絆の証明、夕焼けの約束①
七月十日。
戸賀との一戦からまだ数日しか経っていないというのに、十器聖のとある人物が私の前に現れた。
彼女は笑みを浮かべ、眼鏡越しに私を見ていた。
「やあ。君が文月京か」
「私に何か用か?」
「君に決闘を申し込みに来たんだ。私さ、君の噂を聞いた時からずっと戦いたかったんだよ」
まるでぶりっこのように彼女は私へ話しかけている。
「決闘から十日、その期間の間は決闘を申し込んではいけない。それを分かっているのか。十器聖、南」
私と彼女の間に割って現れたのは、生徒会長ーー霞ヶ崎小雪であった。
「これはこれは、生徒会長さんじゃないですか。もしかしてー、話を聞いていたんですか、盗聴ですよ盗聴」
明るいアイドルのように、気さくに霞ヶ崎へ話していた。
「おい、初対面でよくそんなしゃべり方できるな」
いいや、初対面かよ。
初対面にしては鬱陶しい喋り方に、私は静かに驚いていた。
「でもその校則って、あくまでも意思なんですよ。義務ではない。つまりはですねーー」
「ーーアホか。その決闘は必ず受けてはいけない。それは意思ではなく義務だ。故に南、七日経ってから決闘を挑め。さもなくば退学処分だ」
「ちょ、それはなくね。退学処分って、ちょ……」
さすがに声も出なくなり、南は言葉に詰まった。一度咳払いし、落ち着くと、彼女は言う。
「まあ良いや。逆に言えばあと七日待てば君と戦えるってことでしぃ。なら大満足だよ。だから七日後、私が一番先に決闘を申し込むから。それまで絶対に他の人からの決闘は受けないでよ」
そう強く私へ言うと、南は私へ手を振り、駆け足で私のもとから去っていく。
もう何人もの十器聖と戦い、私の心身はへとへとであった。思わず深いため息をついた。
「文月、疲れているのか?」
「ええ。ここ最近十器聖によく決闘を申し込まれていてばっかりでしたので……」
「そういうことか。なら今日一日私とともに来ないか?少しは君の心を和らげることができるかもしれないからな」
霞ヶ崎に連れられ、空飛ぶ車に乗って二十分、私はとある場所へと来ていた。
そこは学園の敷地の中にある場所であった。だからこそ、私はそこから見える景色を見て驚いていた。
「ここがこの学園随一の名スポット、オーシャン街道だ」
そこに広がっていたのは、ライムグリーン色に輝く神秘的な色をした透き通るような海、そのど真ん中を巨大な橋が一本かかっていた。その橋の先には島がひとつポカンと存在していた。
「これは……」
「この学園には絶景が見れる場所が幾つかある。そのひとつがここだよ」
「この学園、相変わらず規格外だな」
この学園にはまだまだ私の想像の遥か先を行く。
圧倒的すぎるこの学園の巨大さに、私はただただ驚くばかりであった。
「文月、君には悩んでいることがあるのだろう。それは君がいつも飲んでいるキワノのフルーツジュースを見て分かっていたよ」
「キワノ……でですか?」
「誕生果というものがあってな、キワノは三月二十四日の誕生果でな、その意味は"私を拒絶しないで"という意味だ。そして人はな、自分の中にある心が気付かぬ内に外側に出てしまうことがある。それが君がキワノを飲みだした理由にもなるのだろう」
「気付いていたのですね」
「私が君の悩みを共に背負おう。だから私に教えてくれないか。君が背負っているものを。その悩みを」
霞ヶ崎は私の方を向き、真剣にそう言った。
私はキワノというものへ執着した元凶である悩みを分厚い氷の中へと閉じ込めたーーはずだった。私はその悩みを誰にも打ち明けてはこなかった。だけど今、霞ヶ崎は私の悩みへと向き合おうとしてくれている。
私は彼女を前にし、氷が溶けていくような気持ちを抱いた。そんな気持ちの中で、私の中にある悩みを吐き出した。
「霞ヶ崎、聞いてくれるか。私の悩みを」
「うん。だから話して。君が抱えているその悩みを」
ーーこの日、私は初めて悩みを打ち明ける。




