のペイント銃を抜き、霞ヶ崎へ放った。霞ヶ崎はナイフで受け止めるも、それは宙を舞って吹き飛んだ。
互いに武器は拳銃のみ。互いにそれを相手に向ける。
霞ヶ崎の向ける拳銃は戸賀の額へ銃口を向け、戸賀の向ける拳銃は霞ヶ崎の額へ銃口を向けていた。
「霞ヶ崎、相変わらずお前は強いな」
「ああ。戸賀こそなかなかに手強い相手だったよ」
「「これで終わりだ」」
両者の弾丸が両者の額をそれぞれの色で染めた。
互いに倒れ、転がった。
そこへ丁度良く、文月らは到着した。
そこで見たのは両者が額をペイントで染められて倒れている姿であった。
「霞ヶ崎、これはどっちの勝ちなんだ」
「勝ち負けなんかないさ。この決闘は、引き分けだ」
戸賀は声をあげて笑った。
「そうか。決着はつかないか」
「だが、良い勝負だっただろ」
「ああ。最高に面白かったよ、霞ヶ崎。だからさ、また今度戦おうぜ。次は絶対に勝つからさ」
「ああ。望むところだ」
霞ヶ崎と戸賀は拳をぶつけ合った。
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冬島は全知に呼ばれ、全知専用の部屋へと呼ばれていた。そこに王様の如く座る彼は冬島へ言う。
「冬島、結局あの決闘に決着はつかなかったんだろ」
「ええ」
「確かあの決闘で負けた方はクビだったよな。ならどっちもクビで良いんじゃないか。そっちの方が面白そうだし」
「いえ。あの二人はもう少し見ておいた方がよろしいと思いますが」
「君がそんなことを言うなんて。この決闘で何か面白いものでも見れたのか?」
「強いて述べるならば、女同士の友情、というやつが見れたということでしょうか」
「君、意外とそういうところがあるんだね。まあ良いけど。じゃあしばらくは楽しみにしておこうかな。彼女ら二人の活躍を」




