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災世のディザイアスター  作者: 和尚
第1章 ディストピア2068
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第20話 レックスVSナイトローラー



「いったいどうなってんだよ!? 何、今日『ナイトローラー』の同窓会か何か?」


「だとしたらさしずめ俺達はその席で振舞われるご馳走かね? 縄張りの外まで食べに来られるとは、人気者ないし人気店は辛いというべきなのかどうか」


「特務部隊は三ツ星レストランじゃないよー!」


「アホなこと言ってる場合じゃないっすよ! どうすんすかコレ、まだ最初の一匹も仕留めてないのに、あの転がるの相手に乱戦とか悪夢以外の何物でもないってあたしでもわかるっすよ!」


 ロイド、ハルキ、メリル、アキラがそれぞれ軽口を――ただしそれは言葉の上だけで、皆、緊張感は多分に持っているとわかった――言い放つ中、ファウーラは素早く対応を考える。

 立案に要した時間は、一瞬だった。


「シャドー1は先程の指示通り、手負いの雌にとどめを。掩護はシャドー5のみが残りなさい。シャドー3、シャドー6並びにシャドー7は、私と共に向かってくる新手2匹の相手をします。シャドー1とシャドー5は片付き次第こちらに加勢を。シャドー2及びシャドー6には、調査班の護衛と周辺警戒を一任します。後続の敵が来たらすぐに知らせなさい、以上!」


 指揮官にふさわしいと言える、よく通る声と強い口調で言い切ったファウーラ。

 それを受けて、こういった場面になれていないハルキ達も含め、一斉に動く。


 シドは手にしていたアサルトライフルをしまうと、背部、腰のあたりから何かを取り出した。

 それは、大きさこそ巨大だが――もっとも、AWが扱うことを考えれば適当なサイズである――ナイフだった。AW用の接近戦用装備ということなのだろう。


「掩護しろ! 接近戦で仕留める!」


「うぇ、クロスレンジでやるの、シド!? アレ相手に……大丈夫?」


「問題ない、『ブラムスター』は元々そういうコンセプトで作られた機体だ。さっきまでの戦いで操作感もわかった、手負い相手ならいける。それと……新入り2人」


「あん? コールサインどこいったよシャドー1番」


「やかましい、貴様こそ使う気がないならいっそ名前で呼べ、中途半端に呼ぶとそっちのが迷惑だ。……一応言っといてやる、無茶はするなよ」


「……はい?」


 通信の向こうから聞こえて来た言葉が予想外のそれだったのだろう。声だけでも、ハルキがきょとんとした表情になっているであろうことが、聞いている者にはわかった。


 その元凶である、意外な言葉……ないし助言を発した張本人はというと、特に気にした様子もなく、


「仕留められそうならそうしろ。強力な機体であることは聞いているし、隊長がその力を振るう場面を実際に見ていることを聞いても、その力は本物なんだろう。だが、戦場は何がきっかけでどう転ぶかわからないものだ。正規の戦闘訓練を積んでいないお前達にはきつい場面もあるだろう……そういう時は無理せず防御と回避に徹して、俺達が到着するのを待て。無駄死にだけはするな」


「…………」


「……あー……何となく気持ちはわかるけど、こいつこういう奴だから気にしないどけ。な」


 何も恨みを買ってなどいないはずなのに睨みつけられ、口を開けば悪態をつくか舌打ちされ……お世辞にもいい印象を抱いているとは言えなかったシドから、あまりにもさらりと、自分達の身を案じる言葉が出て来たことに、しばし言葉を失うハルキ。

 ついでに言うなら、その後ろに座っているアキラも同様であった。


 一般人だからとか、軍人より軟弱だからという理由で見下しているトーンではない。繰り返しになるが、普段の態度からは想像できない、本当にこちらを心配している言葉だった。


 しかし、ロイドの言葉で、とりあえず放心から脱却はしたハルキは、どうにか頭を回転させて、言うべき言葉を選ぶ。


「……あー……忠告感謝する。油断・慢心しないように望むことにするよ」


「そうしろ。訓練もろくにしていない素人に、いきなりの実戦でこの局面はきついだろうからな」


「あー、おう。じゃあ、ついでに俺からも一言。大きなお世話かもしれないが……手負いの獣ほどむしろ危険なもんだ。そっちも気をつけろよ」


「釈迦に説法だな。そろそろだ、前見ろ……武運を祈る」


「そっちもな」


 その言葉を最後に、2人は黙り……それぞれの戦場へ向かった。


 シドはAW用ナイフを手に、手負いのナイトローラーへトドメを指すべく突撃していく。後方からは、援護のためにメリルもそれを追う。


 あの巨体をひっくり返し、その刃を喉元か、あるいは心臓のある位置に突き立てれば終わる。

 しかし、それは言うほど簡単ではないことは、最早誰が語るまでもないことだ。


 2機が単に近づいてくるからか、あるいはその敵意を野生の勘で感じ取ったからか、瀕死の雌は口を開けて牙をむき、唸り声を上げて威嚇する。

 力が残されていないとしても、大人しく刈られるつもりはないということだろう。


 一方、いよいよ土煙のみならず、その突進に跳ね飛ばされる砂利や小石までもが見えるようになってきた、新たなる2匹の雄については、ファウーラとシド、それにハルキとアキラが迎え撃つ。


 最初から戦闘に移るつもりなのだろう。スピードを緩める気配もなく突っ込んでくる2つの巨体を前に、ファウーラは手に持っていたライフルにちらりと目をやり、


「あの突進を止めるにはグレネードが要ります。地面に凹凸を作って勢いを削ぐのですが……」


「すいません隊長。俺の機体は今日はグレネードランチャーは持ってなくて……セリアかクリスから借りてきますか?」


「時間がありません。片方……向かって右の個体は私が止めます、あなたはその援護を。もう1匹は……任せてもいいですか、シャドー6、シャドー7?」


「了解、任されました」


「やってやるっすよ!」


 そう返して、2人はロイドと入れ替わるように左側へ移動する。

 ロイドが代わって右側へ移動しつつ、『何か軽いな』『大丈夫かなこの2人』と内心考えていたが、すぐに敵が目の前に迫っていることを思い返し、思考をそちらに集中させる。


 転がってくる球体。その前方に、先程のシドと同じようにファウーラがグレネードランチャーを放つ。

 着弾し、クレーターが形成され……それに足を取られ、回転のペースが乱れた球体は、これまた先程と同じように急速に減速した。


 それを確認した2人……ファウーラとロイドは、やはり先程と同様、それを挟み撃ちにするべく2咆哮に散開する。


 一方、もう1匹を受け持つことになった2人……ハルキとアキラはというと、


「さて、どうするっすかハル? こないだみたく尻尾でびたーん、っすか?」


「いや……折角教えてもらったんだ。一度、正攻法での攻略って奴を試してみるのも悪かねーだろ……爆弾で穴、作るぞ」


「おっ、なるほど……了解っす!」


 そう答えると、アキラは思考操縦で『レックス』に指示を出し、搭載している火器を準備する。ハルキはその間、射撃しやすいように少しかがむように『レックス』の姿勢を調整していた。


 ハルキとアキラの間には、『レックス』に乗る際、『役割分担』のようなものができていた。それも、何かきっかけがあったわけではなく……なんとなく、という理由で。

 より正確に言えば、初戦、『炭鉱アリ』の大群と戦った時に、どちらが何を言うでもなくその役目をそれぞれが受け持ったことが、きっかけと言えばそうなのだろう。


 ハルキは、『レックス』そのものの機体操縦を受け持つ。

 アキラは、『レックス』に搭載されている兵器類の管制を受け持つ。


 格闘戦で爪や尻尾を振るったり、牙で噛みついたりするのは、ハルキの役目。

 遠距離戦、あるいは面制圧のために、銃火器を操るのが、アキラの役目だ。


 ゆえにこの時、アキラは動いていた。

 思考によって『レックス』の兵装を操作し……背部に装着されている武装ユニットから砲身を伸ばす。そこに充填されていく赤いエネルギーは、ほんの数秒で準備を終え……放たれる。


 ――ドドドドゥン!!


 放物線を描いて飛ぶ赤い光弾が4つ、『ナイトローラー』の進行方向すぐ前に着弾し、炸裂した。


「発射!」


「次からは撃つ前に言えよ、アキ。それと……」


 爆発と同時に巻き起こった土煙が晴れる。

 そこには……無残に甲殻を粉砕され、息も絶え絶えになって転がっている『ナイトローラー』がいた。当然ながら、丸くなる防御形態は解除されており……明らかに、先程シドたちが攻撃していた固体よりも重傷だ。


 着弾点を中心として広がったらしいクレーターは、ファウーラやシドが作ったものよりもはるかに大きく、『ナイトローラー』が転がっていた地点をもその範囲内に含んでいる。


「なんか、下準備のはずが致命傷になってるっぽいんだが、俺の気のせいか?」


「あー……兵装の威力を把握しきれてないのは、落ち度は認めるっす。色々確認が必要っすね」


「いや、それは俺も同じだし……」


 後はトドメを指すだけに見えるこの状況、『レックス』のコクピット内は何とも言えない空気に包まれていたが……そこに、緊迫した声が通信で飛び込んできた。


「こちらロイド! すまん、こっちに来たナイトローラーがそっち行った! 対応が難しければ回避して……っておい!? 何したのお前らそれ!? 何かまぶしかったなとは思ったけども!」


 恐らく、通信の途中でハルキ達の方に目をやったのだろう。明らかに仰天している空気が通信の向こうから伝わってきたが……それよりも気にすべきことを、ロイドは先に行っていた。


「悪り、ロイド、後で話す。つか何、もう1匹取り逃がしたって?」


「え? あ、ああ、おう。すまん、一度はスピード弱まったんだが、そのまま止まらなくて……転がってる最中じゃこっちの攻撃もほとんど通らなくて、突破されちまったんだ」


 ロイドの言う通り、先程の勢いを取り戻して突進してくる『ナイトローラー』の姿が、『レックス』の全天モニターには既に映っていた。まだ少し距離はあるが、方向転換してこちらを目指して転がってきている。


「それでその……でも、なんかそっちの奴の惨状を見ると、別に大丈夫そうな気もするな……えっと、そいつも何とかなったりする?」


「普通にいけると思うっすけど……ハル?」


「……火器は使わないでいくか。うかつにやったら地形変わっちまうよ」


 さらりととんでもないことを言うハルキ。そして、『冗談だ』と言う様子もなく、共に乗っているアキラも『そうっすね』とそれを肯定する始末。

 さらには、それが冗談でも誇張でも何でもないことは、目の前の光景が証明している。


 そして、唖然としているロイドの目の前で……鋼の恐竜が動き出した。


 動かしているのはハルキだ。先程のアキラと同じように、思考操縦で。


 突っ込んでくる球状の巨体を前に、先日と同じように……しかし、今回はより力強く、踏み込みの勢いを乗せるようにして、尾を横一線に振るう。



 ――バキィ!! ドッゴォォオオン!!



 そして、その一撃を受けた『ナイトローラー』は、やはり前回と同じように吹き飛んだ。


 それを見ていたファウーラは、いつ見ても非常識という他ないその圧倒的なパワーに感心し、初めて見るロイドは、顎が外れんばかりに口を開けて驚愕していた。

 それもいつかの繰り返しになるが、AWの装甲を容易く粉砕する『ナイトローラー』の突進が、ああも容易く粉砕されたとなっては……無理もないが。


 だが、当たりどころがよかったのだろうか。今回の相手は、無残に甲殻が粉砕される、などということにはならず、大ダメージを受けただけでそこに転がっていた。


 しかし、動けないことに変わりはない。

 『レックス』はそのそばに歩いて行き、トドメを刺そうとその牙をむいた……その瞬間。


 瀕死だったはずのナイトローラーが、その体を再び丸めた。


 それだけならば、問題なかっただろう。防御を固めたところで、『レックス』の攻撃力に対抗できないことは、もう既に証明している。

 恐らく、『ナイトローラー』自身にとっても、苦し紛れにとっさにとった抵抗だったのだろう。


 だが、そのタイミングがある意味で絶妙で、最悪だった。


 ―――ガチッ!!


「い゛!?」


「うぇ!?」


 思わず変な声を上げて驚くハルキとアキラの目の前で、それは起きていた。


 『ナイトローラー』は、よりによって『レックス』が噛みつこうとしたその瞬間に体を丸めてしまい……そのせいで、なんと球形の体ががっちりとその顎にはまってしまったのだ。


 その姿はまるで、間違えて大きな岩に噛みついて抜けなくなったトカゲか何かを彷彿させた。

 ほとんど限界、あるいはそれ以上に口を開いた状態で、噛み千切れない強度のものを口に含み、結果的にその口部分が無力化されてしまったような、間の抜けた姿に見えた。


 しかし、それを見ていたロイド達にしてみれば、笑いごとではない。

 もし今見ているものが、見た目通りの結果をもたらすならば……使えなくなったのが口だけとはいえ、手札の1つを封じられているに等しい。


 それだけならまだしも、あの状態で抜けないというのであれば……頭に特大のおもりがついていることになる。いかに『レックス』が馬力がある機体であるといえど、動きどころか重心も狂わされるそんな状態では、ろくなパフォーマンスを発揮することはできないだろう。

 

 それをわかっているからこそ、ロイドは焦ったが……この時、彼は半ば失念していた。

 たしかに、見た目そういう形になってしまっているのだから、そういう発想が出てこないのも致し方ないのかもしれない。『あの状態から抜け出すのは自力では不可能だ』と。


 だからこそ、



 ―――バキバキバキィ……バツンッ!!



 その状態から、顎の力だけで、甲殻ごと『食いちぎる』という発想が出てこなかったのも……仕方ないのかもしれない。

 『ナイトローラー』の甲殻の強靭さはよく知っていて、かつ、今の『レックス』と同じような、あるいは似たような状況になった例など知らないのだから、まず頭に浮かぶイメージからこの後の展開を予測してしまうのは仕方ない。


 その下の肉ごと、甲殻をごっそり持っていかれた、間違いなく致命傷であろうナイトローラーは……ほぼ断末魔と言っていい悲鳴を上げて、その場で激痛にのたうち回って苦しみ……


「あー、びっくりした」


「だめっすよハルキ、油断しちゃ……シドに笑われるっすよ」


「……そりゃ面白くねえな。よし、今度から気を付ける」


 そんな、パイロット同士の緊張感のない会話と共に、前足の爪を振り下ろした『レックス』によって、頭と胴体を泣き別れにされ、間違いなくとどめを刺された。





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