知らせ
数日後。
黒川はよろずやの依頼を終え、車へ戻るとスマートフォンが震えた。
画面には「佐久間翔太」と表示されている。
「もしもし。」
『翔太です。』
「ああ。」
『この前の男の子ですが。』
「……ああ。」
『命に別状はありません。』
黒川は短く息を吐いた。
『まだ入院は続きますが、容体は落ち着いています。』
「そうか。」
少し間が空く。
『退院しても自宅には戻れないそうです。』
「……。」
『児童相談所が保護することになりました。』
「分かった。」
『それだけです。』
「ああ。」
電話が切れた。
黒川はスマートフォンをポケットへしまい、しばらく動かなかった。
やがてエンジンをかける。
車は病院とは反対方向へ走り出した。
◇
翌日。
午前中の依頼を終えた黒川は、昼過ぎに病院へ立ち寄った。
受付で名前を伝える。
翔太が顔を出した。
「仕事ですか。」
「ああ。近くだった。」
「少しなら大丈夫です。」
黒川は軽くうなずく。
病室の扉は開いたままだった。
ベッドでは少年が眠っている。
腕には点滴。
顔色はまだ悪い。
黒川は数秒だけその様子を見つめた。
「……。」
何も言わず病室を出る。
「もう帰るんですか。」
「ああ。」
「また来ます?」
「仕事のついでにな。」
黒川はそれだけ言うと病院をあとにした。
その日の夕方。
橘家ではいつも通り夕食の準備が始まっていた。
「黒川、醤油取って。」
「ああ。」
誰も、黒川が病院へ寄ってきたことは知らなかった。
夕方。
美琴が最後の皿を食卓に並べる。
「ご飯できたよー。」
居間にいた面々が席に着こうとした、その時だった。
ガラッ。
「腹減った。」
玄関が開き、一人の青年が当然のように入ってくる。
美琴は振り返って笑う。
「また来た。」
「腹減った。」
「それしか言わないの?」
「今日はハンバーグ?」
「そうだけど。」
「じゃあ当たり。」
「人ん家を定食屋みたいに言うな。」
黒川が呆れたように笑う。
「お前、今日も来たのか。」
「来ちゃダメ?」
「誰もそんなこと言ってない。」
祖母が台所から声をかける。
「悠人さん。」
「はい。」
「手を洗ってきなさい。」
「……はい。」
さっきまでの勢いはどこへやら、悠人は素直に洗面所へ向かった。
それを見て美琴が笑う。
「おばあちゃんだけには勝てないんだよね。」
「昔からだな。」
「言うなって。」
悠人が戻ってくる。
祖母は何も言わず、茶碗を一つ差し出した。
悠人も何も言わず受け取る。
「いただきます。」
食卓に「いただきます」が重なった。
「で、今日は何してたの?」
美琴が聞く。
「昼まで寝てた。」
「やっぱり。」
「そのあと畑の水やり。」
「それは助かった。」
「でしょ?」
「そのあとまた寝た。」
「結局寝るんかい。」
食卓に笑いが広がる。
黒川も小さく笑いながら箸を動かす。
橘家の夕食は、今日もいつも通り賑やかだった。




