↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/6

愛娘

4.愛娘


「白崎。次の依頼だ」

御堂は澪に資料を差し出す。

対象者は――沈黙の会計士、三上智久(みかみ ともひさ)。裏組織の資金洗浄を担当していた男だ。

「会計士…」

「彼が突然、組織の金の流れを記したデータを持ち出して逃げた。敵も味方も、彼を追っている」

「つまり、命を狙われている?」

「あぁ、そうだ」

御堂は頷いた。澪は資料に目を通す。

「依頼主は娘さん?」

「そうなんだ。父親を心配しているのだろう」

澪は依頼主のところへと向かった。


公園内、ベンチの隅に彼女はいた。ベンチに座っていたのは三上ひかり。まだ、小学一年生の幼女だ。

彼女は澪を見つけると、深く頭を下げた。そして、澪に告げる。

「父を、三上智久を、社会から葬って下さい」

「え!?」

澪は驚く。

「ひかりちゃん、一体、どういう…」

「もちろん、生きたまま刑務所へ収監されるようにしてほしいという意味ですわ」

ひかりはまっすぐ澪の目を見る。

――やっぱり、ちゃんとお父さんのこと心配してるんだ。

澪は安心した。

「お父さんはどこに?」

ひかりは俯いた。

「ひかりが好きな場所に行くって言っていましたわ。でも、心当たりがなくて」

澪はしゃがみ込み、ひかりの目線に合わせた。

「大丈夫。一緒に探そう」

「はい。父の御命、お預けします」

澪はひかりの言葉に頼もしく頷き、彼女の手を取った。


澪は、ひかりの話を聞きながら、色々と考えた。

「好きな場所、……公園? 図書館? 学校?」

「分かりませんわ」

ひかりは首を振る。

「ちなみに澪さんの思い出の場所ってありますか?」

ひかりは聞く。

「そうですねぇ。うーん、誕生日に行ったテーマパークでしょうか」

澪は微笑む。すると、ひかりが目を大きくする。

「それですわ!」

「えぇ!? どれですか!?」

澪はひかりを見る。

「去年の誕生日プレゼントは水族館のフリーパスでしたわ!」

ひかりは思わず、ベンチから立ち上がる。

「うん、行こう!」

澪も立ち上がった。


水族館内。そこに三上はいた。

――ここの施設にデータを隠せば、きっと。

三上は考えていた。どうすれば、敵から、警察から逃れられるのかを。

イルカショーのプールがオレンジ色に染まる。もうすぐ日が沈む。

「お父さん!」

三上はその声に振り向く。そこにいたのは、世界一大切な愛娘、ひかり。

「……ひかり」

思わず、名を呼ぶ。

しかし、その瞬間、事態は一変した。

「見つけたぞぉ、三上ぃ」

反社、天宮組の若頭、今井がいた。

「い、今井」

三上は怯えた。すると、澪はその間に割って入る。

「あなたは?」

今井が笑みを浮かべる。

「三上さんのボディガードです!」

澪は声を大きくする。

「へぇ。なんやえぇかっこつけしいぃやなぁ。……皆、やれ」

その一言で、今井の後ろにいた若い衆が飛び出してくる。

「くっ」

多勢に無勢。でも、澪が勝つ。人工皮膚が剥がれても。

「うわぁぁ!」

最後の一人が澪に吹き飛ばされた。

「うぐっ」

誰一人、立ち上がれない。

「なんやなんや、なさけねぇやつら」

今井は顔を歪ませる。

「お前、サイボーグか。適材適所でえぇね」

今井は嫌味を言う。

「三上ぃ! 覚えとけ」

今井は立ち去っていった。


「お父さん!」

ひかりは三上に駆け寄る。

「ひかり、どうして」

三上はひかりに手を伸ばすが。

「お父さんのためじゃないです。私自身のためですわ」

ひかりは彼の手をはねのける。

「警察には、もう通報しました。三上は水族館にいると」

ひかりの瞳から涙が流れ落ちる。

「しばらく、さよならですわ」

ひかりはそう言うと、背を向けて走り去った。

「ひかり!」

三上はしばらく、無言で泣いていた。澪はその様子をじっと見ている、ただただ、黙って。

「私のことは放っておいて、ひかりを追いかけてください」

三上が沈黙を破った。が、しかし、澪は動かない。

「これは依頼主からの命令です。対象者を生きたまま、警察に引き渡すこと」

澪は答える。

「ははっ。君は脳まで機械なのか?」

「いいえ。脳は生身です」

「聞いてみただけだ。サイボーグは身体が機械なだけだろう」

「えぇ」

パトカーのサイレンが聞こえてきた。


――三上氏に幸多からんことを。

澪は三上の背中を見送った。そんな澪の背中をひかりは見ていた。

「ひかりちゃん!?」

振り返った澪は彼女を見つけた。

「どうして、最後に…」

「いいの、これで。こうじゃなきゃ、父は後悔しないですわ」

ひかりは澪を見上げる。そして、微笑む。

「ありがとう、澪さん」

ひかりはそう言うと、走り去っていった。


相馬医院。澪は今日も保護テープを巻いてもらっていた。

「酷いですね」

優斗は保護スプレーで少し、人工皮膚を修復させる。

「え!? ここ人工皮膚がごっそりない!?」

「…ごめん」

澪は申し訳なくなる。

「澪、頑張りすぎ」

優斗は思わず、笑う。天使の羽根が舞うように。

「今日は仕方ないから、保護テープを巻いておくけど。今度、人工皮膚の取り換えね」

「はい」

澪も微笑む。

「でも、少々問題が」

優斗は人差し指を立てる。

「焼肉食べ放題の費用が人工皮膚取り換えで、数十回分、吹っ飛びます」

「えぇ!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。